情勢が不安定なマリ 暴力と隣り合わせで暮らす人びとを支える

2019年07月10日掲載

パトリック・イレンゲ © Juan Carlos Tomasi/MSFパトリック・イレンゲ © Juan Carlos Tomasi/MSF

アフリカ・マリは2012年から政治・安全危機に見舞われており、中部地域では暴力の激化している。国境なき医師団(MSF)はマリでの医療活動を強化するなど活動を拡大。安全面に配慮しながら、住民の深刻なニーズに応じるため、中部地域で緊急援助を立ち上げた。暴力によって医療を受けられなくなった人びとに、移動診療で治療や心理ケアなども届けている。2017年9月からマリの首都バマコで国境なき医師団(MSF)医療コーディネーターを務めるパトリック・イレンゲに、情勢が不安定なマリの現在の状況や人道危機が起きたいきさつ、MSFの緊急援助と通常プロジェクトなどについて聞いた。 

2012年から北部で危機が続き、状況が良くならないまま中部の危機も激化しています。どのような現状でしょうか。

虐殺のあった村で子どものケアをするMSFのスタッフ © Lamine Keita/MSF虐殺のあった村で子どものケアをするMSFのスタッフ © Lamine Keita/MSF

マリ北部と中部では、人びとの日常に暴力的な空気があることが普通になってしまいました。中部ではこの1年、治安を脅かす事件や抗争が増加しています。3月にはオゴサグ村で160人が殺害されました。6月にはソバネ村で35人が集団殺害されています。この2つの襲撃で、24人の子どもが犠牲となりました(6月17日現在)が巻き込まれています。これらの襲撃は、大きな犠牲は国際報道に取り上げられ、多くの人びとの怒りを買いました。今も、モプティ地域は毎日のように安全を脅かす事件に見舞われています。こうした出来事が民間人に与える影響を最も心配しています。 

昨今の暴力が与えている影響は?被害の深刻な地域の住民にとってニーズとは?

住民のケアにあたるMSFのスタッフ © Lamine Keita/MSF住民のケアにあたるMSFのスタッフ © Lamine Keita/MSF

マリ中部・北部の地方に住む住民のほとんどが、耕作や畜産によって、つつましく暮らしています。ただでさえ、雨期と農業の端境期のおかげで苦労しています。さらに地雷の仕掛けられた道や、周辺地域の武装勢力の存在などから、人びとの移動も制限されています。そして、他の部族の集落を通りかかる恐れがあり、自由に移動できないからです。

村民は通常の経済活動を行えなくなり、基礎的な保健医療も利用できません。ドゥエンザの町のMSFチームはそうした村民らともいつも連絡を取り、なかなか医療を受けられない現状を目の当たりにしています。

また、暴力を逃れて来る避難者の増加も別の問題として挙げられます。避難者は、持ち物や家畜など、何もかも残していることが多く、仮設住居や受入地域で帰宅できる望みもないままで生活しています。暴力から逃れた人びとは、食料、保健医療、必需品、仮設住居、保護、水などさまざまなものを必要としています。また、遠隔地まで援助を届けるのは非常に難しいことが多く、残念ながら人道援助も十分とは言えません。 

人道状況の悪化の中で、人びとの保健医療の状況は?

虐殺があった村では、村人に対してMSFが在宅医療や心理ケアのカウンセリングなどをしました © Lamine Keita/MSF虐殺があった村では、村人に対してMSFが在宅医療や心理ケアのカウンセリングなどをしました © Lamine Keita/MSF

症状が重症になってから始めて、医療機関を受診する人びとが多くなっています。栄養失調の症例も増えています。これは、人びとの最低限の必要を満たすための経済活動の低下が影響しています。多くの妊婦が産前ケアのために診療所まで通えなくなっています。自宅出産を余儀なくされることがあり、合併症や死亡のリスクが高まっています。

また、子どもたちも定期的なワクチン接種や、季節性マラリアの予防的治療などが受けられずに深刻な影響を受けています。命を脅かす複数の病気のリスクにさらされています。一部の村では、ワクチン接種を一度も受けたことのない子どもの治療にあたった事例もあります。こうした人びとは、何年もの間、医療ケアから疎外されていたのでしょう。暴力から逃れて来た人びとや、不意の襲撃を恐れる人の間で、精神障害もとても増えています。 

MSFの対応は?

虐殺のあった村で、村人の血圧を測るMSFのスタッフ © Lamine Keita/MSF虐殺のあった村で、村人の血圧を測るMSFのスタッフ © Lamine Keita/MSF

MSFは医療施設の支援と並行し、2018年5月以降は緊急援助活動も強化してきました。活動しているMSFのチームは、警報管理体制のあるおかげで、人びとのニーズが国内全域で日々どのように移り変わるかを追えています。

また、大規模な集団移動やその他の深刻な事態をいち早く認識できるよう、該当する地域で調査・評価などもしています。この活動は、普段は治療と予防的ケアと心理ケア、ニーズに応じて必需品を提供する移動診療を通じて行われます。

援助を届ける対象を明確にすることで、特に弱い立場の人びとを助け、情勢が不安定の中でも、そうした人びとの健康状態を一時的に守ることができます。

これは、MSFの通常プロジェクトでも使われている施策で、単発の移動診療とも呼ばれています。特定の場所で、暴力が沈静化するなど安全の兆しが見えたらすぐに、重要な予防的治療やワクチン接種といった、最大限の援助活動を現場で行えるチームを派遣します。診療は1日で180件を超えることもあります。 

他にどんな対策がありますか?

MSFからケアを受けた村人 © Lamine Keita/MSFMSFからケアを受けた村人 © Lamine Keita/MSF

国境なき医師団が「中立・公平・独立」の団体であるという特性により、現地の人びとに活動が受け入れられているおかげで、立ち入りの難しい地域にも行くことができています。

ただ、治安は不安定で予測がつきにくく、実際は北部・中部で展開する活動は、紛争状態に応じたものにせざるを得なくなりました。

対策の1つとして、MSFの地域保健担当への訓練と、薬の提供を通じ、一部の病気の対処に、住民を巻き込んでいくというものがあります。マラリアや下痢などの患者は現在、診療所よりもむしろ、自分のコミュニティの中でケアを受けています。

MSFの地域保健担当者は、手遅れになる前に患者を医療施設に紹介できるよう、妊娠や栄養失調など、深刻な病気の兆候の気づき方についても学んでいます。この方法は、遊牧民への医療援助活動の時にも使われました。遊牧民は、生活様式のために保健医療施設の利用が制限されるからです。えさを求めて移動する家畜の後を追って、遊牧民の人びとも移動すると、MSFの保健担当者も同行し保健ケアを維持できるようにします。その他に力を入れているのが、ワクチン接種です。紛争下の子どもの死亡率を大幅に抑えるのにとても有効です。 

今後、懸念されることは?

 情勢の悪化か続き、保健医療や必需品に手の届かない人びとがさらに増えることです。マリは多くの課題に繰り返し直面しています。例えば、始まったばかり雨期はマラリアの季節的なピーク、洪水、道路状況の悪化、それに伴う住民との接触の困難など、さまざまな問題をもたらします。また、治安の悪化で、農作業が著しく制限されてきたため、食糧不足の恐れもあります。マリの人びとが今後何カ月かのうちに直面する困難は、これまでの何年間かよりも深刻なものになりそうです。MSFの緊急事態を専門とするチームと、あらかじめ調達していた備蓄品や薬などによって、対応する準備を整えています。

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