ガザ停戦:心から願う「紛争、終わって」──国境なき医師団スタッフが語る現地の“いま”
2025年10月15日
パレスチナ・ガザ地区での停戦の第1段階が発表されたが、これは人道危機の終結を意味するものではない。
現地では多くの住民が家族を失った。建物は壊されてがれきの山となり、人びとは引き続き、テントなどでの不便な生活を余儀なくされている。清潔な水や食料、医療体制も不十分なままだ。
ガザ地区の住民の一人で、国境なき医師団(MSF)の医療コーディネーター補佐として活動しているナディア・イード。彼女は停戦後も続く現地の厳しい実情を社会に伝えるとともに、「本当の意味で紛争が終わってほしい」と心から願っている。
現地では多くの住民が家族を失った。建物は壊されてがれきの山となり、人びとは引き続き、テントなどでの不便な生活を余儀なくされている。清潔な水や食料、医療体制も不十分なままだ。
ガザ地区の住民の一人で、国境なき医師団(MSF)の医療コーディネーター補佐として活動しているナディア・イード。彼女は停戦後も続く現地の厳しい実情を社会に伝えるとともに、「本当の意味で紛争が終わってほしい」と心から願っている。
「停戦」の影で──ガザの人びとが直面する現実
こんにちは。私はナディア・イードといいます。ガザ地区でMSFの医療コーディネーター補佐として活動しています。
皆さんの多くは、ついにこのガザで紛争が終わり、人びとが元の生活に戻れるようになったと聞いたかもしれません。
でも残念ながら、それは現実とはかけ離れた話です。
かつての私たちの生活は、少なくともいますぐには戻ってきません。私たちの暮らしは深刻な打撃を受けました。

私にとって一番大きいのは「先の見えない不安」です。これから何が起きるのか、誰にも分かりません。
ガザの人びとは皆、心の奥に「また紛争が再開するかもしれない」という深い恐怖を抱えています。私たちはそうなることを最も強く恐れています。
ガザがどれぐらい破壊されたか……言葉にするのも難しいほどです。まるでがれきの山のような光景です。
多くの人びとはすでに家を失い、今後も非人道的な環境でテント暮らしを続けざるを得ません。

清潔な水もありません。食料や衛生用品も不十分です。紛争はいったん終わったかもしれませんが、人びとは自分の家に戻ることができていないのです。
まさに壊滅的な状況と言えます。
終わらない苦しみ、続く医療危機
医療システムも、ほとんど崩壊寸前です。多くの病院や診療所が狙われ、攻撃を受けました。
私たちの基礎診療所には毎日、何百人もの患者が治療を求めて訪れますが、すべての人を受け入れる能力はありません。患者全員を治療するには途方もない時間がかかりますし、必要な資源もまったく足りていないのです。

とてもつらいですが、これが私たちの直面している現実です。この状況は今後も、おそらく何年にもわたって続くでしょう。すべての病院を再建するには、長い年月がかかるからです。
私たちは家族や身内を失いました。でも、その悲しみを受け止めたり、互いに慰めたりする時間すら与えられませんでした。
そして、人生を一変させるような重傷を負った人たちを思うと、胸が痛みます。手や脚を失った子どもたちもいるのです。

たとえ戦争が終わったとしても、苦しみは終わりません。苦しみはこれからも続くのです。
私は心から願っています。この停戦が続くことを。
そして本当の意味で、この紛争に終わりが来ることを。
