国連安保理決議2286号の採択から5年──止まない医療への攻撃

2021年05月03日掲載

米軍による空爆を受け、42人が犠牲となったアフガニスタン・クンドゥズのMSF病院 © Andrew Quilty米軍による空爆を受け、42人が犠牲となったアフガニスタン・クンドゥズのMSF病院 © Andrew Quilty

2016年5月3日、国連安全保障理事会が動いた。紛争下の病院への攻撃を強く非難し、全ての紛争当事者に対して医療・人道援助活動の安全確保を要求する決議2286号を、全会一致で採択したのだ。

しかし、この日から5年──。医療への攻撃はいまだ止まず、その行為の責任が問われないことも常態化している。国境なき医師団(MSF)の3人の事務局長が連名で論説文を発表した。

「祝うどころではない」紛争地の医療を守る決議から5年、攻撃はいまなお続く

MSF日本 事務局長 村田慎二郎
MSFオランダ 事務局長 オリバー・ベーン
MSFスイス 事務局長 スティーブン・コーニッシュ

国連安保理決議2286号は、当時、シリアやイエメンなどの紛争地で、病院が日常的に爆撃される事態を受けて策定された。2015年10月3日には、国境なき医師団(MSF)がアフガニスタンのクンドゥズで運営する病院が米軍による空爆を受け、幼い子どもを含む患者やスタッフ42人が犠牲になった。尊い人命が奪われるとともに、病院の破壊によって地域住民は医療へのアクセスが絶たれたのだ。本決議は、患者や医療従事者、および医療施設に対して繰り返される攻撃を受け、戦時下の傷病者の保護などを規定した「国際人道法」の遵守を強調するものだった。

しかし今日、「国際人道法」は、病院への攻撃を非難し、決議を採択した国々によってないがしろにされ、医療・人道援助活動従事者の身の安全ばかりか、支援を必要とする人びとへのアクセスが脅かされる事態に陥っている。MSFがアフガニスタンで経験した医療施設への空爆は、もはや特別でも新しいものでもなく、繰り返される違法行為は罰せられずに常態化しているのだ。事実、決議2286号が採択されてからの間に、MSFが支援する施設や組織に対して100件以上の爆撃があったことを強く非難する。

2016年5月3日、国連安保理の会合で演説するMSFインターナショナルのジョアンヌ・リュー会長(当時) © Paulo Filgueiras2016年5月3日、国連安保理の会合で演説するMSFインターナショナルのジョアンヌ・リュー会長(当時) © Paulo Filgueiras

紛争地で医療・人道援助活動を行うMSFのスタッフは、安全管理を徹底しても活動には危険がともなうことを承知している。強調したいのは、医療への攻撃は「国際人道法」に反するだけでなく、その病院を命綱とする地域住民から医療を奪い、長きにわたって助かるはずの多くの命を救えなくなることを意味することだ。

病院への空爆が続いたシリアでは、医師たちは地下室に隠れて負傷者の外科治療を行い、イエメンでは、2016年にMSFが支援する病院が爆撃を受け、19人が死亡、24人が負傷した。また、ウクライナでは、2017年の停戦合意が何度も反故にされ、紛争最前線の医療施設の多くが破壊されている。高齢者や慢性疾患を抱える地域の人びとは、医療へのアクセスが絶たれたままだ。

2016年8月15日、イエメンでMSFが支援していたアブス病院が空爆を受けた © Rawan Shaif2016年8月15日、イエメンでMSFが支援していたアブス病院が空爆を受けた © Rawan Shaif

爆撃されたアブス病院の前で呆然とする警備員「唯一の病院だったのに、負傷者は今後どこへ行けばいいのか」 © Rawan Shaif爆撃されたアブス病院の前で呆然とする警備員「唯一の病院だったのに、負傷者は今後どこへ行けばいいのか」 © Rawan Shaif

そして、昨年11月以降、武力衝突が続くエチオピア北部のティグレ州では、医療施設が意図的な破壊や略奪などの被害を受けており、今年3月までにMSFが調査した医療施設の87%が一部または完全に機能不全に陥っていることが明らかになった。中にはエチオピア軍に占拠され、人びとが近づけない病院もあった。

エチオピア・ティグレイで破壊や略奪の被害にあった病院=2021年2月 © MSFエチオピア・ティグレイで破壊や略奪の被害にあった病院=2021年2月 © MSF

これらの事例は、今日の世界の紛争地で「反政府勢力を抑え込む」という名目で、政府軍によって標的とされ、攻撃された医療施設のごく一部にすぎない。また、暴力的な非国家主体による医療への攻撃も存在する。

MSFは、このような壊滅的な爆撃、略奪、脅迫、襲撃の他にも、国家が広範な定義のテロ対策法を制定することによって、「国際人道法」が規定する紛争地における医療・人道援助活動の保護がなおざりにされていることを目の当たりにしている。5年前、私たちは「国際人道法」の重要性を強調する重要な出来事として決議2286号の採択を歓迎したが、対テロという概念が拡大解釈される中で、苦境にある多くの人びとに援助を届けるMSFの公平な活動も、特に反政府勢力が支配する地域では制限を受け、時には犯罪とされる事態に直面している。そういった地域でも、中立的な立場の人道援助団体は保護されるべきで、援助活動がテロ活動と結びつけられて糾弾されることや、軍事的要請を強いられることがあってはならない。これを続けていくと、戦闘員と非戦闘員、戦闘員の中でも活動を続ける戦闘員と負傷して戦闘能力を失った戦闘員の区別がなくなり、医療従事者の保護と同じように、「国際人道法」の基本原則が失われていく。

本来であれば、国連安保理決議2286号採択から5年の記念日を、私たちは祝うべきものとして迎えたかった。しかし、いまだに医療施設や医療従事者が標的となり、脅迫され、弱い立場におかれたコミュニティは必要な医療を受ける機会を奪われている。患者や医療従事者の命が危険にさらされているのだ。

シリア・東グータで病院の敷地内にあった救急車が空爆の標的に=2016年12月 © MSFシリア・東グータで病院の敷地内にあった救急車が空爆の標的に=2016年12月 © MSF

過去5年間、MSFはすべての紛争当事者に対し、公約を実行に移し、国際人道法を遵守するよう強く求め続けてきた。国家による対テロ法制や暴力的な非国家主体も医療人道援助活動に対する新たな脅威となっている今日、私たちは改めて、各国政府に対し、民間人、傷病者、医療関係者に、自らが果たすべき義務を責任転嫁するべきでないと訴える。今こそ、各国政府がその責任と公約を果たし、医療従事者や医療を必要とする人びとが攻撃の標的とならないよう、さらなる行動への責任を担うべきだ。

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