ガザ停戦:心から願う「紛争、終わって」──国境なき医師団スタッフが語る現地の“いま”

2025年10月15日
国境なき医師団(MSF)の現地スタッフ、ナディア・イードがパレスチナ・ガザ地区の停戦後の現状を伝える=2025年10月14日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF
国境なき医師団(MSF)の現地スタッフ、ナディア・イードがパレスチナ・ガザ地区の停戦後の現状を伝える=2025年10月14日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF

パレスチナ・ガザ地区での停戦の第1段階が発表されたが、これは人道危機の終結を意味するものではない。

現地では多くの住民が家族を失った。建物は壊されてがれきの山となり、人びとは引き続き、テントなどでの不便な生活を余儀なくされている。清潔な水や食料、医療体制も不十分なままだ。

ガザ地区の住民の一人で、国境なき医師団(MSF)の医療コーディネーター補佐として活動しているナディア・イード。彼女は停戦後も続く現地の厳しい実情を社会に伝えるとともに、「本当の意味で紛争が終わってほしい」と心から願っている。

「停戦」の影で──ガザの人びとが直面する現実

こんにちは。私はナディア・イードといいます。ガザ地区でMSFの医療コーディネーター補佐として活動しています。
 
皆さんの多くは、ついにこのガザで紛争が終わり、人びとが元の生活に戻れるようになったと聞いたかもしれません。

でも残念ながら、それは現実とはかけ離れた話です。

かつての私たちの生活は、少なくともいますぐには戻ってきません。私たちの暮らしは深刻な打撃を受けました。

破壊されたガザ北部ベイト・ラヒヤの街=2025年2月3日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF
破壊されたガザ北部ベイト・ラヒヤの街=2025年2月3日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF


私にとって一番大きいのは「先の見えない不安」です。これから何が起きるのか、誰にも分かりません。

ガザの人びとは皆、心の奥に「また紛争が再開するかもしれない」という深い恐怖を抱えています。私たちはそうなることを最も強く恐れています。

ガザがどれぐらい破壊されたか……言葉にするのも難しいほどです。まるでがれきの山のような光景です。

多くの人びとはすでに家を失い、今後も非人道的な環境でテント暮らしを続けざるを得ません。

ガザ市内の海岸通り近くには、避難してきた人びとの暮らすテントが並ぶ=2025年9月4日 Ⓒ Ibrahim Nofal/ Photographer
ガザ市内の海岸通り近くには、避難してきた人びとの暮らすテントが並ぶ=2025年9月4日 Ⓒ Ibrahim Nofal/ Photographer


清潔な水もありません。食料や衛生用品も不十分です。紛争はいったん終わったかもしれませんが、人びとは自分の家に戻ることができていないのです。
 
まさに壊滅的な状況と言えます。

終わらない苦しみ、続く医療危機

医療システムも、ほとんど崩壊寸前です。多くの病院や診療所が狙われ、攻撃を受けました。
 
私たちの基礎診療所には毎日、何百人もの患者が治療を求めて訪れますが、すべての人を受け入れる能力はありません。患者全員を治療するには途方もない時間がかかりますし、必要な資源もまったく足りていないのです。

ガザ南部のナセル病院は、攻撃によって建物の一部が損壊した=2025年3月24日 Ⓒ MSF
ガザ南部のナセル病院は、攻撃によって建物の一部が損壊した=2025年3月24日 Ⓒ MSF


とてもつらいですが、これが私たちの直面している現実です。この状況は今後も、おそらく何年にもわたって続くでしょう。すべての病院を再建するには、長い年月がかかるからです。
 
私たちは家族や身内を失いました。でも、その悲しみを受け止めたり、互いに慰めたりする時間すら与えられませんでした。
 
そして、人生を一変させるような重傷を負った人たちを思うと、胸が痛みます。手や脚を失った子どもたちもいるのです。

ガザ地区北部の自宅で空爆に巻き込まれた8歳の男の子(右)。MSFの医師でもある父親がそばで見守っている=2025年6月28日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF
ガザ地区北部の自宅で空爆に巻き込まれた8歳の男の子(右)。MSFの医師でもある父親がそばで見守っている=2025年6月28日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF


たとえ戦争が終わったとしても、苦しみは終わりません。苦しみはこれからも続くのです。
 
私は心から願っています。この停戦が続くことを。

そして本当の意味で、この紛争に終わりが来ることを。

イードは「本当の意味でこの紛争が終わってほしい」と願っている=2025年10月14日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF
イードは「本当の意味でこの紛争が終わってほしい」と願っている=2025年10月14日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF

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