「命ある限り、できないことはない」 顔の組織が破壊される病気を乗り越えて、患者を支えるいま

2020年12月09日
水がんを患うナイジェリアの4歳の少女=2018年  © Claire Jeantet - Fabrice Caterini/INEDIZ
水がんを患うナイジェリアの4歳の少女=2018年  © Claire Jeantet - Fabrice Caterini/INEDIZ

「水がん(すいがん)」という病気がある。口の中の粘膜が病原菌に冒され、顔の骨や組織が破壊される壊疽(えそ)性の口内炎だ。症例の大半はアフリカで確認され、特に衛生環境や栄養状態の悪い貧困下の子どもたちの中で発生している。

生き延びることができても、唇や頬、鼻や目などが大きく損なわれ、食事や会話などの日常生活に支障をきたすことが少なくない。偏見や差別に直面する患者も多い。

予防も治療も可能な水がんで、これ以上苦しむ人が出ないように——。この病気を乗り越えた女性が、いま国境なき医師団(MSF)のスタッフとして、同じ病に苦しむ人びとを支えている。20年以上前、子どもの時に水がんを発症したナイジェリアのムリカットさんが、経験と思いを語る。 

誰も私には話しかけてこない…… 失っていた希望

ムリカットさん <br> © Claire Jeantet - Fabrice Caterini/INEDIZ
ムリカットさん 
© Claire Jeantet - Fabrice Caterini/INEDIZ
とてもつらい毎日でした。水がんで外見が変わってしまったことで、話かけてくれる人もいなくなってしまったのです。他の人がどんな目で自分を見ているのか考えるのも怖く、生きる希望を失くしていました。
 
しかし、ソコトの水がん病院で顔面の再建手術を受けたことで人生が変わりました。大きいのは、アデニイ・アデトゥンジ先生という保健省の医師の存在です。偏見におびえる私に、「新しい自分になったんだと考えたらいい」と励ましてくれ、私が学校に戻ることを後押ししてくれました。また先生は、私が地域社会に恩返しすることを願っていました。そして私は復学し、やる気と勇気を見つけることができたのです。
 
その後私は健康記録管理を学び、2018年からMSFで働き始めました。いま衛生担当者として、私が手術を受けた病院で働いています。院内の環境を清潔に保ち、患者さんや付き添いの方に個人の衛生について説明する仕事です。
水がんの治療にあたる医師たち=2017年 © Claire Jeantet - Fabrice Caterini/INEDIZ
水がんの治療にあたる医師たち=2017年 © Claire Jeantet - Fabrice Caterini/INEDIZ

また、私は過去の自分と同じように水がんから生き延びた人をサポートするために、心のケアチームのお手伝いもしています。私の経験を話し、気を強く持つことの大切さを伝えています。いまの私を見てください。命ある限り、希望があり、希望があれば、できないことはありません。

 
私の目標は、人びとに生きる望みを与えることです。水がんという病気があること、そして、障害があってもできることがあると皆に知ってもらうために、体験を話し続けていきたいと思います。 

MSFは2014年からソコト水がん病院を支援。保健省と連携して、手術を行うだけでなく、早期発見に力を入れているほか、健康教育、心のケア、栄養指導にも取り組んでいる。2015年8月から2020年10月までに、MSFは789件の手術を550人の水がん患者に行った。

水がんは、「顧みられない熱帯病」として世界保健機関に公式に認められていない。MSFは、水がんを「顧みられない熱帯病」の公式リストに含めることで、人材や資金を確保して対策を講じられるよう、世界保健機関に働きかけている。 

水がんで顔面が損傷し食事がとれず、栄養失調に陥っていた2歳の子ども=2016年 © Claire Jeantet - Fabrice Caterini/Inediz
水がんで顔面が損傷し食事がとれず、栄養失調に陥っていた2歳の子ども=2016年 © Claire Jeantet - Fabrice Caterini/Inediz

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