新学年初日に学校を襲ったM7.8の大地震 そのとき教師がとった行動とは──フィリピン・ミンダナオ島で続く移動診療と心のケア
2026年07月06日
国境なき医師団(MSF)の緊急対応チームは発災後間もなく現地に向かい、壊滅的な被害を受けた地域の人びとを支えるためにいまも医療・人道援助を続けている。
生徒を守り、自らの傷にも向き合う教師たち
ミンダナオ島南部・サランガニ州グランにあるアデリナ・T・レクト小学校の教師、メア・ルー・ジュマミルさん(37)は、地震が起きたときのことをこう振り返る。
6月8日は、本来なら新学年の初日となるはずの日だった。学校行事の国旗掲揚式を終え、ちょうど子どもたちが教室に入ったばかりのとき。教室は突如として激しい揺れに襲われた。
メア・ルーさんは、その瞬間をいまも鮮明に覚えている。
日ごろから避難訓練はしていたので、子どもたちは「姿勢を低くし、頭を守り、すぐに動かない」というルールを知っているはずでした。しかし、実際の状況はまったく違い、びっくりして怖がり、どうすればよいか分からなくなっていました。私は教師として気丈でいなければと自らに言い聞かせ、全員が無事に外に出られるまで誘導し続けました。
アデリナ・T・レクト小学校の教師 メア・ルー・ジュマミルさん
物理的な被害だけではない。教師たち自身も心に傷を負い、先の見えない不安に向き合いながら生徒の安全を守る責任を担っていた。
正直、地震の後はつらかったです。眠ることができず、トイレに行くような何げないときでさえも常に気を張っていました。あの経験は私たち教師の心にも傷を残したのです。
アデリナ・T・レクト小学校の教師 メア・ルー・ジュマミルさん
しかし、MSFの支援を受けて教師たちは落ち着きを少しずつ取り戻している。メア・ルーさんはこう語る。
MSFが私たちを支え、心理的応急処置について教えてくれたことに感謝しています。処置のおかげで気持ちは穏やかになり、「また何か起きたらどうしよう」という不安も少し和らぎました。
アデリナ・T・レクト小学校の教師 メア・ルー・ジュマミルさん
支援が届かない地域、MSFが移動診療を開始
しかし、移動診療の実施を約束していた一部の団体は、余震の影響で1週間後に撤退。被災地の支援が不足しているとの情報が寄せられ、MSFはサランガニ州の保健当局から追加支援の要請を受けた。
MSFは6月14日に調査チームを派遣。フィリピン保健省と緊密に連携しながら、特に被害の大きかったサランガニ州のマラパタンとグランの2自治体で活動を始めた。
「心身両面のニーズに対応を」
MSFは多くの患者が集まりひっ迫する医療施設を支援し、これまで対応が届いていなかった遠隔地域にも移動診療をしている。また、より高度な治療が必要な患者の紹介・搬送を調整し、被災地の医療が続けられるよう、必要不可欠な医薬品や医療物資も提供している。
さらに、MSFは学校や地域のネットワークを通じて心のケアと心理社会的支援をいち早く提供した団体の一つだ。
例えば、教師を対象とした心理的応急処置の研修もその一環。教師たちが子どもたちに継続的かつ基礎的な心のケアをできるようにするとともに、地域が復興に向かう中で、地震による心的外傷に対応できるよう支援している。
MSFは6月29日時点で、サランガニ州内で支援が届いていなかった地区4カ所で活動した。延べ629人を診療・支援し、上気道や呼吸器のウイルス感染症、けがに加え、高血圧、糖尿病といった慢性疾患など幅広い症状に対応した。心のケアの相談件数は363件に上った。
また、支援の一環としてサランガニ州の保健当局に医薬品と医療物資を渡している。
MSFフィリピンの活動責任者、ムハンマド・ショアイブ医師はこう訴える。
この地震は、緊急の医療ニーズで医療施設を圧迫しただけではありません。被災した地域の人びとに深い心の傷を残しています。特に、子どもや教師を含む多くの人びとが、恐怖や先の見えない不安に向き合っています。一方で、遠隔地域を中心に、医療へのアクセスはいまも大きく妨げられています。地域の人びとが回復し、さらなる苦しみを防ぐためには、心身両面のニーズに対応することが重要です。
MSFフィリピンの活動責任者 ムハンマド・ショアイブ医師




