託された信頼を未来へ──国境なき医師団日本のこれまでとこれから: 新旧事務局長対談 村田慎二郎 × 森川光世
2026年10月01日
移動中の機内で、活動地での暮らしや仕事について村田から話を聞いた。これから始まる未知の挑戦への期待や不安を抱えながら、その言葉に耳を傾けていたという。
あれから17年。二人はそれぞれ活動地と日本を行き来しながら経験を重ね、異なる立場で国境なき医師団(MSF)の活動に携わってきた。そして今、MSF日本の事務局長というバトンが渡される。
2026年10月1日、6年間にわたり組織を率いてきた村田が退任し、新たに森川が事務局長に就任した。支援者の皆さまへの感謝、変わることのない使命、そしてこれからのMSF日本について、新旧事務局長の二人が語り合った。
コロナ禍から始まった6年間──支援者さまに支えられて
それでも、世界の人道危機に目を向け、多くの方がMSFに寄付をしてくださいました。ご自身も大変な状況にありながら、遠い国の人びとのために行動してくださったことに、本当に勇気づけられました。
そんな中で、日本の支援者さまの存在は私たちにとって大きな希望でした。
村田:2025年、長年続いた内戦が終わったシリアを訪れました。これから復興が始まろうとする一方で、2024年頃から始まった各国政府による対外援助の資金削減によって、多くの人道援助団体や医療プログラムが縮小や撤退を余儀なくされていました。
【動画】10年ぶりに訪れたシリアで見た内戦の爪痕──「支援はこれからが本番」国境なき医師団日本事務局長
そうでしたね(笑)。そのときはまさか、村田さんから事務局長を引き継ぐことになるとは、思ってもみませんでした!
「日本社会と世界の危機をつなぐ橋」でありたい
村田:私が大切にしてきたのは、「日本社会の中に人道援助への理解と支持を広げる」ということです。寄付をいただくことも、人材を活動地へ送り出すことももちろん重要です。でも、それだけではありません。
MSF日本は、日本社会と世界の人道危機をつなぐ橋のような存在でありたい。そのために5年後、10年後を見据えながら組織づくりを進めてきました。
活動地で起きていることを伝えるだけでなく、「自分たちには何ができるのか」を考えるきっかけを提供し続けてくれたと思います。その流れは今後も大切にしていきたいです。
国境なき医師団日本、参議院「外交・安全保障に関する調査会」で意見陳述──人道危機の改善に向け、日本政府は国際社会へより一層の働きかけを
良いことがあったら皆で祝い、失敗は責めるのではなく「次にどう生かすか」を考える。MSF日本は、そんな組織でありたいと思ってきました。
寄付に込められた思いに誠実であるために
村田:私たちの活動は、支援者さまからの信頼の上に成り立っています。だからこそ、「集められるだけ寄付を集める」という考え方ではありません。象徴的な例が、2004年のスマトラ沖地震・津波への対応です。当時、世界中から多くの寄付が寄せられました。しかしMSFは、自分たちが実施する支援に必要な金額が集まった時点で、この災害向けの募金を終了しました(※)。
集まったお金は、本当に必要とされている場所で責任を持って使う。その姿勢を、MSFはずっと守り続けています。
森川:私はちょうどその頃、日本事務局で寄付の担当をしていました。ご支援いただいたお一人お一人に電話をかけて、「スマトラ沖地震への支援に必要な資金は十分に集まったので、メディアに取り上げられていない他のたくさんの人道危機にのために活用させていただいてもよろしいでしょうか」とお願いをさせていただいたんです。この経験を通して、MSFが寄付に対してどれほど誠実であろうとしているのかを強く実感しました。
私たちは、「寄付なら何でも受け取る」という考え方ではありません。どのような資金を受け取り、どのように使うのか。きちんと説明し、責任を持ってお預かりする。
それもまた、支援者さまとの信頼関係を築くうえで大切なことだと思っています。
- ※2004年のスマトラ沖地震・津波では、MSFは被災地で実施する支援に必要な資金が集まった段階で、同災害向けの使途指定寄付の募集を終了した。これは、支援者さまから託された資金を、その目的に沿って適切に活用するというMSFの方針に基づくもの。
民間寄付が、独立した活動を支える
森川:私が最初にMSFにひかれた理由の一つは、「政治・経済・宗教から独立している」という考え方でした。こうした組織のあり方をそれまで知らなかったので、とても新鮮だったんです。
紛争地をはじめ、さまざまな利害関係者が存在する環境でも、現場のチームが人びとのニーズを最優先に考え、活動内容を判断し、決断することができます。また、支援者さまから継続的に寄せられる寄付があるからこそ、緊急事態が発生した際にもすぐに対応できる体制を維持することができます。
長年にわたって活動を支えてくださる支援者さまの存在が、こうしたMSFの強さそのものだと思います。
事務局で働いていたとき、支援者さまに「いただいた寄付は直接活動に使われています」とご説明していましたが、自分自身が活動地に出て、それが本当にその通りだと実感しました。寄付をいただく側から、使わせていただく側になって、支援者さまとのつながりをより強く感じるようになりましたね。
村田:僕にとってMSFの好きなところは、一緒に働いている人たちを尊敬できるところですね。そして、活動そのものに誇りを持てることです。もちろん課題もありますが、それでも「もっと良くしていきたい」と思える組織なんです。
活動地で働く現地スタッフやコミュニティの人たちの中には、「MSFの活動は政府のお金で成り立っているのでは」と思っている人もいます。でも実際には、活動資金の約9割が民間からの寄付に支えられています。
「この病院も、薬も、机も、皆さんからの寄付で成り立っている」と伝えると、そういった人たちがみんな遠い日本から支援してくださる皆さまの存在を思い浮かべるんです。このつながりは、とても大切だと思っています。
海外派遣スタッフの選考に、実は2回落ちたんです。でも、本気でやりたいなら大丈夫。足りないものを一つずつ身に付けていけば、きっと道は開けます!
活動に参加したいと思っても、その時々のライフステージによっては難しいこともあります。でも、挑戦できるタイミングは人それぞれ。 やりたいという気持ちを大切にしてほしいです!
「理解する」から「一緒に行動する」へ
森川:私は一度MSFを離れ、民間企業で働きました。その経験を通じて感じたのは、人道援助に関心を持っている人はとても多いということです。でも、「自分に何ができるのだろう」と思って、一歩を踏み出せない人も少なくありません。
支援者さまから託されているのは、お金だけではありません。その思いも含めて活動地につないでいくことが、私たちの大切な役割だと思っています。
変わらない使命を、次の世代へ
私はこれから再び活動地へ戻ります。立場は変わりますが、医療を必要としている人びとのそばで活動を続けていきたいと思っています。
森川:いつも温かいご支援をありがとうございます。皆さまから託された思いを、これからも確実に活動地へ届けてまいります。
そして、世界で起きている人道危機をより多くの人と共有し、ともに行動できる社会を目指していきます。
森川さんはいろいろな経験をしてきた人。僕にはない視点をたくさん持っているので、新しいリーダー像を見せてくれると期待しています!
村田さんから受け取ったバトンを大切にしながら、私らしく挑戦していきたいです!





森川さんとは15年以上のお付き合いですね。最初に空港でお会いしたときにはご家族もたくさん見送りにいらしていて、びっくりしたのを覚えています(笑)。