道端で出産した女性も 情勢悪化によりマリ中部で避難民が急増

2021年01月19日
マリ中部バンディアガラのMSF診療所を訪れた避難民の親子 © MSF/Mohamed Dayfour
マリ中部バンディアガラのMSF診療所を訪れた避難民の親子 © MSF/Mohamed Dayfour

「武装集団は真夜中に村へやって来て、私の夫を殺し、家を燃やし、家畜もすべて奪っていきました。残った家財をかき集め、4人の子どもと逃げるしかありませんでした。あの日から一番下の息子は泣き止まず、男性を見ると父親だと思い込むのです」。夫を失ったAさんは話す。

西アフリカに位置するマリ共和国(以下、マリ)。中部のモプティ州では、Aさんと同じような経験をする人が後を絶たない。ブルキナファソと国境を接するこの地域はいま、国内で最も危険な地帯となっている。国境なき医師団(MSF)も今年1月5日、爆撃による重症患者3人を救急車で搬送する途中、武装集団によって数時間拘束され、その間に患者の1人が亡くなった。殺害や破壊、略奪などの被害を受けているのは、主にフラニ族やドゴン族の人びとで、この2年で暴力の頻度と激しさは増している。

自宅から40km先の村に避難したAさんと末息子。MSFの心理ケアを受診した<br>  © MSF/Mohamed Dayfour
自宅から40km先の村に避難したAさんと末息子。MSFの心理ケアを受診した
 © MSF/Mohamed Dayfour

暴力がまん延する日常 犠牲となる市民

武装集団に自衛団、そして国や国際的な治安部隊によって囲まれたマリ中部の住民らは、地域によってはさらに民族間紛争にも直面している。民族間の対立をよく知る武装集団は、これらの村の人びとを利用し、敵がい心をあおってきた。武器の多い地域でこうした搾取が行われた結果、市民への暴力が横行し、村全体が無差別攻撃を受けることも珍しくない。

マリ政府は、地元や国際的な部隊に支援されながら、テロ組織と指定された武装勢力と戦っている。武装勢力の動きや、対テロを目的とした抑圧的な安全保障の措置は、いずれも住民に多大な影響を及ぼしてきた。ある民族の出身というだけの理由で、戦闘員と見なされ、犯罪者とされてしまった人たちもいる。

モプティ州では支配権が政府から武装勢力に奪われ、住民らは暴力がまん延する日常を送っている。マリ全土での避難生活者は31万1193人、そのうち推定人口が約160万人のモプティ州では13万1150人の避難民がいて、増加傾向にある(2020年10月、国際移住機関調べ)。

武装勢力はこの地域の村々を孤立へ追いやり、生活に欠かせないサービス、特に医療へのアクセスを断ち切った。そのためモプティ州にいるMSFは昨年1月から10月までに、隔絶された、あるいは到達が困難な56の村で援助活動を行っている。
マリ中部のMSF診療所で診察を受ける男性 © MSF/Mohamed Dayfour
マリ中部のMSF診療所で診察を受ける男性 © MSF/Mohamed Dayfour

助けを差し伸べる近隣の村民たち

襲撃により自宅を追われた人びとの多くは、近隣の村に退避している。避難民を受け入れる家庭は少なくない。もちろん農業や畜産で生計を立て、ごく質素な暮らしをする彼らにできることは限られている。ただでさえ雨期や収穫前で、食料が少ない時期だ。一方、避難民はすべてを失い、食料や飲み水、避難所を探すのに苦労する中で生きている。

避難民を自宅に受け入れた農家のOさんはこう話す。

「3カ月前、35人の避難民を我が家に迎え入れました。その前から食料は足りていませんでしたが、彼らを助けるためにできることは何でもしています。30人以上を受け入れるのは容易ではありません。6~7人が同じマットを共用し、女性は皆同じ寝室で寝ています。雨が降ると、屋外で立ちっぱなしで夜を過ごす人も多い。スペースが足りなくなってしまうからです」

バンディアガラに住み、35人の避難民を自宅に受け入れたOさん(右)兄弟 © MSF/Mohamed Dayfour
バンディアガラに住み、35人の避難民を自宅に受け入れたOさん(右)兄弟 © MSF/Mohamed Dayfour

追い込まれる女性たち

MSFは移動診療などを通じて、村々への緊急医療援助や心のケアを行っている。昨年は同州のコロ圏とドゥエンツァ圏で、合わせて5万2970件の外来診療を行った。MSFチームは紛争により孤立した地域を訪れ、負傷者の治療や子どもへの予防接種を行い、妊婦や授乳中の母親など最も弱い立場にある人へ医療を届けている。

妊婦のケアを担う産科看護師のアディアラトゥは次のように言う。

「紛争のため無理をおして移動し、道端で出産した妊婦もいます。恐怖に打ちのめされて流産した女性もいます。彼女らはとても貧しく、食べ物も、着替えも、ときには身を十分に覆うものさえないのです」

情勢不安は一向に収まらず、医療や人道援助から切り離される人の増加が懸念されている。MSFは援助体制の尊重や保護を求めるほか、紛争当事者には市民への暴力の停止と人権原則の遵守を、他の援助組織には増え続けるニーズに対応した食料などの支援拡大を訴えている。

昨年6月に村が襲撃され、避難した人びと。夫を亡くした女性や孤児もいる © MSF/Mohamed Dayfour
昨年6月に村が襲撃され、避難した人びと。夫を亡くした女性や孤児もいる © MSF/Mohamed Dayfour

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