「難民になりたい人などいない」 ロヒンギャ難民、心が限界に……求められる心理ケア

2021年01月27日掲載

高台からロヒンギャ難民キャンプを見つめるMSFスタッフ=2020年8月 © Hasnat Sohan/MSF高台からロヒンギャ難民キャンプを見つめるMSFスタッフ=2020年8月 © Hasnat Sohan/MSF

いつまでこの状態が続くのか——。2017年8月、ミャンマー西部ラカイン州で、イスラム系少数民族ロヒンギャの人びとを狙った大規模な掃討作戦が始まり、多くの人びとが隣国のバングラデシュに逃れた。それから3年以上。難民として困難な生活を強いられてきた人びとの心は限界に達している。国境なき医師団(MSF)が心理ケアの現場で出会った人びとの声を伝える。 

地獄のような日々 自殺を図ったことも

ファルクさんは、バングラデシュのコックスバザール県のキャンプで妻と子どもたちと暮らすロヒンギャ難民の一人だ。「私たちは屋根のない牢獄に住んでいるようなものです。けがや病気などで特別な許可が下りない限りキャンプの外には出られず、地獄のような毎日の繰り返しです。難民になりたい人などいるはずがありません」

自分自身をかんでしまうことがある、とファルクさんは言う。「まだ自分には感覚が残っているのか……。それを確かめたくて自分の体をかんでしまうのです」。これまでに自殺を図ったこともあると明かす。 

ロヒンギャ難民のファルクさん 新型コロナウイルスの影響で状況の厳しさが増した © MSF/Farah Tanjee
ロヒンギャ難民のファルクさん 新型コロナウイルスの影響で状況の厳しさが増した © MSF/Farah Tanjee

あの「島」に送られる——

さらに人びとを不安にさせていているのが、ある「島」の存在だ。「ロヒンギャ難民は、本土から30キロ離れた、土砂でできたバサンチャールという島に移転させられるらしい」。そのうわさは住民の間で2015年頃から立っていたが、ついに現実のものとなった。昨年5月、海上で救出された約300人のロヒンギャ難民が新型コロナウイルス感染症の検疫隔離のために島に移送された。その後難民が島を出ることはなく、勾留中の状況についてはほとんど知られていない。

12月初旬にはコックスバザール県内にある複数のキャンプからさらに1600人余りが島に送られ、これまでに推定3000人余りが島に移されたとされている。この島には10万人を受け入れられると当局は公表しており、今後さらに多くのロヒンギャ難民が移されると予想されている。島には人道援助団体も国連機関も入れない状態が続き、現地の状況が懸念される。

将来への希望も法的地位もないまま窮屈なキャンプ暮らしを続けてきたうえ、新型コロナウイルスでさらに厳しい状況に追い込まれた難民の人びと。キャンプではコロナ対策の名目で、医療や食料配布、給水など主に人道援助団体が担っていた活動は約8割削減された。そこに「島」の不安が追い打ちをかけているのだ。 

安心を取り戻すために

昨年10月、難民キャンプの中で2つのロヒンギャ勢力が12日間にわたって衝突。この体験を、MSFのクトゥパロン病院に来院したアシヤさん(30歳)が表情をこわばらせながら話し始めた。

「銃声が聞こえてきた時、誰かが襲ってこないように子どもたちと一緒に台所で息をひそめて隠れていました。家には男性がいませんでしたから。怖かったし、ショックでした」

MSFの心のケア活動マネジャー、キャシー・ロストスはこう話す。「心を健康に戻すためには、安心感を取り戻すことが一番です。少しでも自分の将来を変えることができれば、安心できるようになります。意思決定に住民の参加を促すこともその一部です。そうすれば、心の傷による長期的な影響を和らげることにつながります」 

MSFの診療所を訪ねたアシヤさん  © MSF/Farah TanjeeMSFの診療所を訪ねたアシヤさん  © MSF/Farah Tanjee

心のケアのカウンセリングを提供

クトゥパロン病院でボランティアをしているライラさんはも、暴力に直面した難民の一人だ。「キャンプ内にある学校の敷地に避難し、20日近く家に戻れませんでした」

話している間、ライラさんは手に持った紙を何度も丸めては広げることを繰り返している。MSFの心のケアスタッフは、目を合せようとしないライラさんを見て、このように気を紛らせることで感情をコントロールしようとしている可能性があると判断した。「ピリピリしていますし、将来のことを考えると挫折感を覚えます」とライラさんは話す。「未来も希望もないと思うようになりました。私たちはただここに閉じ込められているだけで、仕事を得ることもできません。そうしたことが重なって、キャンプでの生活は本当につらく感じるのです」

MSFは2009年からコックスバザール県のロヒンギャ難民キャンプで心のケア活動を実施。心のケアの専門家が、心の苦しみへの対処方法や立ち直る力を教えている。昨年1年間で、MSFはグループ向けのカウンセリングを3万6027件、個別のカウンセリングを3万2336件実施した。

そうした中、人びとの心の中には希望も生まれてきている。「いろいろなことを夢に描いているんですよ」とファルクさん。「別の所に行ってみたいと思うし、正義と権利さえ守られれば、アラカン(現在のミャンマー・ラカイン州)の故郷に行きたいと思っています」

(患者の名前は仮名を使用しています) 

クトゥパロン病院でMSFのスタッフと話をするライラさん © MSF/Farah Tanjeeクトゥパロン病院でMSFのスタッフと話をするライラさん © MSF/Farah Tanjee

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