医療援助の仕事をしたために逮捕 スタッフ拘束から4カ月 カメルーン

2022年05月11日
カメルーン南西部、マンフェ地区病院の医療スタッフ。MSFは外科、産科、救急、小児科の診療を無償で提供し、救急車での搬送も行っていた=2021 年2月 © Scott Hamilton/MSF
カメルーン南西部、マンフェ地区病院の医療スタッフ。MSFは外科、産科、救急、小児科の診療を無償で提供し、救急車での搬送も行っていた=2021 年2月 © Scott Hamilton/MSF

看護師のマルグリットと運転手のアシューは2021年12月26日早朝、カメルーン南西州で銃撃された男性を搬送すべく出動した。国境なき医師団(MSF)の救急車は、マラリアの子どもや妊婦、交通事故のけが人などを運ぶことがほとんどだが、この地域では銃で撃たれた患者も少なくない。とはいえ2人も、その後に待ち受ける悪夢を想像すらしていなかっただろう。

カメルーンではこの5年、英語圏の独立を主張する分離派と政府軍との間で武力衝突が続く。この政治状況により、中立・公平な立場で人道援助を行うMSFスタッフの逮捕が立て続けに起きている。

逮捕までの経緯

救急車は当初、負傷者の居場所を見つけられずにいた。午前8時頃、ようやく患者を発見。容体を安定させたうえで救急車に載せ、複雑な手術が行える病院に搬送するため、クンバへ向かった。患者は27歳で、身分証を所持していなかったが、カメルーンでは珍しいことではない。

MSFは当局との合意に基づき、救急車の出発地と目的地、患者の状態、身分証や同伴者の有無など、搬送に関する連絡をした。通常、このような手続きはMSFでは行っていないものの、検問所で救急車が何時間も引き留められて、患者に害が及ぶのを防ぐには不可欠になっていた。当局との連絡手順が決定したのは昨年10月。以来、さまざまな状況下で132件の救急搬送が問題なく行われてきた。

大きな交通事故に巻き込まれ、クンバ地区病院に運びこまれた男性 © Scott Hamilton/MSF
大きな交通事故に巻き込まれ、クンバ地区病院に運びこまれた男性 © Scott Hamilton/MSF

マルグリットとアシューは、患者が誰なのか、分離独立派と関わりを持つ人物なのかも知らなかった。知っていたのは、救急処置が必要なけが人ということのみ。救急車は9時頃に現場を離れ、マルグリットは車内で、病院に渡す搬送書類に患者から聞いた名前を記入していた。すると救急車がヌグティの検問所で止められた。

2人は説明したが、通過を拒否され、引き返すよう命じられた。マンフェまで護送された彼らは、そのあと逮捕され、4カ月以上経ったいまも刑務所に拘留されている──。

人道的な仕事をして拘束

患者は軍当局の警護のもと、マンフェで手当てを受けた。マルグリットとアシューは数時間の取り調べのあと解放されたが、供述のために翌日戻るよう命じられた。翌27日、2人はまず憲兵隊に拘束された。そして、テロリストの脱出作戦への関与、搬送書類の偽造、患者に偽名を与えたなどの容疑で公に非難されることとなる。この地域の独立派勢力をほう助したとこじつけられたのだ。

MSFチームはこれらの容疑と拘束を知らされた時、誤解はすぐに解消されるだろうと思った。そして2人が合意された手順をしっかり守っていたことを証明しようと、当局に連絡を取った。MSFも弁護士も、そしてマルグリットとアシュー自身も実情を説明したが、4カ月経っても彼らは釈放されていない。

MSFは、患者が身分証を携行していない場合、当局と合意した行政手続きに則っていることを強調してきた。紛争下でけが人や病人を治療し搬送することは、人道援助団体の基本となる活動だ。医療は、患者がどちらの陣営に属するかにかかわらず施される。カメルーンの法律でも、命の危機に瀕した人への緊急援助の提供は保護されている。

同僚2人の即時釈放を求め、MSFは当局に繰り返し説明してきた──中立・公平な立場の医療団体として、MSFは政府軍も含む両陣営の負傷者に対し援助活動を行ってきたこと。銃に撃たれた患者への対応は、カメルーン南西部でのMSFの活動においてわずかな割合でしかないこと。緊急時に利用できるよう、MSFの連絡先が地域に知られていること。人びとへの接触とスタッフの安全を確保するためには、紛争の全ての当事者と話をしなければならないことなどだ。

MSFの救急車でマンフェ地区病院に運ばれた2人の子どもと母親=2021年2月 © Scott Hamilton/MSF 
MSFの救急車でマンフェ地区病院に運ばれた2人の子どもと母親=2021年2月 © Scott Hamilton/MSF 

カメルーンの独立機関であるマンデラ国際センターは、国防省の要請により報告書をまとめた。公開されたその報告書は、マルグリットとアシュー、そしてMSFに対する不正行為の疑いを晴らし、2人の即時釈放を要求している。

別件でさらなるスタッフ逮捕

マルグリットとアシューの逮捕から数週間後、今年1月19日から20日にかけて、さらに2人のMSFスタッフが別件で逮捕された。容疑はやはり分離独立派へのほう助とされる。マルグリットとアシューのときと同様、彼らが医療・人道援助団体として行った業務の合法性は明らかだ。MSFはカメルーンの法的手続きに従いながら、彼らの即時釈放を求めている。

スタッフが無事解放されることに専念するため、MSFは3月29日、南西部での活動を停止する苦渋の決断をした。医療援助が求められている一方で、その活動の従事者は仕事をすることで逮捕されるリスクを背負う──そんな板ばさみの状態に置かれたからだ。援助の責務を全うするには、安全で安心できる環境で医療を行えることが基本的な前提条件となる。南西部では明らかにこの条件が失われ、医療活動が保護されないばかりか、むしろ弾圧される。私たちはスタッフを危険にさらすわけにはいかない。

4人の同僚が拘束されて以来、MSFは医療活動に関する情報を伝えるなどして、国や地方のレベルで当局に働きかけてきたが、釈放は実現していない。MSFは当局と対話を続け、一刻も早い解決を目指す。

マンフェ地区病院にて。MSF救急車は病院のない地域に住む患者を運んできた © Scott Hamilton/MSF
マンフェ地区病院にて。MSF救急車は病院のない地域に住む患者を運んできた © Scott Hamilton/MSF

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