終わりの見えない待ち時間──バングラデシュ 限界に迫るロヒンギャ難民キャンプの医療援助
2025年09月10日
バングラデシュ・コックスバザールのロヒンギャ難民キャンプ。ジャムトリの基礎診療所で娘とともに診察を待つヌール・ベグムさんはそう話す。
ロヒンギャ難民キャンプにあるMSFの医療施設では今、患者の急増により対応が追いつかず、厳しい状況が続いている。限られた支援体制のもと、施設やスタッフへの負担が増し、対応の限界が近づきつつある。
患者数は140%増 医療体制への負担も
雨期に入ったバングラデシュは、湿度が高い。毎年この時期に流行するデング熱やチクングニア熱の患者は急増し、高熱や寒気を訴える人びとが多く診察に訪れる。
人びとは朝早くから竹の屋根の下で木製ベンチに座って順番を待ち、ヘルスプロモーターがその合間に健康に関する情報を伝えている。女性たちの中には、バッグや傘を枕代わりに横になり、疲れた様子の子どもが腕を預けて眠る姿もある。

「季節的な疾患の増加はありますが、糖尿病などの非感染性疾患の患者数も増加しています。以前は月に2、3件だった症例が、今では10~15件に上っています」
MSFが運営するジャムトリ診療所の医師、アブドルラフマンはそう説明する。
「非感染性疾患の治療を開始できる人数には月ごとの上限を設けています。薬の在庫切れやスタッフへの過度な負担を避けるためです。受け入れる患者数が上限を超えると、治療の質を保てなくなるため、新規患者は他の医療機関に紹介するよう努めていますが、これも容易ではありません」

2025年6月、キャンプ14と15内にあるMSFの救急外来を訪れる患者数は、年初と比べて140%増加した。患者の中には早朝に到着し数時間待つ人もいれば、待ち時間が短い夜間に訪れる人もいる。
「以前は夜間の患者数は30~40人ほどでしたが、今では100人を超えることも珍しくありません」とトリアージを担当する看護師のアミール・ハムザは話す。外来部門もすでに定員を超えて稼働しており、医療体制への負担が増し続けている。
求められる持続可能な解決策
資金の削減により、今後、影響はさらに深刻化する見通しだ。ロヒンギャ危機はすでに長期化する一方、世界では新たな紛争や人道危機が次々と発生し、あるいは悪化している。

コックスバザールのロヒンギャ難民キャンプには現在、100万人以上が居住している。数十年にわたり滞在している人もいれば、2017年の激しい弾圧を逃れて国境を越えてきた人も多い。ミャンマーでの戦闘は今も続いており、2024年以降は新たにキャンプに到着する人が大幅に増加している。そのため、限られた支援体制にさらなる負担がかかっている。
「息子の一家8人が、3カ月前にミャンマーから移ってきましたが、まだ配給物資は届いていません。これだけの人数を養うのは本当に厳しいです」
糖尿病の治療薬を受け取りに、MSFの施設を訪れたアブドルカラムさんはそう話す。

MSFのチームは、最も緊急性の高い患者の診察に対応する一方で、やむを得ず他の患者を断らざるを得ない状況も生じている。こうした現場のひっ迫した状況は、現在の体制が持続可能ではないことをこれまで以上に浮き彫りにしている。
「キャンプ内での必須サービスを維持すること。そして人道援助にほぼ全てを頼らざるを得ないロヒンギャの人びとが必要な支援を受けられることが、極めて重要です。診療所の混雑が増す中、私たちは対応に最善を尽くしていますが、これは持続可能な解決策ではありません」
バングラデシュでMSFの現地活動責任者を務めるプージャ・アイヤーはそう話す。
圧倒的なニーズに直面しながらも、MSFのチームは懸命に対応を続けています。
MSFのバングラデシュ活動責任者 プージャ・アイヤー

「娘は高熱で震え、寒がっていたので診療所に連れて来ました。でも、長時間待つと分かっている日は、来るのを諦めることもあるんです」
バングラデシュ、コックスバザールにおけるMSFの活動
MSFはコックスバザールで、10カ所の病院と基礎診療所を運営。入院と外来において、救急医療、集中治療、小児科、産科、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)、性暴力被害者の治療、非感染性疾患患者の治療などの幅広い医療を提供している。