エボラとはしかが同時流行した時の対策とは はしかで死亡する患者が増加

2020年01月06日掲載

はしか患者の診察をするMSFの医師(右) © Alexis Huguet/MSFはしか患者の診察をするMSFの医師(右) © Alexis Huguet/MSF

国境なき医師団(MSF)の予防接種活動アドバイザーであるニコラ・ペイロー医師はつい先日、コンゴ民主共和国(以下、「コンゴ」)における一連の任務を終えた。現地では国連児童基金(ユニセフ)やコンゴ保健省に協力し、はしかの集団予防接種を支援。当該地域はエボラ流行にも見舞われているため、保健医療従事者にとって、はしかにかかった子どもへの手当ても、かかるリスクのある集団へのワクチン接種もいっそうの困難を伴う。ペイロー医師に聞いた。 

エボラとはしか 同時に対応する難しさ

エボラに対応するMSFスタッフ=2018年 © Carl Theunis/MSFエボラに対応するMSFスタッフ=2018年 © Carl Theunis/MSF

—はしかとエボラの両方が、同じ場所でこれほどの規模で流行するのは初めてです。この状況で保健医療従事者にとって特に難しいことは?  

エボラの流行地域では、医療人員の大部分が感染抑止や、感染の疑われる患者および感染確定患者の処置に動員されます。ただでさえ人手と設備に限りがあるときは、はしかなど他の病気の疫学的調査監視と医学的対応が手薄になりかねません。定期ワクチン接種などの予防策もやはり大幅に縮小するでしょう。実際、エボラ流行の始まった2018年半ば以降、エボラ感染地域のはしかの予防接種率は著しく低下しています。

はしかとエボラは、熱、発疹、嘔吐、下痢などの似た症状を呈することがあり、患者への対応も課題です。診療所のスタッフは、必ずしもこの2つを適切に見分ける訓練を積んでいないため、患者がどちらの病気になっているのかの判断が難しくなります。はしか患者がエボラ治療センター(ETC)に入院した場合や、逆にエボラ患者がはしか治療施設に入院した場合は、大変な問題になりかねません。

現地住民が体調を崩しても、エボラ感染を疑われて隔離させられることを恐れ、近くの診療所に来たがらない場合もあります。そのため、これほどの規模の流行に同じ場所で、2つの病気に同時に対応するのは非常に難しいのです。 

 —このような、いわゆる『二重の流行』の課題に、MSFはどう取り組んでいますか?

まず伝染リスク対策として、病院や診療所の入り口で患者の選別を行い、エボラ罹患の疑われる人はそのまま隔離施設に引き継ぎます。一方で、はしか患者も専門科で受け入れます。はしかは伝染性が高いため、入院中の小児はしか患者も、他の患者から隔離します。

次に実践するのは、一般的なはしか感染予防策です。これは保健医療従事者の役目です。手の衛生状態を清潔に維持し、清潔な手袋の使用、使用済み医療器具の消毒の徹底——などに取り組みます。はしか患者の隔離施設で使用する器具は、その場所でしか使いません。担当の医療スタッフも、はしかウイルスの予防接種を受ける必要があります。

最後に、手間がかかり大変であっても、入院患者にエボラを思わせる症状が見られないか、毎日確認することも欠かせません。 

伝染リスクを軽減するために

はしかに苦しむ3歳半の小児患者 © Alexis Huguet/MSFはしかに苦しむ3歳半の小児患者 © Alexis Huguet/MSF

—エボラの影響下ではしかのワクチン接種を行い、地元民の間の伝染リスクを軽減するために必要な対策は他にもありますか? 

