援助活動の“チームの要”コーディネーターとは【第2回 医療コーディネーター】

2021年03月18日掲載

国境なき医師団の医療コーディネーター 左:クララ・ファン・ヒューリック 右:道津美岐子 © MSF国境なき医師団の医療コーディネーター 左:クララ・ファン・ヒューリック 右:道津美岐子 © MSF

国境なき医師団(MSF)の活動で重要な役割を担う「コーディネーター」に迫るシリーズ、2回目にご紹介するのは、活動地のプロジェクトを医療面から支える「医療コーディネーター」です。

この職種に求められるのは、医療のエキスパートであることと同時に、活動現場の状況を的確に把握し、プロジェクトを管理・実行するための「判断力」、そしてチームをまとめる「マネジメント力」。

今回は、そんな医療コーディネーターの仕事内容とともに、その職務を担う道津美岐子とクララ・ファン・ヒューリックに迫ります。仕事をする上で大切にしていることや、子どもの頃の夢、活動地に必ず持っていくものなど、さまざまな質問に答えてもらいました。

※この記事は国境なき医師団ニュースレター『ACT! Special』(2020年9月号)の記事を再編集し掲載しました。

医療コーディネーターの主な仕事内容

  • プロジェクトの医療面(医療活動方針・医療物資選定など)の戦略を立て、実行・管理・サポートをする。国別の医療援助活動方針、戦略、年間計画を踏まえた予算を決定する。
  • 医療従事者の人事(募集・採用、評価、トレーニング・キャリア開発)を監督する。
  • 現地の医療当局との交渉、他援助団体との定期ミーティングに参加するほか、患者のニーズを代弁して訴えることも。

MSFのコーディネーターとは?
活動組織図(クリックして拡大)活動組織図(クリックして拡大)

安全で円滑な医療援助活動を継続できるよう、常に最善の方法を模索し決断するのがコーディネーターの仕事です。

コーディネーターの職種は大きく分けて2種類。一つ目は、包括的な視点でプロジェクトの指揮を執る「活動責任者、プロジェクト・コーディネーター、緊急コーディネーター(※)」、そして二つ目は、専門分野の実行・管理を行う「医療コーディネーター、ロジスティック・コーディネーター、財務/人事コーディネーター」です。プロジェクトでは、互いにコミュニケーションをとりながら、連携して仕事を進めます。
※感染症の発生、自然災害、紛争の勃発などによる緊急の医療ニーズに対応。  

最前線の医療現場に寄り添う調整役。スタッフの質問には必ず答えます──道津美岐子

医療コーディネーターの仕事を一言で言うと「活動国における医療チームのリーダー」。最前線の医療現場とヨーロッパに所在するオペレーション事務局を橋渡しする調整役であり、与えられた予算や人材の中で実行できるプロジェクト、できないプロジェクトを見極め、優先順位を決めるのも医療コーディネーターの役割です。

私が下したさまざまな決断が現場でうまく回るようにするためには、一緒に働くスタッフと信頼関係を築くことも重要です。交渉や説得は日常茶飯事ですが、気を付けているのは、相手の話に感情的にならずに耳を傾ける姿勢です。そして、質問やアドバイスを求められたら「Yes」でも「No」でもきちんと返事をし、理由を説明して納得してもらえるよう心掛けています。時には厳しく、悪者になる覚悟も必要です。

私が現地スタッフを採用する際に、必ず投げ掛けるのは、「私たちのこの活動の資金はどこから来ると思う?」という質問。寄付を下さる皆さまの支えがあるからこそ、援助を必要とする人びとに医療を届け続けることができる。私自身、そのことへの感謝を常に忘れないように心掛けています。  

薬を処方するときには、ていねいに説明を行う。 🄫 MSF薬を処方するときには、ていねいに説明を行う。 🄫 MSF

ソマリアの病院で赤ちゃんを抱く道津=2013年 🄫MSFソマリアの病院で赤ちゃんを抱く道津=2013年 🄫MSF

課題に直面したときはチームで話し合い、最善の決断を下します──クララ・ファン・ヒューリック

活動国における医療ニーズに応えるためには、まずは戦略を立てることが重要です。それをさらに確実に実行・管理する医療コーディネーターには、豊富な臨床経験と、マネジメント力の双方を備えていることが求められます。

多くの場合、活動国で行われている医療援助は、一つではありません。栄養失調に苦しむ子どもたちを助けるプロジェクト、コレラに感染した人びとが一人でも多く経口補水液を飲むことができるようにするプロジェクト、医療が届かないへき地で移動診療を行うプロジェクトが同時に進行することもあります。その全てに必要な医療物資や人材を調達し、現場が課題に直面したときに最善の方法を見いだせるよう手助けをするのが私の仕事です。

