MSFのエボラ対応実績を還元——国際会議・医療者説明会に参加

2015年01月21日

国境なき医師団(MSF)は世界各地で、エボラ出血熱の緊急対応実績をもとに、活動報告や対策についての提言に力を入れている。

MSF日本では、感染症対策の具体的な行動計画を話し合う「第2回日経アジア感染症会議」(主催・日経新聞社、日経BP社)に、国境なき医師団(MSF)日本の黒崎伸子会長(医師)がパネリストとして参加。エボラ出血熱の対応について国際社会が連携を強める必要性を提言した。

一方、エボラ流行国での援助活動を検討している医療従事者に向けた「エボラ出血熱対応への派遣に関する説明会」(共催・MSF日本、日本赤十字社)に講師を派遣。MSF日本の加藤寛幸副会長(医師)が、シエラレオネでエボラ対策にあたった体験を交え、実践的な説明を行った。

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「幅広い協力体制を」——共同声明に反映

感染症会議でMSFのエボラ対策の発表と提言を行う黒崎会長 感染症会議でMSFのエボラ対策の発表と提言を行う黒崎会長

アジア感染症会議は、1月16日から17日にかけて沖縄県名護市で開かれ、日本をはじめアジア各国の政府関係者、企業役員、大学教授など各分野の専門家が出席した。会議の成果として出席者一同で起草した共同声明には、非営利団体を含む官民学の連携の重要性が盛り込まれた。

黒崎会長は、エボラ出血熱対策に必要な取り組みについて国際NGOのテーマから提言。国際社会の対応の遅れと調整役の不在が、過去最悪の流行の原因となったことを指摘した。また、流行地域の住民たちの間に、エボラの正しい知識や対策が浸透していないことも流行に拍車をかけたとの認識を示し、「NGOだけでは解決できない問題で、幅広い協力体制の構築が不可欠」と呼びかけた。

また、人材面の課題も報告。スタッフの心身面の健康を保つ観点から任期を短く設定していることもあり、スタッフ数が不足している事情を説明した。その上で、専門家を対象としたエボラ対応のトレーニングを普及させる必要性を訴えた。

MSF は2015年1月9日時点で、世界各国の事務局から302人の専門家を派遣し、現地採用スタッフ3600人と共同でエボラ対応を続けている。

エボラ対策の課題も浮き彫りに

国際社会の協力については、パネリストの鈴木康裕・厚生労働省技術総括審議官が、日本の貢献について説明した。鈴木総括審議官は、活動資金、医療機器、車両などについては十分な貢献ができているとする一方、人材面では「日本は他の主要国と比べて相当見劣りする」と報告。大学などへの呼びかけをより活発にする一方で、派遣者やその勤務先へのサポート、派遣者が感染した場合の対応など、環境整備を進める必要性があるとの認識を示した。

参考:エボラ出血熱:人的支援の拡大を急げ!

また、感染症対策に詳しい東北大学大学院の押谷仁教授(医学系研究科微生物学分野)は、「エボラウイルスは感染力が強くなく、疫学的に言うと流行制御も難しくない。起こしてはならない流行が起きてしまったことを国際社会は反省しなければならない」と指摘。エボラ感染の連鎖は断ち切れておらず、現時点での流行地域以外に広がるリスクもなくなっていないとの見方を示した。さらに、流行地域の保健医療体制・公衆衛生システムが崩壊し、はしかの流行など2次的な被害が起きていることも報告した。

参考:シエラレオネ:エボラ流行で"2次被害"——MSF、小児科・産科援助を中断

医療者に防護服での作業訓練——人材確保対策の一環

防護服を着用した医療者にエボラ対策の作業を説明する加藤副会長 防護服を着用した医療者にエボラ対策の作業を
説明する加藤副会長

MSF日本は1月17日、エボラ流行国での援助活動を検討している医療従事者に向けた「エボラ出血熱対応への派遣に関する説明会」に講師を派遣。MSF日本の加藤寛幸副会長(医師)が、シエラレオネで実際にエボラ対策にあたった体験を交え、実践的な説明を行った。

説明会はMSF日本と日本赤十字社の共催で、国際赤十字からの派遣要請に対応できる人材確保を目的とした。日赤の国際医療救援拠点病院、第一種感染症指定医療機関など15病院から医師、看護師ら36人が参加した。

前半のセッションでは、加藤医師を含む3人の講師から、エボラ出血熱についての基礎的な知識や、今回のアウトブレイクに対する国際社会の対応、現地での実際の仕事の流れや治療施設の環境などの詳しい説明があった。また、医療者として感じたジレンマなども報告された。

後半は、より実践的なトレーニングとして、現地のテント式病院を再現したセットに会場を移して行われた。参加者はエボラの防護服の着脱を実際の手順に従って行い、防護服を着た状態での患者の受け入れや、診察、遺体処理などを実際に体験した。会場からは「短時間でも汗だくになるほど暑い」「実際の環境で防護服を確実に安全に脱ぐ手順は緊張するはず」といった声が聞かれた。

加藤医師は「エボラに関する報道が減少傾向にある一方で、現地では危機が続いている。世界に感染を広げないための取り組みは西アフリカの人びとの犠牲の上に成り立っている面もある。皆さんの力をぜひ現地で苦しむ人びとに貸してあげてほしい」と医療援助への参加を呼びかけた。

1990年代からエボラ出血熱の対策に取り組むMSFには治療などに関するノウハウが蓄積されており、国際赤十字もMSFから技術指導を受け、連携しながら西アフリカでの活動を展開している。

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