シリア内戦: 1000万人の帰れぬ人びとを前に、あなたは?
2015年02月12日
北アフリカから中東へと広がった"アラブの春"はシリアへも及び、政府への大規模な抗議デモが繰り返されました。2011年3月、政府軍と反政府勢力との衝突で最初の犠牲者が出たことをきっかけに双方の対立が激化。ついには紛争となってしまいました。4年を経た今も収束の兆しが見えず、事態はますます混迷の度合いを深めています。
この危機から逃れるために自宅を離れた人は1000万人を超えています。難民キャンプや建設中の建物などで過酷な冬に直面している人びとに、国境なき医師団(MSF)はできる限りの医療・人道援助を無償で提供しています。
本特集では、シリア人の難民・国内避難民を対象とした活動の責任者たちによる報告と見解をお伝えします。人びとの"いま"を伝える写真集も併せてご覧ください。
シリアで高まる援助の必要性/村田慎二郎/シリア活動責任者
私は2012年5月から2015年2月の間、4度にわたり合計20ヵ月、国境なき医師団(MSF)のシリアのアレッポ県における活動責任者として医療・人道援助活動に従事しました。
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現地へ戻る度に状況が悪化していると感じていましたが、2011年に始まったこの内戦で亡くなった人の数は現在20万人以上にのぼり、国民のおよそ3分の1が避難民となり、そして今や国民の約半数が人道援助を必要としています。
「砲弾が町や村々に打ち込まれ、多数の死傷者が出た」「アレッポ市内でたる爆弾が投下された」「前線で激しい武力衝突があり、負傷者がMSFの病院に運ばれた」「現地の病院が攻撃され、医療従事者が殺害された」「スタッフの家族が空爆に巻き込まれて亡くなった」「スタッフがチェックポイントで逮捕された」「難民キャンプではしかが流行している」「子どもたちの頭はノミ、身体はダニにさされ、皮膚炎が流行している」。これらは、現地で日常的に聞いた悪い知らせのごく一部です。
周辺諸国のシーア派勢力から支援を受けるシリア政府軍、2013年から勢力を急拡大させた「イスラム国」、そしてスンニ派勢力がサポートする何百もの反政府軍が入り乱れるこの内戦下では、人道援助活動を行うための空間は縮小する一方です。40年以上前から数多くの紛争国・地域で活動し、「独立・中立・公平」を原則とするMSFも例外ではありません。
医療・人道援助活動における安全が保障されない状況を受け、2014年2月以降、私が統括するプログラムでは海外から派遣されるスタッフがシリア国内で活動することを取りやめました。アレッポ県にあるMSFの2つの病院は、現在もシリア人スタッフのみで援助を提供しています。
国際社会はいまだにこの問題に対し、政治的解決の糸口をつかめていません。この出口の見えない内戦における一番の犠牲者は、やはり女性や子どもを含む一般市民です。彼らは戦争ではなく、生きるために闘わなくてはいけません。運よく周辺諸国に逃れ難民キャンプに登録されても、家族や友人の多くを目の前で失くした子どもたちの心理的な傷跡は深刻です。難民キャンプの外では法律上の壁や言葉の違いにより、家族を養う収入を得られる仕事を見つけられる人はほとんどいません。
一方で、内戦下のシリア国内にとどまる人びとの多くは、国外に逃れる術さえ持たない貧しい人びとです。冬の時期の彼らの生活は特に厳しく、十分な暖房機器がないなか、空爆や砲撃に怯えながら、乳幼児でさえ、凍えるような寒さに直面しています。そんな中で雪を見ると、心が痛みました。
人道援助というのは、尋常ではない空間に少しでも尋常な空間を作ろうとする試みです。治安状況の悪化のため、MSFをはじめ国連機関や援助団体が活動できる範囲は限られていますが、この内戦における医療・人道援助の必要性は今後も高まるばかりだろうと容易に推測できます。この報告書ではMSFの活動に焦点を当てていますが、その対象である何百万の人びとの悲しみ・苦しみを、少しでもご想像して頂ければ幸いです。
『シリア危機 - 概況報告書 2015年1月』
シリア国内および周辺国で、MSFが活動を大幅に拡充した2012年から現在に至るまでの概況をまとめた報告書です。MSFによる医療・人道援助の具体的な実績や、現地でいま求められている援助がわかる内容となっています。ぜひご一読ください。
緊急援助活動にご協力ください
寄付をする※緊急支援対象から「シリア緊急援助」を選択してください。
電話 0120-999-199 でも受け付けています。(9:00~19:00/無休/通話料無料)
国境なき医師団への寄付は税制優遇措置(寄付金控除)の対象となります。
レバノン:シリア人難民を追い詰める極寒の季節
レバノンは、シリアから逃れてきた人びとの最大の受け入れ国です。
避難者が滞在している各キャンプは、水、食糧、衛生施設、そして医療の不足が深刻です。真冬の今、生活環境はさらに過酷なものとなっています。
あなたの目で現状を確かめてみてください。
避難者1000万人——国際社会は何をしているのか

内戦から逃れるために自宅を離れた人びとは1000万人を超えています。国内での避難が700万人以上、国外への避難が300万人以上。多くの人は難民・国内避難民キャンプや建設中のビル内で過酷な生活を送っています。
ヨルダンやレバノンでは、受け入れた難民数が人口の2割にも達し、公共サービスが圧迫されています。一方、イラクに逃れた人は、避難先でも紛争が……。
シリアのMSF活動責任者が現状を報告し、「国際社会は何をしているのか」と問いかけた論文がスペインのマスメディアで取り上げられました。日本語版はこちら。