コロナ知財権を巡るWTO議論に進展──日本政府に改めて支持を呼びかけ

2021年06月04日掲載

6月4日、政府への要請書を提出した国境なき医師団日本会長・久留宮隆(左)とアフリカ日本協議会の稲場雅紀氏(右)ら「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!」連絡会の代表者 © MSF6月4日、政府への要請書を提出した国境なき医師団日本会長・久留宮隆(左)とアフリカ日本協議会の稲場雅紀氏(右)ら「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!」連絡会の代表者 © MSF

変異株の出現によってインドなどで新型コロナウイルス感染症による危機的状況が急速に広がる一方、ワクチンを確保した先進国と手に入れられない途上国の大きな格差があらわになっています。

この深刻な状況を受け、5月5日に、米国政府がこれまでの方針を覆し、新型コロナワクチンの知的財産権保護の一時停止を支持することを表明しました。コロナ関連の知財権を一時的に開放することによって必要な医薬品の生産と供給を拡大するという画期的な提案は、昨年10月に世界貿易機関(WTO)に南アフリカ共和国とインドによって共同で提出されたものです。
※参考記事:WTOでの提案が世界のコロナ対策を大転換させるかもしれない5つの理由

この提案はWTOでこれまで半年以上にわたって議論され、100カ国以上の支持を得ながらも、少数の先進国の反対によって膠着状態が続いてきました。しかし、米国の支持表明によって事態は大きく展開し、文書ベースでの実質的な交渉が始まろうとしています。

国境なき医師団(MSF)は、新型コロナ感染症の予防・検査・治療を緊急に拡大するために必要な措置として、この提案を支持してきました。今年2月には他の多くの団体と共に、「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!」連絡会の一員として、日本政府に支持を呼びかける申し入れを行いました。

今回、WTOでの潮流の変化を受け、日本政府にもこの提案を支持すること、議論に協力することを求め、改めて下記の要請書を提出しました。

世界全体でパンデミックを収束させるために、日本にも前向きな協力が求められています。

2021年6月4日

内閣総理大臣 菅 義偉 様
外務大臣   茂木 敏充 様
経済産業大臣 梶山 弘志 様
厚生労働大臣 田村 憲久 様

新型コロナに対する公正な医療アクセスを
すべての人に!連絡会 

要請書
=新型コロナウイルス感染症に関わる知的財産権免除支持への政策転換を=

時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。

さて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が世界的に拡大してから1年以上が経過しています。ワクチンの開発や診断・治療の進歩など、多くの努力が積み重ねられ、一部の国では感染の抑制がみられつつあります。一方、世界的にみれば、COVID-19の勢いは止まらず、感染力の強い変異株の登場などもあって、インドで一日40万人以上の新規感染が記録されたほか、これまで必ずしも被害が大きくなかった国々においても、これまでとは水準の異なる感染拡大が生じています。「皆が安全になるまで、誰も安全でない」(No one is safe, until everyone is)と言われるように、コロナ禍の収束には、世界全体で感染を抑制し、強い感染力や毒性を持つ変異株の増大と拡散を防ぐことが不可欠です。そのためには、ワクチンを含め、必要な予防・診断・治療を迅速かつ公平に世界に届けていくことと、保健システムの強化や非感染性疾患の予防などを含め、COVID-19やパンデミックへの対応力・回復力(レジリエンス)の強い社会を作っていくことを、同時並行的に進めていくことが必要です。

昨年10月2日、南アフリカ共和国とインドが世界貿易機関(WTO)に対して「COVID-19に関わる知的財産権の一部を免除する」提案を行ってから半年以上が経ちます。現在までに、同提案の共同提案国は62ヶ国に増え、加盟国の半分以上が支持するに至りました。途上国・新興国の現場で保健医療に取り組んでいる多くの市民社会組織も、この提案に賛成しています。これまで同提案に反対していたアメリカ合衆国政府も、5月5日、同提案を支持し、テキストベースの交渉を進めたいという強い意思を表明しました。結果、これまで反対の立場を堅持していた欧州連合諸国なども、立場の見直しを始めつつあります。

私たち、「新型コロナに対する公正な医療アクセスを全ての人に!」連絡会(以下「連絡会」)は、日本政府に対して、WTOにおいて南アフリカ等の共同提案国が提案を行っている「COVID-19に関わる一部の知的財産権の免除」に賛成し、今後の交渉に積極的に参加していただくよう、ここに要望するものです。理由は以下の通りです。

