WHO推奨のコロナ治療薬 価格はジェネリック薬なら400分の1

2022年01月18日
新型コロナの感染拡大で数多くの犠牲者が出たインドで、患者に寄り添うMSFスタッフ=2021年7月 © Nikhil Roshan
新型コロナの感染拡大で数多くの犠牲者が出たインドで、患者に寄り添うMSFスタッフ=2021年7月 © Nikhil Roshan

世界保健機関(WHO)は1月14日、新型コロナウイルス感染症の重症者の治療薬として「バリシチニブを強く勧める」との指針を発表した。「バリシチニブ」は飲み薬で、日本では関節リウマチなどの薬として承認されており、昨年4月には新型コロナによる肺炎の治療薬として適応が追加された。

国境なき医師団(MSF)は、この薬の普及が特許の独占によって妨げられないよう各国政府に早急の対策を求める。

ジェネリック薬で価格はおよそ400分の1に

WHOがこれまでに推奨した新型コロナ治療薬のなかで、トシリズマブとサリルマブ(※)は多くの低・中所得国で供給不足が続いている。バリシチニブは似た効果を持ち、入院患者にとって代替薬となりうる。
※インターロイキン6(IL-6)の活性を抑制するモノクローナル抗体で、薬価が高額にとどまっている

バリシチニブは、関節リウマチなどに使用する薬としてすでに承認されている。また、インドやバングラデシュではジェネリック薬(後発薬)が出回り、特許をもつ米製薬イーライリリーが設定している価格よりもはるかに安く手に入る。インドのメーカーが製造したバリシチニブは治療1回(※)あたり5.50米ドル(約629円)で、バングラデシュでの最安価格は6.70米ドル(約767円)。これは、イーライリリーが7月に提示した2326米ドル(約26万6187円)という法外な価格の約400分の1にあたる。
※新型コロナ患者への推奨用量は、4㎎を1日1回、14日間投与。

しかし多くの国では、バリシチニブが特許で独占状態にあるため、ジェネリック薬の入手を期待できない。イーライリリーは、コロナの感染拡大が深刻なブラジル、ロシア、南アフリカ、インドネシアといった国々を含む多くの地域で特許を申請または取得している。特許が与えられれば、独占は2029年まで有効で、特許期間の延長によりさらに長引く可能性もある。

バリシチニブは、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定 (TRIPS協定)」の義務免除が急務であることをまた新たに示している。世界貿易機関(WTO)加盟国が、特許権を含む知的財産権の保護義務を一時的に免除されれば、新型コロナの医療ツールの生産拡大と普及を妨げる法的な壁を包括的に取り除くことができる。これは、ジェネリック医薬品の製造・供給を阻止しようとする特許や出願中の特許も対象となる。

マルシオ・ダ・フォンセカ医師(MSFアクセス・キャンペーン、感染症医療顧問)のコメント

この2年間、感染波に襲われ、コロナで亡くなる人びとを私たちは数多く目にしてきました。MSFが活動する国々では、高度な集中治療を行える可能性が限られています。そのため、重症患者の命をより多く救うには、これまで私たちが治療に用いてきたステロイド薬や医療用酸素、綿密な支持療法に加えて、手頃な価格の医薬品を調達できるかどうかが大きく影響します。新しい治療法が登場しても、特許によって価格が高すぎて、医療資源が限られた環境で利用できないのでは、人道的とは言えません。

コロナ禍が始まって以来、経済的に余裕のない国々は、酸素やワクチン、検査といった新型コロナ対応に必要な医療ツールの不公平な分配に苦しんできました。富裕国の買い占めや製薬会社の利潤追求が原因です。多くの高所得国では、すでにWHOが推奨する実証済みの治療法を日常的に使用していますが、いまこそ低・中所得国も入手できるようにすべきです。

各国政府は、知財保護免除案の採択を呼びかけ、特許独占を無効にする強制実施権のような公衆衛生上の措置を検討するなど、早急な行動に踏み切る必要があります。それによって手頃な価格のジェネリック医薬品の生産と供給が公平で滞りなく、十分かつタイムリーに世界中で確保できるようになるのです。

多くの低・中所得国ではワクチン接種率が低いままで、これまでの予防策を脅かすような変異株も現れ、さらに大きな感染拡大が懸念されています。バリシチニブのような治療薬への平等なアクセスは、医療によって一人でも多くの命を救うための鍵となるでしょう。

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