プレスリリース

ウクライナ:ロシア支配地域で大規模な医療施設の破壊——医療アクセスは著しく悪化

2023年03月24日
ドネツク州リマンの破壊された病院=2023年1月28日 © Colin Delfosse
ドネツク州リマンの破壊された病院=2023年1月28日 © Colin Delfosse

国境なき医師団(MSF)は、ウクライナでロシアに支配されていた地域では、医療施設が大規模かつ広範囲に破壊され、医療事情が大幅に悪化している状況を目の当たりにしている。その上でMSFは、全ての戦争当事者に対して、国際人道法を順守し、民間人と民間インフラの保護義務を守ることを強く求め、必要な人が救命医薬品や医療物資、医療へアクセスできる状態を確保するよう要請する。

地図から姿を消した地域

2022年2月の戦争の激化を受けて、MSFのチームはウクライナ東部ドネツク州と南部ヘルソン州の161の町や村 で人びとの医療・人道ニーズを調査し、前線近くに住む人びとに医療援助を提供した。前線の両側で活動できるよう要請しているが、MSFは安全上の理由からウクライナの支配地域でしか活動できていない。

「家屋や店舗、子どもの遊び場、学校、病院ががれきと化したのをこの目で見ています。MSFが活動しているいくつかの町や村は破壊し尽され、1000キロメートルの前線に沿って、ウクライナの地図から姿を消した地域がいくつもあります」とウクライナでMSFの副活動責任者を務めるクリストファー・ストークスは話す。
 

病院は安全な場所ではない

2022年半ばまでに、MSFの医療従事者はすでに医療インフラへの攻撃を目撃していた。4月のミコライウ、6月のアポーストロベでは、病院に着弾したクラスター爆弾の被害を目撃。医療活動は数日間停止し、患者は事実上医療にアクセスできなくなった。さらに、2022年10月8日、11日、15日には、以前ロシアの支配下にあったヘルソン、ドネツク、イジュームで稼働している病院内に仕掛けられた対人地雷を発見した。

「最前線では地雷が幅広く使われていますが、医療施設に設置されているのを目の当たりにして、ここまで非人道的なことをするのかと言葉を失いました。薬や治療を求めて来る人たちに、“病院は安全な場所ではない”と明確に伝えるものです」とドネツク州でMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるビンチェンツォ・ポルピーリアは憤る。

また、MSFの医療チームは、ドネツク州とヘルソン州の旧ロシア支配地域にある複数の医療施設が略奪され、救急車を含む医療車両が破壊されていることを発見した。そのうちの2カ所の施設内では、武器や爆発物も確認している。
 

ロシア支配下で制限された医療アクセス

ロシアの支配下で生活していた医療従事者や患者の証言によると、必要な医薬品、治療、医療施設へのアクセスは著しく制限されていたという。MSFは、数カ月間治療を受けられなかった慢性疾患の患者を治療しなければならないことが多く、これらの証言は、2022年11月から2023年2月に実施した1万1000件の診療に関する記録によって裏付けられている。 

ドネツク州コスチャンティニウカでMSFが支援する病院=2023年2月3日 © Colin Delfosse
ドネツク州コスチャンティニウカでMSFが支援する病院=2023年2月3日 © Colin Delfosse

患者らの話から分かったのは、人びとは主に移動制限、医療施設の大規模な破壊、ロシア軍の予測不可能な行動の結果、医療を受けられなかったということに加え、破壊を免れた医療施設や薬局も略奪された上、医薬品の安定供給体制が確立されていなかったということだ。患者らの報告は、数カ月間治療されなかった他の多くの患者の医学所見と一致している。

MSFは戦争当事者に対し、病院などの医療施設は決して標的にしてはならないということを再度強調し、民間人と民間インフラの保護義務を守ることを要請する。また、救命医薬品や医療物資の円滑な供給を許可するとともに、必要とする人びとに援助が届くよう、独立した立場の人道援助団体や機関に対し、安全確保とアクセスを妨害することなく確約することを求めている。
 

MSFは1999年にウクライナで活動を開始。2022年2月24日以降、ウクライナでの戦争で生じたニーズに対応するため、活動規模を大幅に拡大した。現在、MSFはアポーストロベ、ドニプロ、ファスチウ、イワーノ・フランキーウシク、ハルキウ、コスチャンティニウカ、クロピウニツキー、クリビーリフ、キーウ、リビウ、リマン、ミコライウ、オデーサ、ポクロウスク、スラビャンスク、テルノーピリ、ウージュホロド、ザポリージャ、ジトーミルで活動している。結核治療、緊急手術、性暴力被害者のケア、理学療法、心のケアなどを提供するほか、多くの救急車や特殊な医療搬送列車も運営し、2022年には2558人の患者(うち700人は外傷)を避難させた。 

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