米国が約80億ドルの援助削減を決定 紛争地・人道危機下の人びとにさらなる打撃
2025年07月30日
米国議会は、約束されていた約80億ドルの対外援助を撤回する決定を下した。国境なき医師団(MSF)はこれに対し、紛争や人道危機に直面している世界中の人びとにとって、深刻な状況をさらに悪化させることになると警鐘を鳴らしている。
この決定は、今年初めにトランプ大統領が打ち出した、米国が支援するグローバルヘルスおよび人道援助プログラムの大幅な削減方針に続くもので、米上下院で可決された。
資金削減で世界中の援助現場に広がる波紋
米国議会は今回、大統領緊急エイズ救済計画(PEPFAR)および食糧援助プログラム「Food For Peace」に関しては、追加の削減を取り止めた。MSFはこの決定を歓迎する一方で、約80億ドルの資金削減は、今年初めの米国の対外援助削減によって生じたグローバルヘルスおよび人道上の緊急事態の悪化に、さらに拍車をかけるとして懸念を表明している。
MSFはすでに、診療所の閉鎖、重要な集団予防接種の中断、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に関する支援ツールの不足、清潔な飲料水の供給不足など、援助削減が命を脅かしている状況を目の当たりにしている。

支援の空白、MSF単独では限界
米国は長年にわたり、グローバルヘルスおよび人道援助プログラムの主要な支援国であり、2024年には関連資金の約4割を拠出(出典:経済協力開発機構=OECD)。また、世界の政府開発援助(ODA)の約3割も米国が占めている。
こうした米国の援助資金は世界中のコミュニティの健康と福祉の向上に貢献してきた一方で、その総額は米国の連邦政府予算のわずか1パーセント以下にすぎない。
MSFは米国政府から資金提供を受けていないため、今回の削減による直接的な影響は受けていない。しかし、MSFの活動は他の現地団体や国際援助団体が提供する医療援助や、食料、住居、保護といった医療以外の支援活動の上に成り立っており、MSFだけですべてを担うことは不可能だ。
例えば、食料支援が削減されると、MSFの診療所には栄養失調の子どもがあふれることになり、住居支援プログラムが削減されると、病院から退院してまだ弱っている状態の患者に行く先を紹介できなくなってしまう。

この事態に対し、MSF米国グローバルアドボカシーおよび政策責任者であるミヒル・マンカドが声明を発表した。
ミヒル・マンカド(MSF米国グローバルヘルスアドボカシーおよび政策責任者)の声明

PEPFARおよびFood For Peaceへのさらなる打撃は今回、幸いにも回避されました。とは言え、米国議会が約80億ドルの援助資金を撤回したことは、グローバルヘルスおよび人道援助の分野における米国のリーダーシップの後退をさらに強め、世界で最もぜい弱な人びとをより苦しめる結果となるでしょう。
中でも、家族計画およびリプロダクティブ・ヘルスに関する約5億ドルの援助撤回は、特に壊滅的です。というのも、米国政府はこれまで、この分野において世界全体の支援の40%以上を提供してきました。この決定は、今年1月に米国がこれらの重要なプログラムへの資金拠出を突然停止したことで生じた深刻なサービスの格差を、さらに固定化するものです。
中でも、家族計画およびリプロダクティブ・ヘルスに関する約5億ドルの援助撤回は、特に壊滅的です。というのも、米国政府はこれまで、この分野において世界全体の支援の40%以上を提供してきました。この決定は、今年1月に米国がこれらの重要なプログラムへの資金拠出を突然停止したことで生じた深刻なサービスの格差を、さらに固定化するものです。
家族計画やリプロダクティブ・ヘルスだけでなく、あらゆる分野において、資金削減が命を脅かす影響を及ぼしているのを、MSFはすでに世界各地で目の当たりにしています。
人道援助団体や医療団体は、資金も人員も不足し、今後の見通しも立たないまま、命に関わる活動を何とか続けようと奔走しています。
医師たちは、HIVや結核の治療をどこで続けられるのかと尋ねる患者に、どう答えれば良いのか分かりません。コミュニティのリーダーたちも、子どもの命を守る予防接種を提供するNGOが今後も活動を続けられるかどうか、住民に保証することができないのです。
今回の一連の援助資金削減は、支援を最も必要としている人びとにとって、現状をさらに悪化させるだけです。
私たちは、この危険な現状を“新たな常態”として受け入れることはできません。そして、受け入れるべきでもありません。
MSFは引き続き世界中で医療・人道援助の提供に全力を尽くしますが、私たちだけではできないことがあります。
この拡大する人道危機がさらに深刻化することを防ぐため、MSFは議員たちに対し、次回の米国予算ではグローバルヘルスおよび人道援助への支援を確保すべきだと訴えます。