エボラの伝染が頻発する地域で、一カ所に大勢の人が集まる際には、追加的な感染予防・制御策の実施が絶対に欠かせません。これに当てはまるのが、はしかの予防接種です。

はしかの予防接種会場の入り口では、まずエボラのスクリーニング検査担当者がThernoFlash(対象者の身体に触れずに測れる体温計)で来場した児童一人一人の体温を測ります。付き添いの方にも、直近の2日間で発熱、下痢、嘔吐などの症状がなかったかを尋ねます。それから、お子さんと付き添いの方の両方に、手洗いを勧めます。こうした対策によって、エボラ感染者が、予防接種会場に入る可能性を最低限にできるのです。

次に、予防接種を待つ列では、子ども同士が一定の距離を保っているかどうかを、警備員が見張っています。接種担当者は、予防接種をした子ども毎に手袋を交換し、含水アルコール溶液で手洗いをする決まりになっています。これらの追加的な対策には、時間も器具も人手も増やす必要があり、費用もよりかかります。こうした制約が守られるよう、会場も工夫して設計します。 

はしかの流行などについて正しい情報を住民らに伝えるMSFの健康教育担当のスタッフ(左) © Alexis Huguet/MSFはしかの流行などについて正しい情報を住民らに伝えるMSFの健康教育担当のスタッフ(左) © Alexis Huguet/MSF

ただ、こうした技術的な側面もさることながら、特に重要なのは地元民の参画です。集団予防接種は、対象者に接触できなければ成果が上がりません。実のところ、エボラを巡る不信感が根拠のない噂を呼び、人びとがワクチン接種に赴くのは、深刻な小児疾患の予防が必要だ、と納得できたときだけになってしまっています。現地の住民ははしかも、その危険性もよく知ってはいるものの、情報を伝えるだけは接種に来ません。その接種活動が安全であることも伝えなければならないのです。そこで、ワクチン接種の会場はエボラ関連施設からある程度離れた場所に置かれ、健康教育担当者が周辺世帯への情報提供を通じて、手順の説明とデマの拡散抑止を図ります。

7月には、エボラ流行下で初めてとなる、はしかワクチンの接種を実行しました。万事滞りなく進み、イトゥリ州ブニアほか、複数の保健地区の子どもたちが接種を受けました。この事例によって、エボラがまん延していても適切な対策を講じれば、はしかの予防接種は可能だと確認できました。これは、エボラまん延時であろうと、合併症から大勢の命を守るために、はしかワクチンの接種は必須だという勧奨を後押しするものです。この1回目の集団予防接種から得られた教訓を踏まえ、何カ月か後には、国内全域ではしかの予防接種活動が行われました。イトゥリ州では、エボラ感染リスクの高かかった8つの保健区域で、同様の活動が導入されています。 

エボラ対策だけを優先にせずに対応

はしかで苦しむ娘を見守る母親(左) © Alexis Huguet/MSFはしかで苦しむ娘を見守る母親(左) © Alexis Huguet/MSF

—MSFはエボラの影響下でどのような支援を、どういう理由で提供していますか? 

7月にユニセフやコンゴ保健省と協力して、イトゥリ州の子ども4320人にワクチンを接種できました。エボラ流行時にはしかワクチンを接種する方策が、国と地方自治体それぞれの保健局で精査・検証されています。MSFにははしかの予防接種に関する専門技能があるので、ユニセフ、コンゴ保健省、世界保健機関(WHO)とともに保健医療従事者の研修を行い、技術支援としています。

結論から言えば、エボラのせいで、はしかの死亡例が通常よりもはるかに多く、今年は既に国内26州で28万600人余りが、はしかに感染しています。それだけに、エボラ対策だけを優先するわけにはいかないという共通認識があったのです。

つまり、はしかの予防接種に期待される効果の方が、エボラが拡散するリスクよりも高かったわけです。最も重要なこととして、適切な情報発信と対策をすれば、このように致命的な2つの病気の同時流行の際も、はしかのワクチン接種をきちんとできることを証明できました。コンゴの人びとを壊滅に追いやろうとしているエボラウイルスの抑止に、大きな光明が見えてきました。 

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