戦火が広がるイエメン その国内で最も疎外されている人びとはいま

2021年03月19日掲載

イエメンの避難民キャンプで生まれた子どもたち © Nuha Haider/MSFイエメンの避難民キャンプで生まれた子どもたち © Nuha Haider/MSF

イエメン西部のマーリブ県には、134カ所もの避難民キャンプが点在している。そこで仮住まいするのは、6年に及ぶ内戦で住まいを追われたイエメン人や、出国できないアフリカ系移民、そしてムハマシーン(疎外された人びと)と呼ばれる社会的マイノリティの人たちだ。

内戦前には40万人ほどだった同県の人口は、現在270万人近くにのぼる。安息の地を求め、他県からの避難者が増加したためだが、この地ももはや安全ではない。紛争の戦線は同県にも到達し、2月8日には県都マーリブ市の西側に位置する地区で戦闘が激化、多数の負傷者を出した。これによって約1万人が退避し、およそ600世帯は街から20キロほど離れたキャンプに落ち延びている。

国境なき医師団(MSF)は、押し寄せる負傷者に対応する病院へ必須医薬品を寄贈するとともに、新たな避難者に医療の提供を始めた。

テント生活しか知らない子どもたち

5人の子を持つ母親のウム・マルズークさん(30歳)は、紛争により何度も住む場所を奪われてきた。サヌア県の出身で、現在はマーリブ市から5キロ離れたアル・スワイダ・キャンプに滞在している。

「これまで5回避難しました。自宅は全壊してしまったので、帰ることはできません。2人の子は別々のキャンプで生まれたのですが、本当に大変でした。特に1人の子は全く医療を受けずに産んだので……」

このキャンプで生まれ、3歳になる娘のジャデルちゃんは、水道も電気もないキャンプ内での生活しか知らない。家が描かれた絵を見せられても表情を浮かべないが、テントの絵だとすぐさま顔をほころばせる。

アル・スワイダ・キャンプのMSF移動診療所。基礎医療、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)、ワクチン接種、栄養失調の治療、心のケアを提供 © Nuha Haider/MSFアル・スワイダ・キャンプのMSF移動診療所。基礎医療、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)、ワクチン接種、栄養失調の治療、心のケアを提供 © Nuha Haider/MSF

MSFの移動診療チームはマーリブ市近辺の8つの場所を定期的に回っているが、そのほかの訪問先には、6000人ほどのアフリカ系移民が滞在するビン・ムイリ・キャンプがある。彼らの大半はエチオピア人で、サウジアラビアを目指していたが、イエメン北部で足止めされてしまった。国境付近で起きている紛争や、新型コロナウイルスの感染拡大による国境封鎖がその理由だ。

エチオピア出身のフセイン・アワルさん(21歳)も影響を受けた一人。「マーリブから動けなくなってしまったので、ここで生活する方法を探しています。妻は双子を出産したばかり。仕事が見つからなければ、4人になった家族を養うことはできません」

アワル夫妻のようなマーリブで暮らす移民は、受けられる公共サービスが限られており、衛生状態の悪い過密な環境で生活する。コロナ感染への不安感から、差別や逮捕、拘束のリスクも高まっている。移民の移動はたびたび制限され、就業の機会もわずかだ。 県内で続く戦闘はそうした窮状に拍車をかけるばかりだ。

国境封鎖により足止めされたエチオピア出身のアワルさん一家 © Nuha Haider/MSF国境封鎖により足止めされたエチオピア出身のアワルさん一家 © Nuha Haider/MSF

かつての暮らしに思いを馳せながら

MSFの移動診療チームは、マーリブ市郊外にあるスラム地区、ハリーブ・ジャンクションでも医療を提供している。そこに暮らすのは、差別や貧困に苦しむアフリカ系マイノリティ、ムハマシーンの人びとだ。ハリーブ・ジャンクションには、大半のムハマシーン居住地と同じように、水道や十分な衛生設備もなく、ゴミの収集も行われていない。経済的機会はほとんどなく、援助機関からの支援もごく限られている。

「かつては悲惨というほどではありませんでした。でもいまはそれを味わっています。まるでひなを育てる鳥のようなもので、食べ物を探しに行かなければ、その日子どもたちは食事にありつけません」と、住民のザベイディ・ラシドさん(60歳)は語る。

暮らし向きの良かった故郷を追われたザベイディさんは、「以前の生活を思い出すたびに胸が苦しくなります。昔の家を見たら、黒人の私が住んでいたなんて信じられないでしょう」と目に涙を浮かべて話す。

ハリーブ・ジャンクション・キャンプには「基本的な生活サービスがない」と訴えるラシドさん © Nuha Haider/MSFハリーブ・ジャンクション・キャンプには「基本的な生活サービスがない」と訴えるラシドさん © Nuha Haider/MSF

ハリーブ・ジャンクションの人口は大部分を子どもが占める。1家族に平均5人の子どもがいるが、地域に学校がないため、教育を受けることができない。衣服やおむつさえ満足に与えられておらず、子どもが病気になっても、医者へ連れて行く経済的余裕はない。

MSFの医療は無償なため、移動診療チームが来るたびに診察を待つ人が列をつくり出迎える。特によく見られる健康問題のひとつが下痢で、現地の劣悪な衛生条件と清潔な飲み水の不足が関係している。

MSFチームは、6年におよぶ内戦と避難生活で心に傷を負った子どもたちがいると知り、お絵かき会やサッカー試合などのレクリエーション活動を開催。「こうした遊びは、人との関わりや心の発達を促すために非常に重要なのです」とMSFの心理ケア活動マネージャー、リサ・ラ・ガットゥータは話す。

ハリーブ・ジャンクション・キャンプに避難する母親と子どもたち © Nuha Haider/MSFハリーブ・ジャンクション・キャンプに避難する母親と子どもたち © Nuha Haider/MSF

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