放置され、生きるためにゴミを食べる子どもたち 心の傷を癒やすには——

2019年01月10日

マラカル文民保護区で暮らす子ども © Albert Gonzalez Farranマラカル文民保護区で暮らす子ども © Albert Gonzalez Farran

親とはぐれ、住むところも食べるものもない子どもたちがいる。南スーダンの上ナイル州、隣国スーダンとの間に広がるマラカル文民保護区は、紛争から避難した人を受け入れる国連のキャンプだ。ここには家族とはぐれた子どもたちが多く暮らしている。南スーダンにある国内避難民キャンプのなかで最も人口密度が高いのに、マラカル文民保護区では1人で暮らす子どもがますます孤独になっている。国境なき医師団(MSF)の病院には、そうした幼い患者が心に傷を抱えてやってくる。 

家族を守るため子どもを置いて…

マラカル文民保護区内の溝で遊ぶ子どもたち © Philippe Carr/MSFマラカル文民保護区内の溝で遊ぶ子どもたち © Philippe Carr/MSF

マラカルの町で暮らしていた母親たちは、家族を連れて紛争から逃げ、北にあるスーダンの難民キャンプへ行く人もいる。その時、子どもを残していかざるを得ないことがある。12歳以上の男の子は「闘える年齢」と見なされて、キャンプ周辺をうろつく武装勢力に狙われてしまうからだ。家族の身を守らなくてはならない。

置いていかれた子どもは、キャンプで暮らす以外にない。家族もなく、キャンプは実質的に“野外の監獄”だ。キャンプで生まれ育った子どもたちは外の世界を目にすることがないまま育っていく。

マラカル文民保護区には、現在およそ2万9000人が暮らしている。国連平和維持軍が守る金網フェンスの内側は安全ではあるが、中で生きる人が未来を切り開くあてはない。このキャンプは建設されてから4年になるが、厳しい暮らしが続いている。 

放置された子どもたち

保護区内には雑貨や子どもの洋服を売る店もある © Philippe Carr/MSF保護区内には雑貨や子どもの洋服を売る店もある © Philippe Carr/MSF

キャンプのいたるところに、親とはぐれた子、「ネグレクト」された子や孤児がいる。集団で路上生活をし、食料配給を受けられずにゴミを食べている姿もときどき見かける。

マラカル文民保護区の3人に1人は18歳未満だ。教育機関や仕事はほとんどない。MSFの准医師、オクム・ステフェン・ポール・ジャンベは「年長の子どもたちの方がストレスは強いかも知れません。学校へ行けませんから」と話す。「学校のような場所は心の健康に重要で、子どもたちは放置されると進むべき方向を見失ってしまいます」

10代の若者は、ストレスを抱えて退屈しているだけでなく、将来の見通しが暗いこともよくわかっている。結婚に必要な持参金や牛を手に入れる手段はない。どちらも南スーダンでは社会的地位の指標で、文化的に重要な位置を占めるものだ。キャンプにとどまっている限り不安定な状態は続くため、不安が募り、うつになる子どももいる。 

子どもには厳しいキャンプの暮らし © Albert Gonzalez Farran子どもには厳しいキャンプの暮らし © Albert Gonzalez Farran

辛いのは男の子ばかりではない。親がいないか死んでしまった女の子は、家長として家族の面倒をみることになり、その状況から抜け出せなくなる。学校は退学しなくてはならず、将来の希望も消えてしまう。

キャンプで何人が心の傷の問題を抱えているのか、正確な数を出すのは難しい。だが、MSFの病院にはここ10ヵ月の間に350人の新規患者が心の不調を抱えてやって来た。その他に、303人が心理ケアセッションを受けている。患者の半数以上は暴力を受けた経験や、愛する人をなくしたり離れ離れになったりしており、深刻な心のトラブルを抱えていた。

キャンプで暮らす子どもにとって、心の問題は不安やうつから始まり、ときに自傷行為や自殺にすらつながる。2018年1~6月までに、MSFは自殺未遂を試みた子どもと若い成人24人をケアした。他の医療団体も診療を行っているものの、自殺未遂や自殺が報告されないことは多い。 

泣き叫び、悪夢を見る

多くの子どもたちが戦闘を体験し、心に傷を負っている © Albert Gonzalez Farran多くの子どもたちが戦闘を体験し、心に傷を負っている © Albert Gonzalez Farran

