援助活動の“チームの要”コーディネーターとは【第3回 ロジスティック/財務コーディネーター】

2021年04月09日
財務コーディネーターの森川光世(上)とロジスティック・コーディネーターの松本卓朗(下) 🄫 MSF
財務コーディネーターの森川光世(上)とロジスティック・コーディネーターの松本卓朗(下) 🄫 MSF

3回にわたって国境なき医師団(MSF)の「コーディネーター」に迫るシリーズ、最終回にご紹介するのは、円滑な物資供給や技術サポートを行う「ロジスティック・コーディネーター」の松本卓朗と、活動に不可欠なお金の管理を担う「財務コーディネーター」の森川光世です。

ロジスティクスと財務、全く異なる業務を担当する二人ですが、「活動にあたって大切にしていることは?」という問いに対して返ってきたのは、「一緒に働くスタッフや現地の人びとと信頼関係を築くこと」という共通の答え。

医療以外の面で活動に貢献する、いわば「縁の下の力持ち」である松本と森川が語った、現地で実感した仕事のやりがい、そして活動地の人びととのコミュニケーションの秘けつとは?
※この記事は国境なき医師団ニュースレター『ACT! Special』(2020年9月号)の記事を再編集し掲載しました。

主な仕事内容

ロジスティック・コーディネーター

  • ロジスティック業務全般の監督とプロジェクトのセキュリティーマネジメント遂行、物資の調達や在庫管理を行う。
  • 活動を支える車両の整備、建設、水・衛生、電気、医療機器の設置・保守管理、物資供給などを総合的に管理し、プロジェクトが円滑に行われるよう調整する。
  • 首都コーディネーション・チームの一員として、現地採用スタッフのマネジメントや養成を行う。

財務コーディネーター

  • 首都コーディネーション・チームの一員として、活動地の各プロジェクト・チームの財務全般を管理・サポートする。
  • 現地採用の経理担当者や各現場で業務を遂行するアドミニストレーターなどへの監督・指導を行う。
  • 財務報告書の作成・提出、他援助団体や現地政府機関と財務に関わる交渉や会議への出席。

MSFのコーディネーターとは?
安全で円滑な医療援助活動を継続できるよう、常に最善の方法を模索し決断するのがコーディネーターの仕事です。

コーディネーターの職種は大きく分けて2種類。一つ目は、包括的な視点でプロジェクトの指揮を執る「活動責任者、プロジェクト・コーディネーター、緊急コーディネーター(※)」、そして二つ目は、専門分野の実行・管理を行う「医療コーディネーター、ロジスティック・コーディネーター、財務/人事コーディネーター」です。プロジェクトでは、互いにコミュニケーションをとりながら、連携して仕事を進めます。
※感染症の発生、自然災害、紛争の勃発などによる緊急の医療ニーズに対応。  

チームの結束は、日々の付き合いから 松本卓朗(ロジスティック・コーディネーター)

ロジスティシャンの仕事とは何か? と聞かれたら「医療行為以外の全て」と答えたくなるくらい、施設の建設から水源の確保、医療物資の調達・運搬・管理、セキュリティーなど、仕事の範囲は多岐にわたります。そしてそれを取りまとめる部門の責任者が、ロジスティック・コーディネーターです。私自身はもともと、電気のスペシャリストとして、病院や住居における電気設備の保全作業を担当していました。
 
また紛争地や、内政が極度に不安定な国や地域では、医薬品や医療機器などの輸入や輸送も困難を極めますが、温度や湿度管理を徹底しつつ供給を行うことも非常に重要な任務です。
 
ロジスティシャンの使命は、医療活動が滞りなくできる環境を整えることに尽きます。医療スタッフから「今日も手術室で、問題なくいい仕事ができた」というような声を聞くと、縁の下の力持ちとしては、本当にうれしくなります。
 
とはいえ過酷な状況下でさまざまな決断をし、チームを動かすことへの重圧は常にあります。コミュニティーの一員であり、共に働く仲間でもある現地スタッフの国の歴史や文化を学び、チャイを飲みながら仕事以外の話をすることは、互いを知り、何でも話してくれる関係を築くために貴重な時間です。 

アフリカ南東部にあるマラウイで、現地のロジスティシャンたちと車両整備を行う 🄫 MSF
アフリカ南東部にあるマラウイで、現地のロジスティシャンたちと車両整備を行う 🄫 MSF

