「わが子と共に生きたい」──危機にあるアフガニスタン 赤ちゃんの命を守るために
2024年01月16日病院を訪れた母と子
現在、ハディアちゃんは、MSFの支援する病院に入っている。小児救急処置室において重度の急性栄養失調と診断された。ファリダさんは、娘が治癒することを願うばかりだ。
一方、救急処置室の上の階には未熟児病棟がある。そこにも1組の親子がいた。新生児集中治療室(NICU)から出て2日目となるアトーサちゃんと、その母親のシェキバさんだ。アトーサちゃんは出産予定日より3カ月早い28週目で生まれた。体重はわずか1.2キロしかなく、4週間もの間、NICUの保育器の中にいたのだ。
シェキバさんが次のように語る。
「娘は保育器に入れられ、鼻には管が通り、体のあちこちにワイヤーを取り付けられました。見るのもつらかった。医療機器の音が鳴り響くたびに、お前の子どもは重病だぞと告げられているみたいで、たまらなかったものです」
「あの子はいまにも壊れそうでした。これからどうなってしまうんだろう……。私の心は押しつぶされそうでした。でも、ようやく娘の容体が安定してきて、集中治療室から未熟児病棟に移りましょうと医師が言ってくれた。その日のことは今でも思い出します。信じられなくて、すぐ夫に電話しました。娘が家に帰れる日も近いから用意しておいてねって」
本来なら助かる命が失われる
2023年8月より、MSFは、アフガニスタン保健省と協力して、バルフ州マザリシャリフの病院で医療活動を開始した。目標は、アフガニスタン北部において、小児・新生児の死亡率を低減させることだ。この病院は、15歳以下の小児を対象としたNICUと救急処置室を設置しており、トリアージシステム(重症度や緊急度によって治療の優先順位を決めること)に基づいて、症状の重いケースほど確実に必要な治療を受けられるよう図っている。
この病院のMSFの医療チームは、毎月平均3000人の重症児を小児救急処置室にて受け入れ、546人の新生児をNICUにて受け入れている。NICUにおける平均ベッド稼働率は常に140%を超えており、現在に至っては、定員27人の倍以上にあたる60人の乳児を受け入れている。 MSFとしては、乳幼児一人一人に合わせたきめ細やかな診療に取り組みたいのだが、現在の環境ではその実現が難しい。さらなるリソースの拡大が必要だ。
この点に関して、マザリシャリフでMSFの副活動責任者を務めるハイディ・ホッホステンバッハは、次のように語る。
「この地で活動を開始したのは、アフガニスタンの人びとの切実な医療ニーズに対応するためです。そのニーズは膨らむ一方ですが、実際の医療体制は綱渡り状態にあり、リソースも不足している。そのような中でも、なんとか赤ちゃんや子どもたちのために活動を続けています。現在、MSFが支援している現場では、ベッド稼働率が非常に高い。これは、診療へのニーズに比べて、この地域の医療体制が大幅に不足していることを意味しています」
私たちの目標は、病院にやってくる子どもたち一人一人が最適なケアを受けられるようにすること。本来なら治療できるはずの病気やけがで命を落としてしまうケースを1人でも減らすことです。
ハイディ・ホッホステンバッハ、MSFの副活動責任者
娘と共に生きたい
長年にわたって、アフガニスタンでは、医療における人員・資金不足に直面し、人びとの医療ニーズに対応しきれない状況が続いてきた。2021年8月には、タリバンへの政権交代が起こる。それに伴って、諸外国や資金拠出機関からの援助資金額が減少しており、アフガニスタンの医療は、さらなる財政難・インフラ悪化・人員不足に直面することになった。ますます多くの人びとが医療を受けられず、健康リスクが高まる状況となっている。
今回、ファリダさんとシェキバさんという2人の母親のことを紹介した。両者が体験したことは、アフガニスタンの医療状況を象徴するものであり、MSFが解決に向けて取り組んでいる問題そのものの象徴なのだ。
シェキバさんは語る。
娘と一緒に過ごす未来を思い描くんです。髪をとかしてあげたい。きれいな三つ編みにしてあげたい。一緒に遊んであげたい。学校に連れて行ってあげたいんです。
シェキバさん、アトーサちゃんの母親
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