ブルキナファソ:「ここにいては皆殺しにされてしまう」──激しい暴力が残す心の爪痕とは

2020年10月29日
2019年1月以降、武装集団による暴力が多発するブルキナファソ。MSFは避難民のために移動診療所を展開 © MSF
2019年1月以降、武装集団による暴力が多発するブルキナファソ。MSFは避難民のために移動診療所を展開 © MSF

7月のある夜、武装した男たちがブルキナファソ東部の村に侵入し、1人を殺害した。翌朝にも戻ってきて2人目の男性を殺し、隣の村でも殺人を繰り広げた。

「そのとき気づいたんです。ここにいては皆殺しにされてしまうと。妻や子ども、両親を連れて、誰もが村から逃げ出しました。何も持たず、家畜も置き去りにしてきたので、無一物となってしまいました。不安で心底疲れています」。25キロ離れた町へと避難した45歳の住民はこう話す。

急激に悪化する人道危機

西アフリカに位置するブルキナファソは、世界で最も急速に人道危機が悪化しつつある国だ。この2年間、同国の北部と東部で武装勢力による暴力が激化し、100万人以上が自宅を追われた。その半数近くは今年に入ってから避難を余儀なくされた人びとで、襲撃事件の急増がうかがわれる。多くの人が水や食料、避難場所、医療の限られた中で暮らし、先行きが不透明なまま、またいつ起こるとも知れない襲撃に脅かされている。この雨期の間には、マラリアや栄養失調の増加などさらなる困難も湧き上がる。

そのほかにも、見えにくいが深刻な問題がある。

「激しい攻撃を目撃した人は、心に傷を負います。そしてまず『なぜこんな目に遭うのだろう』と自問自答し、それから自分が生き残ったことや、他の人を救えなかったことに罪悪感を覚えるのです。故郷を去らねばならなかった人では、苦しみがさらに深まることも」。こう話すのは国境なき医師団(MSF)の心理療法士、イサカ・ダヒラだ。

紛争の心への影響

暴力や避難に直面した後、どのように反応し適応するかは人によって異なる。家族や周囲の助けを得て乗り超える人もいれば、自分の殻に閉じこもり感情を抑えようとする人もいる。

「悲しみ、恐怖、否認、怒りなどを抱え続けて、何週間あるいは何カ月も経った後に診察を受ける。そして『自分は価値のない人間だ。こんな人生には意味がない!』と言うのです。将来に希望を見出せず、命を絶とうとする人もいます」とダヒラは言う。

この夏、1歳の男の子を持つ母親が自殺した。住んでいた村が襲撃され、夫が殺害された後だった。

このようなケースは頻繁に起こるものではないが、暴力の影響を受けた人びとが経験するトラウマの深刻さを物語っている。紛争下では、そうした心の問題を訴える患者数が増加する。平均して5%の人が重度の、17%の人が中等・軽度の精神疾患を発症すると言われている。

MSFが心理ケア・プログラムを行っているブルキナファソ東部の地域 © Bado Yipo Vincent/MSF
MSFが心理ケア・プログラムを行っているブルキナファソ東部の地域 © Bado Yipo Vincent/MSF

体調だけでなく心の症状に気づく

人びとの苦しみを和らげようと2019年末、MSFはブルキナファソの東部地域で心のケアを開始。7月から9月にかけて128人が個別カウンセリングを、4391人がグループカウンセリングを受けた。

「睡眠障害、頭痛、動悸の激しさ、些細なことへの動転など、患者は主に体に現れた症状を初診で訴えます。心や感情の問題より、体の不調に気付くことのほうが誰しも上手ですから」とダヒラは話す。

子どもでは、暴力や避難の経験に対して子ども特有の反応がある、とダヒラは言う。おねしょや悪夢などの兆候で表れる子もいるが、一方で全く否定する子もいる。トラウマとなった出来事がどのようなものだったかを把握するために、子どもたちにはゲームを使うこともある。

暴力を目のあたりにしながらそれを認めない子どもたちもいる © Bado Yipo Vincent/MSF<br>
暴力を目のあたりにしながらそれを認めない子どもたちもいる © Bado Yipo Vincent/MSF

人びとの心の苦しみを和らげるために、MSFチームは多岐にわたるサービスを提供している。個人や家族、グループなどを対象としたカウンセリングでは、心のケアの専門家が対処能力や立ち直る力を育む手助けをする。また、性暴力、HIV/エイズ、栄養失調といった、個別のテーマごとにも取り組んでいる。トラウマとなる出来事を経験したばかりの人びとには、「心理的応急処置」と呼ばれる手法で対応する。

MSFは心のケアの重要性を啓発しているが、誰もがサポートを求めてやって来る状況には至っていない。一つには、へき地や治安の悪い地域では、ケアを受けようにも移動が困難だからだ。そしてもう一つ、ブルキナファソにいまだ残る、心の不調を差別視する風潮が課題となっている。

避難した女性と話をするMSFの心のケアチーム © Bado Yipo Vincent/MSF
避難した女性と話をするMSFの心のケアチーム © Bado Yipo Vincent/MSF

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