現地の人びととの良好な関係構築が問題解決の突破口に 森川光世(財務コーディネーター)

MSFが活動する国や地域では、日本では考えられないことも起こります。それを目の当たりにしたのは、財務コーディネーターとして初めて派遣された、アフリカ北東部スーダンのダルフールでした。
 
主な業務は日々の入出金管理、経理業務、予算策定、予算実績管理、送金管理、給与支払いです。ところが、現地スタッフヘの給与支払いに銀行振り込みを導入しようとしたところ、スタッフのほとんどが銀行口座を持っていないことがわかったのです。中には国内避難民もいて、身分を証明するものがなく、口座を開設することが難しい人もいました。そこで関係各所に交渉し、約200人の口座を開設したのですが、結局銀行振り込みを開始するまでに3カ月近くかかった記憶があります。
 
業務を円滑に進めるには、日頃から現地の銀行や役所などの担当者と関係を築いておくことがとても大切です。予約をして時間通りに行っても会えることはまずないため、アポなしで訪問し、じっくり待って、会えることになったら出してくれたチャイを飲みながら少し世間話をする。まずは、相手のおもてなしの気持ちをきちんと受け止めること、信頼関係は、そんなところから自然に築いていったように思います。  

イエメンの首都サヌアのオフィスで、アシスタント2人と 🄫 MSF
イエメンの首都サヌアのオフィスで、アシスタント2人と 🄫 MSF

国境なき医師団で働く人ってどんな人たち? スタッフに聞きました

Q自分の仕事を子どもたちに説明するとしたら?

森川:子どもたちの生活の中で例えるなら、周りの人から頂いたお年玉やお小遣いを大切に使うために、まずは使い道の計画をきちんと立てること。そして、実際に何にいくら使ったのかをしっかりとお小遣い帳につけ、お年玉を下さった方々に報告をする仕事です。財務コーディネーターは、活動地の人びとに直接医療で貢献をすることはできません。でも、寄付として託されたお金を正しく管理し、必要なところに確実に届けることは、活動の根幹を担う責任ある仕事だと思っています。

QMSFの活動に参加してよかったと思う瞬間は?

松本:紛争や自然災害などさまざまな理由で命の危険にさらされている人びとに、医療を届けられることは大きな喜びです。ロジスティックの仕事は、直接医療行為に携わるわけではありませんが、元気になった患者さんが、家族のもとへ帰るのを見るのはMSFの活動に参加してよかったと心から思う瞬間です。資金や人材が限られている中でいかに医療援助をスムーズに行えるか、より多くの患者さんへ医療を提供できるか、ということにいつも頭を悩ませています。厳しい環境やさまざまな制約の中で求められる役割を果たすことができたときには、とてもやりがいを感じます。

Q活動地で心掛けていることはありますか?

松本:現地スタッフは誰でも情報源。ドライバー、調理スタッフ、清掃スタッフなど、みんなと積極的に話します。あとは他援助団体のロジスティシャンとの集まりに顔を出すことも、有益なネットワーク構築に一役買ってくれます。

Q活動地に必ず持って行くものは?

森川:フィルム素材の付箋。ほこりっぽい現地では、紙製だとすぐに剝がれてしまうからです。

松本:あえてこだわらないようにしています。ただ仕事柄いろいろな場所に足を踏み入れるので、靴だけは派遣のたびに防水タイプのものを新調しています。

ロジスティック・コーディネーター 松本 卓朗(まつもと たくろう)

医療機器メーカーでエンジニアとして5年間勤務した後、語学留学のためオーストラリアへ。2010年からMSFのロジスティシャン、ロジスティック・コーディネーターとして11回の活動に参加。現在は、MSF日本事務局フィールド人事部に勤務。

財務コーディネーター 森川 光世(もりかわ みつよ)

中高一貫校で英語教師として4年間勤務したのち、2009年からMSFの財務コーディネーターとして、スーダン、ナイジェリア、イエメンなど5回の活動に参加。MSF日本事務局ファンドレイジング部およびフィールド人事部でも勤務。

「援助活動の“チームの要”コーディネーターとは」その他の回はこちら:

  》第1回 プロジェクト・コーディネーター(2021年03月04日掲載)

  》第2回 医療コーディネーター(2021年03月18日掲載)

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