患者を支える家族にも、支えを──エボラ治療の現場で求められる心のケア:コンゴ

2026年11月06日
国境なき医師団(MSF)が支援するエボラ治療センターで、窓越しに言葉を交わすカソキさん(左)と入院中の夫ビクトワールさん=2026年10月23日 © Elio Parfait/MSF
国境なき医師団(MSF)が支援するエボラ治療センターで、窓越しに言葉を交わすカソキさん(左)と入院中の夫ビクトワールさん=2026年10月23日 © Elio Parfait/MSF

透明な仕切り越しに、夫婦は顔を合わせ、言葉を交わす。

コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部・北キブ州ブテンボにあるエボラ治療センターに、カソキ・ザワディさんは毎日、夫のビクトワールさんを訪ねに行く。夫は入院して13日。仕切りの向こうから、ときおり笑顔を見せる。

ブテンボでは、2026年5月から10月22日までに1472人のエボラ病(エボラ出血熱)の感染が確認され、735人が死亡した。国境なき医師団(MSF)が支援する治療センターでは、患者への診療に加え、その家族や大切な人びとへの心のケアも行っている。

家族にも重くのしかかる不安

コンゴでのエボラ病の流行は、もともと治安の悪化や経済的な困難に直面していた人びとに、さらなる打撃を与えている。

多くの家庭が、近隣地域での戦闘から逃れてきた親族を受け入れているほか、移動制限や物流の減少も重なって、人びとの暮らしはいっそう厳しさを増している。

MSFはこのエボラ治療センターで、患者だけでなく、その家族や大切な人びとも、恐怖や不安、検査結果を待つ間の心の負担を乗り越えられるよう支援している。入院したその時から心理士が寄り添い、不安や悩みに耳を傾けたり、治療について説明したりすることで、患者や家族をサポートしている。

カソキさんは毎朝6時半ごろに治療センターを訪れ、夕方6時半まで夫のそばで過ごす。夜は、義理の兄が引き継いでいる。

「窓で隔てられていても、話をすることはできます」とカソキさんは言う。

窓越しに夫と対面するカソキさん(左)。夫が入院していた23日間、毎日朝6時半から夜6時半まで付き添いを続けた=2026年10月23日 © Elio Parfait/MSF
窓越しに夫と対面するカソキさん(左)。夫が入院していた23日間、毎日朝6時半から夜6時半まで付き添いを続けた=2026年10月23日 © Elio Parfait/MSF

お互いに顔を見ることができる。それだけでも、心が安らぎます。

カソキ・ザワディさん エボラ病を患った夫を支える女性

夫が入院して以来、カソキさんは教師の仕事を休んでおり、その間の生活は家族に支えられている。

自身も感染していないかという不安を抱えるなか、センターを後にし、夫と離れる時間も大きな心の負担になっているという。

「家に帰って夫の顔が見られなくなると、なかなか眠れません」とカソキさんは話す。

数日後、夫の検査結果が陰性となり、カソキさんは「もうすぐ家に帰れる」と希望を抱いた。ところが、2回目の検査で再び陽性となった。

また陽性だと分かったときは、心も体も疲れ果てていました。幸い、心理士のサポートのおかげで気持ちが落ち着き、次の結果を待つことができました。

カソキ・ザワディさん エボラ病を患った夫を支える女性

心の安定が、回復を促す

パトリス・ムイサ・ココッツ © Elio Parfait/MSF
パトリス・ムイサ・ココッツ © Elio Parfait/MSF
エボラへの感染や入院は、患者だけでなく、その家族にとっても大きな心の負担となる。

ブテンボでは、MSFで心のケアのチームリーダーを務めるパトリス・ムイサ・ココッツが、患者や家族の心理的なサポートにあたっている。
 
治療センターを訪れる人びとは、エボラそのものへの恐怖に加え、「ここで自分はどうなるのだろう」という不安も抱えているとパトリスは話す。

中には、隔離されることで、「自分は見捨てられてしまうのではないか」と感じる人もいるという。

まずは時間をかけて、自分のことやこれまでの経験、今の気持ちを話してもらいます。

パトリス・ムイサ・ココッツ MSF心のケア・チームリーダー

パトリスのチームは、治療センターでどのように過ごすかを案内し、受けられる治療やケアについて説明するとともに、家族などとの面会も調整する。そして、ほかの患者や付き添いの人びとの姿を見ることも、患者や家族の安心につながるという。

また、心のケアは、患者の回復にも良い影響をもたらす可能性がある。

「エボラ病は突然発症する病気で、患者に大きな心の傷をもたらします。いつ命を落としてもおかしくないという恐怖にさらされ、常に強いストレスを抱えることになります」と、北キブ州ベニで活動するMSFの心理士レイチェル・カシモトは言う。

「心が不安定で、身体的にも十分なケアを受けられなければ、治療がうまく進まないこともあります。反対に、心が安定し、周囲の支えや適切な経過観察があれば、身体の状態も改善していきます」

そして、良くなるという希望があれば、医療スタッフの指示にもしっかり従うことができ、早い回復につながることもあるのです。

レイチェル・カシモト MSFの心理士

偏見や罪悪感──退院後も求められるケア

心のケアは、患者が退院した時点で終わるわけではない。イトゥリ州モングワルでは、エボラから回復した人びとのための診療所で、退院後の支援も行われている。

「個別のカウンセリングに加え、グループで話し合う機会も設けています」と、モングワルにあるMSFのエボラ治療センターで心のケアを統括するフィービー・ズエヤ・ヨンケウは言う。

「多くの人が、家に戻った後に偏見にさらされたと話します。仕事を失ったり、『まだ人に移すのではないか』と思われて、地域の人びとから拒絶されたりすることもあります」

エボラで亡くなった大切な人に対して罪悪感を抱き、「自分が感染させてしまったのではないか」と自分を責める人もいます。

フィービー・ズエヤ・ヨンケウ MSFエボラ治療センターで心のケアを統括するスタッフ

治療センターを退院した後も、偏見にさらされたり、死と隣り合わせだった経験による心の傷を抱えたりする患者がいる一方で、家に帰れることは、患者本人や家族に大きな安堵をもたらす。

入院から23日目、ビクトワールさんに退院できることが伝えられた。2回続けての陰性が確認され、夫婦は「やっと家に帰れる」と喜びをかみしめる。

「カソキがそばにいてくれることも、私にとっては治療の一つです」とビクトワールさんは言う。

安心しますし、彼女の顔を見ると、ストレスが和らぐんです。

ビクトワールさん エボラ病を克服した男性

エボラ病を克服し、笑顔を見せるビクトワールさん(左)と妻のカソキさん © Elio Parfait/MSF
エボラ病を克服し、笑顔を見せるビクトワールさん(左)と妻のカソキさん © Elio Parfait/MSF

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