海外派遣スタッフ体験談

125Kmの悪路を行く!屈強な現地スタッフを率いた調査活動

田村 美里

ポジション
正看護師
派遣国
コンゴ民主共和国
活動地域
キサンガニほか
派遣期間
2014年4月~2015年2月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

コンゴ民主共和国(以下コンゴ)という、いろいろな問題を抱えた国では、まだまだやることがいっぱいある状況だから。というか、その大変さに呼び寄せられ、この国に戻りたいと思ったから。2014年1月に、コンゴでの前回の派遣活動を終え、帰国後すぐに、次の派遣もコンゴに、という気持ちを持っていたと思います。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

まずは、休養と落ちた体力(とくに足腰の筋力)回復。コンゴはフランス語圏なので、フランス語を忘れないようにレッスン。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?

今回は緊急プログラムを立ち上げる前段階の活動を担うもので、今までとは完全にタイプのちがう仕事なので、看護師や助産師としての業務経験とは別の部分で、過去の数々の派遣が役立ったかと思います。

海外派遣スタッフは私だけ、たった1人だったのですが、現地スタッフとうまく馴染んでやっていけるとか、調査活動で安全面が不安定な中、かなりハードな旅を何日もして、村の民家に宿泊したり、食べ物がないような状況にも動じなくなったのは、過去のいろいろな経験で身につけた、異文化の中で適応していく力のたまもの(?)と思います。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
麻疹の調査・評価活動で臨時診療。マラリア検査も行った。 麻疹の調査・評価活動で臨時診療。マラリア検査も行った。

コンゴ国内の緊急プログラム(感染症の流行や国内外避難民の増加、自然災害などの対応)には3つの役割分担があります。

  • 情報収集、分析、調査と評価(MSFの介入が必要かどうか、またどんな援助をすすめていくかを決める)
  • 介入。必要に応じて6~10週間の活動を展開。(それより長く活動が必要と評価された場合、短期プログラムへ引き継ぎ、移行される)
  • 交渉活動、政策提言、メディアへの対応

この中で私が担当したのは、プログラムのフロントラインである1番の役割でした。キサンガニをベースに、3つの担当地域に関しての情報収集とその分析、現地保健省から毎週送られてくるデータの分析をして、状況に応じて警報・警告の発信をします。

状況が深刻だったり、緊急性があったりするものは、すぐに現地に入り調査と評価活動をします。時にはその調査がそのまま介入に続くこともあります。

チーム構成は、その役割分担で違うグループに分かれていて、1番はコンゴ国内の複数地域に4つの大小グループ(それぞれ医療スタッフとロジスティシャンがいる)があり、私以外は全員が現地スタッフでした。

今回、自分以外はすべて男性現地スタッフ 今回、自分以外はすべて男性現地スタッフ

2番の活動は、4~5人の海外派遣スタッフと、50人近い現地スタッフが、それぞれの活動に分かれて入っています。

3番は、首都のコーディネーションとテクニカル・サポートのチームで、確か5~6人くらいの海外派遣スタッフがいたと思います。それぞれは小さいグループですが、合計するとかなり大きなチームになります。

調査・評価活動から実際の介入となったもので多かったのが、国内外の避難民の増加による医療ニーズの拡大と、はしか(麻疹)、ついで腸チフスでした。また、幸い西アフリカのような大事にはなりませんでしたが、エボラ出血熱も確認されました。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

プログラムの性質上、スケジュールは状況によって変わります。何も緊急の仕事がなければ朝8時~午後5時、キサンガニは首都と1時間の時差があるため、時々午後6時まで仕事です。

日曜は休めますが、何か緊急事態があれば当然、必要に応じて仕事をします。特に調査・評価活動の時は、準備の段階から、調査現場の滞在中も、週末も関係なく働きました。日中は現場訪問、夜は緊急レポート作成などで、息をつく暇もありませんでした。

Q現地での住居環境についておしえてください。

ベースとしていたキサンガニは大きな街だったので、電気も水道もあり、住居も窓ガラスのついた、きちんとした家でした。ただ、仕事場のオフィスと住居が同じ建物でしかも街の中心部だったので、仕事とプライベートの時間が時々まざってしまうという難点がありましたが。(大雨が降っても大丈夫という便利さはありました)

調査・評価活動で現場に出ている時は、もうその状況に適応するしかないです。宿は、ホテルや民家を借りて泊まる状態なので、ぜいたくは言えません。

私の場合、とにかく蚊帳(蚊やその他の虫が出るので)とドアが閉まればあとは気になりませんでした。1度、寝ていたら雨が降って、ちょうど私のベッドの上で雨漏りして(しかも顔のあたり)目覚めたということもありました。

