望まない妊娠、性暴力…「性の健康」から取り残された女性たち

2022年09月22日
MSFの健康教育チームは、妊婦や10代の若者が多く暮らす貧困地域に赴き、リプロダクティブ・ヘルスに関するセッションを提供している Ⓒ MSF/Laura Aceituno
MSFの健康教育チームは、妊婦や10代の若者が多く暮らす貧困地域に赴き、リプロダクティブ・ヘルスに関するセッションを提供している Ⓒ MSF/Laura Aceituno

暴力が多発し、世界でも危険な国の一つとされるホンジュラス。北部のコルテス県は、性暴力の発生率が高い地域でもある。この地域では、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する診療)や性教育が十分に行き届いておらず、女性や思春期の若者に深刻な影響を及ぼしている。

国境なき医師団(MSF)は、2022年からこの問題の解消に向け、活動を開始。地域を回り、健康教育や心のケアを行う取り組みを伝える。

幼い頃から危険にさらされる少女たち

「12歳のとき、母方の祖父に2回虐待されました」。ホンジュラス北部のチョローマからほど近い、ラ・ブエソ村の診療所を訪れたマリアさん(※)はそう話す。「14歳で家を出て、17歳の頃には2人の子どもの母親になっていました。いま33歳ですが既に7人の子どもがいます」
 
2021年、マリアさんはレイプされた後、妊娠した。「レイプの後、医者には行きませんでした。妊娠が分かって驚きました。私の住んでいるところには診療所がなく、お金もないので、看護師の隣人の助けを借りて自宅で出産することになりました」

マリアさんの体験は、幼い頃から性的虐待やレイプに遭ってきた他の多くの女性の話と重なる。この10年間で、ホンジュラスで活動するMSFのチームは、性別・ジェンダーに基づく暴力を受けた3500人を治療してきた。レイプの後に医療を受けることの大切さはあまり知られていない。

※仮名を使用しています。

性教育も不十分な現状

長い間、ホンジュラスでは、リプロダクティブ・ヘルスケアを受けようとする人の前に多くの壁が立ちはだかってきた。国内で手に入る避妊具や方法が限られているだけでなく、思春期の若者に対する性教育も十分ではないためだ。カウンセリングやサポート体制がなく、家族計画の方法や避妊なしでセックスをするとどうなるか知らない人もいる。

これはそのまま、18歳未満の妊娠率の高さにつながっている。2022年3月のホンジュラスにおける10代の妊娠率は23%。思春期の妊娠はさまざまな合併症のリスクが高く、世界的にも15~19歳の少女の死因の首位を占めている。また、ホンジュラスでは、思春期の若者がリプロダクティブ・ヘルスに関連したさまざまな心身の不調に直面しており、性感染症の感染率も高い。

20年前、ホンジュラス保健省は、リプロダクティブ・ヘルスに対するニーズの尊重や保護、充足を義務付ける「リプロダクティブ・ヘルスに関する国家政策」に取り組み始めた。にもかかわらず、いまも産前産後ケアは受けられず、避妊具や避妊法は手に入らず、女性に対する性暴力は多いままだ。

チョローマで実施された健康教育活動の様子。特に10代の若者はリプロダクティブ・ヘルスに関する知識がない Ⓒ MSF/Laura Aceituno
チョローマで実施された健康教育活動の様子。特に10代の若者はリプロダクティブ・ヘルスに関する知識がない Ⓒ MSF/Laura Aceituno

早急な対応が必要

「これらのニーズの大きさを踏まえると、ホンジュラス当局やその他の団体は早急に対策を進めてリプロダクティブ・ヘルスの課題に対応していく必要があります。また、診療所が必要な医薬品を入手できることや医療スタッフを対象とした質の高いトレーニング、性暴力被害者に包括的ケアを提供するプロトコルを早急に承認することが重要です」 と、チョローマでMSFの心理療法士として健康教育に携わるロペスは説明する。

チョローマでは、妊娠中の若者の数は非常に多く、潜在的なニーズがある。「医師や看護師がいないどころか、性教育も行われていない場所です。地域によっては、応急処置ができる人、特定の薬の効能がわかる人、家族計画を指導できる人、産前や婦人科診療を担う人さえいないことがあるのです」とロペスは続ける。

リプロダクティブ・ヘルス教育が充実していないために、女性や思春期の若者、少女が心の健康を損ねる場合もある。MSFの移動診療チームが確認したニーズの中には、緊急時の心のケアもあった。

地域の学校の教室でも、チョローマの移動診療のチームの医師が追加の診療を提供している Ⓒ MSF/Laura Aceituno
地域の学校の教室でも、チョローマの移動診療のチームの医師が追加の診療を提供している Ⓒ MSF/Laura Aceituno

健康教育では、心のケアも

MSFは2022年にチョローマとその近郊のサン・ペドロ・スーラで医療と心のケア、リプロダクティブ・ヘルスに関する社会教育を開始した。医師、看護師、心理療法士、社会教育担当者などで構成されるチームが地域を訪問し、産前産後ケア、心のケア、避妊、社会教育、健康教育などを行う。MSFのチームは、暴力(特に性暴力)の発生率が高く、妊婦や思春期の若者の数が多い地域を重点的に回っている。

また、健康教育チームは、診療所、学校、カルチャースクールやMSFの移動診療を通じて、思春期の子どもたちにリプロダクティブ・ヘルスの問題を教育するプログラムを開始。このプログラムでは、心理学の手法を用いた教育と対話やグループセラピーを行い、リプロダクティブ・ヘルスの不調に関する質問を受けたり、心のケアに対応したりしている。

10カ月前にこのプログラムを開始して以来、MSFは739件以上の心のケアを行った。主な症状は、うつ、不安神経症、悲嘆、ストレスに対する急性反応、慢性精神疾患、てんかん、双極性障害、心的外傷後ストレス、子どもの問題行動などだ。また、チョローマにある15の地域で690人に避妊具を配った。 

MSFのチームが交流してきた人びとは、リプロダクティブ・ヘルスについてもっと知りたがっている。地域で活動するMSFのチームは、予防や計画、セルフケアの重要性を話すだけでなく、リプロダクティブ・ヘルスケアに対する差別を取り除き、このケアを受けようとする人びとへの偏見を減らすことにも力を入れている。

ラ・ブエソの診療所では、MSFの移動診療チームの医師と看護師が 家族計画について相談にのっている。また、ほとんどの女性が赤ちゃんと一緒に産後検診を受けている Ⓒ MSF/Laura Aceituno
ラ・ブエソの診療所では、MSFの移動診療チームの医師と看護師が 家族計画について相談にのっている。また、ほとんどの女性が赤ちゃんと一緒に産後検診を受けている Ⓒ MSF/Laura Aceituno

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