事務局からのお知らせ

国境なき医師団インターナショナル会長 「すべての人にとって安全な組織づくりへの取り組み」

2026年08月28日

国境なき医師団インターナショナル会長 
ジャビド・アブデルモネイム 

国境なき医師団(MSF)は過去8年にわたり、組織内で報告された虐待や不適切行為に関する件数を毎年公表してきました。最新の数字は、重要かつ厳しい現実を示しています。これまでと同様、通報件数は増加を続けています。これは、通報制度に対する認知が進み、声を上げやすくなったことを意味しているかもしれません。しかし同時に、組織内での虐待を防ぎ、対応するために、私たちが今なお多くの課題に直面していることを明らかにしています。

昨年、私たちが対応した最も重大な事案の一つが、チャド東部で発生した事案です。メディアによる報道を受けて進めていた検証を2025年6月に完了した結果、MSFで働く人びとによる深刻な虐待や不適切行為が確認されました。その中には、性的搾取・虐待・ハラスメントが含まれていました。

この調査では、16人の調査担当者が8カ月にわたり、MSFのスタッフおよびMSFと関係のある取引先などに関する59件の申し立てを検証しました。重大な不正行為が認定され、責任者を特定できたケースについては措置を講じました。18人のスタッフを解雇し、MSFで再び働くことを永久に禁じました。

何よりもまず、虐待を受けた患者さんや同僚に対し、深いおわびの気持ちを表したいと思います。MSF国際会長として、人びとの安全を守れなかったことに、重大な責任と深い後悔を感じています。性的搾取・虐待・ハラスメントは、MSFの原則や価値観、そしてセーフガーディングの取り組みに完全に反するものです。このような行為は、信頼を著しく裏切るものであり、被害者や地域社会、そして同僚たちに深刻な影響を及ぼします。

私はスーダンにルーツを持ち、家族の中にはスーダンでの紛争から逃れてきた人もいます。そのため、チャド東部で起きた出来事は私自身にも深く関わる問題です。スーダンで恐ろしい暴力を生き延び、チャドに避難して安全を求めた女性たちは、MSFから尊厳と敬意をもって安全に接される権利がありました。また、女性スタッフも被害を受けた人びとの中に含まれていました。こうしたことは決して許されるものではなく、起きてはならないことでした。

調査を通じて、当時の私たちのセーフガーディングの方法に重要な欠陥があったことが明らかになりました。スーダンから数十万人が流入する中で活動を急速に拡大した際、すべてのスタッフが行動規範を理解し実践していることを十分に確認できていませんでした。また、セーフガーディング上のリスクを体系的に評価し、軽減する取り組みも不十分でした。患者さんや地域住民、スタッフが、安全かつ秘密が守られた状態で虐待を報告できる方法を十分に周知できていなかったことについても、私たちはより多くの対応を行うべきでした。

さらに、特定できた被害者への支援も、医療および心理的支援を除けば十分とは言えなかったことを認めなければなりません。

被害者が支援を受ける際には、MSFの内外を問わず多くの障壁があります。そして、それは私たちが活動する地域においてはさらに深刻になりがちです。被害を報告することで社会的な偏見や不利益を受ける可能性があるほか、被害者中心の支援サービスが不足していたり、利用が難しかったり、その存在が十分知られていなかったり、信頼されていなかったりする場合もあります。特に女性は家族の世話などを担っていることが多く、支援を求めたり受けたりすることが難しいことがあります。そのため、被害が発生する前に防止し、虐待の兆候を早期に発見する取り組みが一層重要です。

こうした課題がある中でも、被害者とより積極的に関わり、一人ひとりのニーズや希望を理解し、MSFが直接提供できる支援以外も含めて適切なサポートを見出すべく、さらに努力する必要がありました。

今回の調査結果を受け、チャド東部では重要な改善を進めています。採用、オリエンテーション、研修の仕組みを強化するとともに、すべての活動でリスク評価を実施し、特定されたリスクを軽減する対策を導入しました。また、チームへのセーフガーディング支援を強化し、リスクをより早い段階で発見し対応できる体制を整えています。さらに、患者さんや女性団体、地域のリーダーたちと協力し、どのような行為が虐待に当たるのかを周知するとともに、懸念を報告する方法について理解を深めてもらう活動も行っています。

チャド東部に限らず、この1年間で私たちは、虐待や重大な不正行為に関与したことが判明した人物がMSF内の別のプロジェクトへ移ったり、組織内で再雇用されたりすることを防ぐため、世界共通のスクリーニング制度を強化しました。また、被害者に提供する支援の内容についても改善を進めています。チャド東部で起きた事案と私たちの対応については、チャド東部における虐待事案の調査と再発防止の取り組みに関する説明をご覧ください。

チャド東部で起きた事案は、MSFの内部に存在する、より広い不平等や権力の偏りという課題も浮き彫りにしました。女性は、虐待、とりわけ性的虐待のリスクにさらされやすく、紛争、避難、困窮、そして援助なしでは暮らしていけない状況は、権力の著しい不均衡を生み出し、それが虐待のリスクをさらに増大させる可能性があります。だからこそ、私たちはすべてのプロジェクトにおいて、現在のセーフガーディング体制を可能な限り強固なものにしていかなければなりません。

私たちは、この取り組みを一から始めるわけではありません。MSF全体による長年の努力によって、虐待の予防、発見、対応の仕組みは強化されてきました。しかし、チャド東部で起きた事案は、なお大きな課題が残されていることを示しています。私たちは、これまで以上に迅速かつ大きく前進する必要があります。

一人の医師として、患者さんや地域社会、同僚たちにとって安全な環境をつくることは、医療・人道援助団体である私たちの根本であり、「害を与えない」という医療・倫理上の責任の基盤でもあると考えます。私はこの責任を極めて重く受け止めています。

すべてのMSFのプロジェクトと職場は、安全で尊重され守られていると誰もが感じられる場所でなければなりません。虐待が容認されることなく、不適切な行為を報告しやすく、報告することが支援される場所でなければなりません。そして、最も大きな影響を受ける人びとの声や経験が、虐待の予防と対応のあり方を形づくるものでなければなりません。

この緊急の取り組みを強化し続けるためには、MSFで働く一人ひとりが強い意識を持ち、日々責任を持って行動し続けなければなりません。

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