1.COVID-19危機の深刻化で既存の対策は限界に

この提案の目的は、COVID-19に関連する世界的な公衆衛生上のニーズを満たすために、COVID-19に関連するワクチンや新製品の生産を増やすことで、COVID-19の世界的な収束をより早く実現することにあります。そのために、COVID-19の収束までの間、ワクチンを含むCOVID-19の予防・診断・治療技術に関する知的財産権の一部を免除し、先進国・途上国を含むより多くのパートナーがCOVID-19の予防・診断・治療に必要な物品の生産・供給を平等に進めることができるよう、技術の共有・協力を促進することを提案しています。

最大の問題は、90年代以降、大幅に強化・世界化された知的財産権のもとでのグローバルなCOVID-19対策は限界に直面しており、変異株などの登場によるCOVID-19危機の深刻化に対応できていないということです。

私たちは、ACTアクセラレーター(COVID-19製品アクセス促進枠組み)と、そのワクチン・パートナーシップであるCOVAXが、この未曽有の危機の中で迅速に作られ、一定の機能を果たしていることを称賛します。また、日本政府が、COVAXを始め、ACTアクセラレーターを構成する主要機関等に対して、積極的な支援を行っていること、6月2日にGAVIアライアンスと共催でCOVAXワクチン・サミットを開催することについても、高く評価するものです。

ところが、COVAXの「世界供給予測」(2021年4月7日)によると、同枠組みによるワクチン供給は2021年末までに対象国の人口の26%にとどまります。また、同枠組みが現段階で供給できるワクチンのラインナップも限られており、その相当部分を、インドのセーラム・インスティチュート・オブ・インディアがライセンス生産したアストラゼネカ社のワクチン(コビシールド)に依存しています。3月以降、変異株による極端な感染拡大に見舞われているインドは現在、ワクチン輸出を停止しており、COVAXによる世界へのワクチン供給は大きな危機に直面しています。

2.知的財産権の一部免除を実現し、グローバルなCOVID-19収束を

この現状に鑑みれば、COVID-19が収束するまでの間、知的財産権の縛りを解き、技術の共有と協力によって、ワクチンの種類および供給の多角化を図ることが必要です。これがなければ、COVAXが持続可能な形でワクチン供給を継続することができません。加えて、グローバルなCOVID-19の収束のためには、COVAXによる供給の限界を超えて、世界規模で迅速かつ公平にワクチンを供給していくことが不可欠です。さらに、インドで問題になっている酸素や、臨床経験の積み重ねの中で多くの知見が得られてきた治療薬などを始め、COVID-19の予防・診断・治療に必要な各種の物資の供給を進めていくことが必要です。ワクチンのみならず、COVID-19の予防・診断・治療に関わる知的財産権の一部を一時的に免除することは、COVID-19収束に向けた、グローバルな公衆衛生上のニーズを満たすための出発点です。COVAXの中でワクチン供給に責任を持つGAVIワクチン・アライアンスは、米国の知財権免除支持決定を歓迎する声明を出しています(※)。
※UPDATE 1-GAVI welcomes Biden move on vaccines, urges U.S. manufacturers to transfer know-how (Reuters, May 6, 2021)

「皆が安全になるまで、誰も安全でない」。私たちは、この言葉をかみしめつつ、日本政府に対して、WTOにおいて南アフリカ共和国などの共同提案国が提案を行っている「COVID-19関連の知的財産権の一部免除」に賛成し、今後の交渉に積極的に参加していただくよう、ここに要望するものです。

「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!」連絡会
呼びかけ(五十音順)
(特活)アジア太平洋資料センター(PARC) 共同代表 内田聖子
(公財)アジア保健研修所(AHI) 理事長 斎藤尚文
(特活)アフリカ日本協議会 共同代表理事 津山直子・玉井隆
(特活)国境なき医師団日本 会長 久留宮隆
(特活)シェア国際保健協力市民の会 共同代表 本田徹、仲佐保
世界民衆保健運動(People's Health Movement) 日本代表幹事 宇井志緒利
(公社)日本キリスト教海外医療協力会 会長 畑野研太郎

「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!」連絡会は、COVID-19 パンデミック下において、途上国・新興国への新規医薬品・新規技術の公正・平等なアクセスをグローバルに保障していくことを目的に政策提言を行う市民社会団体の連絡会として設立されました。連絡先は以下の通りです。
 ・連絡会事務局 (特活)アフリカ日本協議会(担当:稲場雅紀、廣内かおり)
 ・東京都台東区東上野 1-20-6 丸幸ビル3F
 ・電話:03-3834-6902 E-mail:ajf.globalhealth@gmail.com

本要請書を含む、賛同団体の一覧(国内33団体、海外115団体)はこちらからご覧ください

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