戦争は、子どもの心に深い傷を残す。戦闘が最も激しかった時期に、大勢の子どもが家族や隣人を殺されたり傷つけられたりするのを見てきた。2014年だけでもキャンプ住人が暮らしていたマラカルの町は10回以上も支配勢力が変わっており、それぞれの勢力が角を突き合わせて闘ってきた。

キャンプ内でも、国連による安全措置にもかかわらず緊張と暴力が根強く残っている。2016年にはキャンプの中で戦いが起き、推定40人が死亡、仮設住居の3分の1が全焼した。

「子どもはこうした事件を覚えていて、大人が暴力について話しているのを聞くだけで、心の傷を追体験することがあるんです」とジャンベは話す。

MSFの心理ケアカウンセラー、ダン・タプも、「夜になると泣き叫び、悪夢を見て、おねしょをします。これはすべて、心のトラブルのサインです」と話す。他にも、攻撃的な行動や現実逃避などの症状が見られる。 

孤独を打ち破るために

伝統的な音楽やダンスで孤独を防ぐ取り組みも © Philippe Carr/MSF伝統的な音楽やダンスで孤独を防ぐ取り組みも © Philippe Carr/MSF

MSFの心理ケアチームには、准医師と心理療法士、精神科医がおり、その仕事を地域の保健担当者が支えている。地域保健担当者は定期的にキャンプ内を回って心の健康について話し、助けが必要な人を見つけ出すと、心理療法や、極端な場合には薬の処方も受けられるようにする。

一方、地域側も自分たちにあったやり方で心の健康問題に対応している。キャンプ住民が集まって、宗教的な催しやスポーツ・イベントなどの活動をしている。土日の夜には、男女対抗の伝統文化ゲームが行われ、ドラムとダンスの音でキャンプ中がライブ感に包まれる。MSFのラマクリシュナン医師は、こうして一緒に何かをすることが極めて重要だという。孤立感を打破し、仲間意識を育むことで“一人ぼっちではない”と誰もが感じるようになる。 

年長の子どもたちはキャンプの外で役立つ技能訓練もしている © Philippe Carr/MSF年長の子どもたちはキャンプの外で役立つ技能訓練もしている © Philippe Carr/MSF

キャンプ内には、幼い子どもたちの学校など「子どものための場所」を設けて、3歳から18歳までの子どもが遊んだり新しい能力を身につけたりできるようになっている。

それでも、キャンプの大変な住環境は心の健康に大きな障害となっている。心を立て直すためには、衣食住や医療などの基礎的な生活が整っていることが必要だ。キャンプの運営側は最善を尽くしているが、それでもこうした生活基盤は大幅に不足している。

食糧配給が打ち切られたり、生きていくのにぎりぎりの量まで減らされたりするほか、水も、人道援助の基準に満たない量しか手に入らない場合がある。

人口過密もまた問題だ。キャンプ住民として地域のリーダーを務めるアバン・ヨルさんは「とにかく場所が狭いです」と話す。「子どもは、路上か細い通路しか遊び場がありません。どの家族も4㎡の居住スペースを与えられますが、それでは足りないんです」 

困難な状況のなかで回復への希望も

マラカル文民保護区内で暮らす幼い子ども © Albert Gonzalez Farranマラカル文民保護区内で暮らす幼い子ども © Albert Gonzalez Farran

見ていてくれる大人もおらず、ギャングに加わる幼い子どもや10代の若者もいる。2016年の戦いで全焼した区画で寝起きし、多くは現実逃避のため飲酒に走り、しばしば攻撃的な行動に出る。マリサと呼ばれるモロコシの蒸留酒がキャンプのいたるところで大きな樽に詰めて売られているが、アルコール中毒の治療はほとんどできない。MSFはときに子どもを入院させて数日間断酒させることもある。だが、退院するとまた飲酒し始めてしまう。

絶望的な状況や、治療が難しい環境ではあるが、それでも心の病からの回復は可能だ。MSFは、回復が非常に困難とみられた症例も、ケアに成功している。

ラマクリシュナン医師は、ある患者について語る。「この女性はスーダンから帰国したのですが、こちらの生活がつらく、親戚からも見放されつつありました。ボーっとして歩き回っている姿を見かけたことがあります。身なりにも構わなくなり、服を着るのもやめました。周りの世界にまるで関心がなくなってしまったのです」

3週間、MSFの治療を受けた後、この患者は完全に回復した。「今はすっかり元気で、マラカルの町で仕事もしています」 

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