もちろんトイレは汲み取り式ですし、シャワー(というか水浴び)は囲いもない外で、ということもたまにあり、日没を待ってこっそり済ませていました。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
国内避難民が身を寄せる教会 国内避難民が身を寄せる教会

今まで経験してきたプログラムとまったくちがい、今回は慣れるのに少し時間がかかりました。

緊急事態をいち早く発見し、迅速に対応するために正確な分析と判断をするというプレッシャーに常にさらされていました。緊急事態の発生はいつ起こるかわからないため、来週のこと、時には明日のことすら予測がつかない不安定な状況でした。

自分のチームは直接患者に接することがありませんでしたが、緊急援助を始める前段階での判断をするにあたって、いろいろな人と接する機会が多く、そこから学んだことが多くあったと思います。

家族とはぐれた国内避難民の子どもたちと、彼らの先生 家族とはぐれた国内避難民の子どもたちと、彼らの先生

また国内避難民の人たちから直接、何が起こったかを聞く機会もありました。紛争から逃げる途中で家族とはぐれてしまって、1人で逃げてきた7歳の子どもや、妊娠中に着のみ着のままで逃げる最中、森の中で分娩をして赤ちゃんを亡くしてしまった女性、1度誘拐されたが隙を見つけて逃げてきた少女など、痛ましい話をたくさん聞きました。

調査・評価活動での過酷な旅も忘れられません。たった125kmの道のりを進むのに、バイクで3日間かかりました。道とはいえない道で、半分以上の距離を徒歩か、バイクを押して進むという状況でした。

ごろごろの岩だらけの急な山道、橋のない川、丸太を2~3本通しただけの川を何度もわたり、大木の横倒しで道がさえぎられている場所も4~5ヵ所ありました。道が泥だらけでバイクすら立ち往生する場所、道が水没して100mぐらい川のようになった所もあり……。

道なき道を進む調査・評価活動の旅 道なき道を進む調査・評価活動の旅

バイクは2台壊れ、さらに1台が壊れる寸前という状況で、ロジスティシャンの評価は「介入のための現地入り、陸路は不可能!」と(当然ながら)なりました。今思っても、この旅はきつかったです。現地に到着した時には、これから調査・評価活動だというのに、もうすでに達成感を感じてしまいました。

帰りは、壊れてしまったバイクの運搬も必要だったため、チームで唯一女性の私とほか数人が飛行機で帰ることになりましたが、ロジスティシャンや現地保健省の責任者などは、同じ道をまた3日ほどかけて陸路で帰ってきました。

Q今後の展望は?

少し休養します。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

派遣活動ではいろいろと予想のつかないことがありますが、それを楽しんでください。チームには個性の強い人がいますが、みんな同じ、普通の人です。みんな、自分の思ったことをはっきり言うので、好き勝手言っているように感じるかもしれませんが、違う国民性と個性の集まりなので、そんなものです。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2013年3月~2014年1月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • プログラム地域:シャブンダ
  • ポジション:医療チームリーダー
  • 派遣期間:2012年3月~2013年1月
  • 派遣国:ブルンジ
  • プログラム地域:ギテガ
  • ポジション:プログラム責任者
  • 派遣期間:2011年10月~2012年1月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • プログラム地域:キンサシャ
  • ポジション:副医療コーディネーター
  • 派遣期間:2010年11月~2011年7月
  • 派遣国:ソマリア
  • プログラム地域:ソマリランド・ブラオ
  • ポジション:医療チームリーダー
  • 派遣期間:2010年1月~2010年7月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • プログラム地域:ニャンガラ
  • ポジション:医療チームリーダー
  • 派遣期間:2009年5月~2009年11月
  • 派遣国:中央アフリカ共和国
  • プログラム地域:バタンガフォ
  • ポジション:助産師
  • 派遣期間:2008年8月~2009年1月
  • 派遣国:スーダン
  • プログラム地域:カグロ
  • ポジション:助産師/看護師
  • 派遣期間:2007年8月~2008年6月
  • 派遣国:ニジェール
  • プログラム地域:ダコロ
  • ポジション:助産師/看護師
  • 派遣期間:2007年2月~2007年6月
  • 派遣国:チャド
  • プログラム地域:イリバ
  • ポジション:助産師
  • 派遣期間:2006年3月~2006年12月
  • 派遣国:コートジボワール
  • プログラム地域:ビヌイエ
  • ポジション:助産師
  • 派遣期間:2005年5月~2005年11月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • プログラム地域:ブニア
  • ポジション:看護師
  • 派遣期間:2004年2月~2004年5月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • プログラム地域:ブニア
  • ポジション:看護師
  • 派遣期間:2003年5月~2003年11月
  • 派遣国:ブルンジ
  • プログラム地域:マカンバ
  • ポジション:助産師

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