また現地スタッフや地元保健省スタッフのトレーニングをすることもあります。活動国の医療の底上げも私たちの使命だからです。プロジェクトの実現には、地元の協力が欠かせません。そのためなら大統領にだって会いに行きますし、もちろん大勢の患者さんとも会います。特に頻繁に現場へ足を運び、地元保健省を含む多くの現地スタッフの話からニーズを把握することは、最善の判断をし、医療援助を円滑に進めるためにとても重要です。  

救急救命室でマラリアの子どもの診察をするヒューリック コートジボワールにて 🄫 MSF救急救命室でマラリアの子どもの診察をするヒューリック コートジボワールにて 🄫 MSF

国境なき医師団で働く人ってどんな人たち? スタッフに聞きました

小さい頃、なりたかったものは?

道津:好奇心が旺盛な子どもだったので、世界の辺境の地を巡る探検家のような仕事に漠然としたと憧れを抱いていました。ですからある意味では海外で仕事をすることも含め、幼い頃の夢をかなえたと言えるのかもしれません。MSFの活動は、私がやりたいと思っていたことと一致しますし、活動経験を重ねるほど、「自分が自分らしく生きられる場所」であることを実感します。

ヒューリック:6歳の頃には医者になろうと決めていました。当時日本に住んでいて、少し難しい病気を患ったことがきっかけでした。その頃の日本には専門医がおらず、両親が手を尽くして探してくれたところ、知り合いのオランダ人医師が来日し、診察してくれたのです。実はヨーロッパではよくある病気だったそうで、国や場所によって流行する病気は異なり、治せる病気と治せない病気があることに、その時とても興味を持ったのです。以後、気持ちが揺らぐことはありませんでした。 

医療コーディネーターにとって、不可欠なものは何ですか?

ヒューリック: 一度下した判断は、最後まで責任を持つという覚悟。これは活動地の医療行為を管理する立場の人間として、絶対に必要です。なぜなら私たちが活動する地域では、患者さんやスタッフが危険な目に遭うことも少なくないからです。治安が安定しない状況下で、どのようにしてリスクを最小限に抑え、最善の医療を提供するのか。それを判断し決定するのも医療コーディネーターの仕事です。  

特に印象に残っている「決断」はありますか?

道津:2016年の南スーダンのプロジェクトで、大きなビーズが気管支に入り、少しでも動くと窒息死するかもしれない女の子が運ばれて来ました。内視鏡で除去する以外方法はなく、内視鏡がある首都ジュバの病院への移送には、費用のかかるチャーター機を飛ばさなければなりませんでした。患者さんはまだ10歳で将来があることもあり、スタッフみんなの「何とかして助けたい」という思いが一致して移送を決断しました。ジュバの病院から、気管支のビーズが無事除去されたとの一報が入った時には、その場にいた全員が拍手をして喜び合いました。  

活動地に必ず持って行くものは?

道津:瞬間接着剤です。接着力が強力なので、壊れた物の修理に活躍しますし、応急処置にも使います。また毎日使うボールペンも必ず日本から持っていきます。現地のものは、すぐに書けなくなってしまうので。

ヒューリック:ピンクの聴診器は必需品です。子どもの患者さんが関心を持ってくれますし、仲間たちも聴診器を見ただけで「クララだ!」と分かるので、いまやトレードマークです。あと、意外に思われるかもしれませんが、ハイヒールも持参します。世界保健機関(WHO)や大使などとの会合に出席する際、相手への敬意を身だしなみで示します。 

道津 美岐子(どうつ みきこ)

11年間の総合病院勤務を経て1994年タンザニアのルワンダ難民キャンプで初めて海外援助活動に関わる。2004年より国境なき医師団の医療援助活動に参加し、看護師、医療チームリーダー、医療コーディネーターとして、スーダン、エチオピア、バングラデシュなど世界各地で20回以上の活動に従事。 

クララ・ファン・ヒューリック

2005年以降、医師、医療コーディネーターとして15カ国以上で活動に参加。国境なき医師団日本・韓国事務局の人道問題担当責任者を経て、現在は医療アドバイザー、小児科医として勤務。 

「援助活動の“チームの要”コーディネーター」その他の回はこちら:

  》第1回 プロジェクト・コーディネーター(2021年03月04日掲載)

  》第3回 ロジスティック・コーディネーター/財務コーディネーター(2021年04月09日掲載)

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