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「endTB-Q」試験の患者登録が完了 結核の治療法改善に向け重要な節目に到達

2023年04月04日
インドで結核治療を終え、地域保健担当者として活動するMSFスタッフ © Prem Hessenkamp
インドで結核治療を終え、地域保健担当者として活動するMSFスタッフ © Prem Hessenkamp

国境なき医師団(MSF)が他機関と共同で進める臨床試験「endTB-Q」(※1)で3月24日、患者登録が完了した。endTB-Qは、標準的な治療薬が効かない多剤耐性結核「プレXDR-TB」(※2)に対して、新しい抗結核薬のベダキリンやデラマニドと、他の疾患に使用されてきた薬剤クロファジミンおよびリネゾリドを併用し、安全性と有効性を評価する試験。2020年に開始した。今回、患者登録が完了し、より短期で副作用の少ないレジメンの確立に向けて重要な一歩を踏み出す。
 
※1 国境なき医師団(MSF)、パートナーズ・イン・ヘルス(PIH)、インタラクティブ・リサーチ・アンド・ディベロプメント(IRD)に所属する科学者と臨床医のグループが主導する薬剤耐性結核の臨床試験。当試験は国際医薬品購入ファシリティ、ユニットエイド(UNITAID)と、MSF、PIHが出資している。
※2 プレXDR-TB (リファンピンとフルオロキノロンまたはアミノグリコシドに耐性のある結核患者。またはリファンピン耐性結核で治療効果がない、または副作用のために第二選択レジメンが中止された患者)
 

endTB-Qは、第III相のランダム化比較試験(オープンラベル)で、現在インド、カザフスタン、レソト、パキスタン、ペルー、ベトナムの6カ国から300人以上の患者が試験に参加。結核は治療しなければ命の危険がある疾患だが、プレXDR-TBの死亡率は特に高い。原因は診断されづらく、治療が難しいこと、そして研究不足だ。endTB-Qから得られるエビデンスは、結核にかかりやすい糖尿病患者や薬物使用者のほか、子どもや妊娠・授乳中の女性など、従来治療の対象から外れていた人びとへの治療法を確立することにつながる。

MSFのendTBプロジェクトリーダーであり共同責任者のロレンツォ・グリエルメッティ医師は「endTB-Qの目的は、フルオロキノロンに耐性を持つ多剤耐性結核(MDR-TB)やリファンピシン耐性結核(RR-TB)の患者が、他の疾患と同等の高水準の治療を受けられるようにすることです。若年層や併存症を持つ人も含め、さまざまな国の患者が登録しているため、この試験から得られる結果は全世界で有益でしょう」と話す。

従来のプレXDR-TB治療は、患者にとって非常につらいものだった。治療には18カ月以上かかり、重い副作用を伴う薬剤を併用するため、治療に耐えられずに脱落する人が多くいた。今回の試験で用いるレジメンは、わずか半年~9カ月の経口治療で、安全性も高い。また本試験では、参加者一人一人の特性や治療への反応に基づいて個別の医療アプローチを行い、治療期間を割り当てている。

 
この試験は、すでに登録患者に良い効果をもたらしている。インド西部プネーのアウンド呼吸器内科病院には、endTBクリニックがある。患者のシャンドラさん(仮名)は、endTB-Q試験の開始当初に登録した。「クリニックができる前、私の治療は頓挫しかけていました。MDR-TBに苦しめられた私は、希望を失いつつあったのです。試験に登録することで、再び希望を持つことができました。ついに治療を完了し、健康な生活を取り戻せたのです。endTB-Qの研究とスタッフがいなければ、いま頃どうなっていたか分かりません」
 
UNITAID事務局長のフィリップ・デュネトン医師は、「今年はendTBプロジェクトにとって重要な年です。参加者の登録が難しい、水準の高いendTB-Q試験の登録完了は、大きな成果です。そして今年中に、endTBは、さまざまな患者グループにおける新しい結核治療レジメンと薬剤に関する重要なエビデンスを公開する予定です。UNITAID史上最大の結核分野への出資による長年の努力が結実するのを楽しみにしています」と話す。
 
endTBプロジェクトとは
“Expand New Drug markets for TB”(結核新薬の市場拡大)の頭文字をとったendTBプロジェクトは、毎年約50万人が新たな患者となる多剤耐性結核(MDR-TB)の治療を変革するために始まったプロジェクト。現在、17カ国で約2800人の患者が観察研究に登録している。このプロジェクトでは2つの臨床試験が進行しており、endTB試験はフルオロキノロンに感受性のあるMDR/RR-TBを対象とし、750人が登録。新薬プレトマニドを含む経口薬のみの短期レジメン(9カ月)の特定に成功した。endTB-Q試験では、フルオロキノロンにも耐性を持つプレXDR-TBを対象とし、300人以上の患者が登録。大規模なendTBプロジェクトはすでに新薬の有効性を示す強力なエビデンスを輩出しており、この結果を受け、世界保健機関(WHO)は3つのガイドラインを改訂し、新薬へのアクセス拡大を後押しするに至っている。
 
◆endTBプロジェクトの概要はこちら (英文、外部サイト)
 
◆endTBに関する日本語記事はこちら
 
◆最新のendTB試験結果はこちら(英文)

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