イエメン:紛争で壊滅した医療体制 コレラの流行なども深刻【情報まとめ】
2019年05月10日
2015年3月以降、紛争が続くイエメン。4年近く続く紛争により、イエメンでは物価高騰、失業、通貨イエメン・リアルの下落などにより、事態は深刻化。人びとは燃料、食糧、薬など日用品さえ手に入れることが難しくなっている。また、医療体制は崩壊状態にある。給料の未払いや、医療物資の不足などにより、稼動している病院や、医療スタッフも不足している。国境なき医師団(MSF)は、現地での医療援助活動を続けている。MSFはこれまでに、11万人を超える戦闘による負傷者、100万人を超える救急患者らを受け入れ、治療してきた。これまでの活動実績についてまとめた。
繰り返されるコレラ感染
イエメンでは、コレラ感染が繰り返し起きている。紛争が始まった後の2016~2017年に、コレラが2回流行した。その後、流行を押さえ込むことができたが、保健当局と医療団体は、流行が終息した後も、ほぼ全ての県でコレラ症例を目にしてきた。そのためMSFは、特に 給排水・衛生活動分野での人道援助活動の強化を呼びかけて、イエメン国内でのコレラ感染拡大を防ごうとしている。
コレラ以外にも、ジフテリアやはしかなどの流行も深刻だ。ジフテリアやはしかは、ワクチンで防げる病気だが、コレラと同様に、紛争で荒廃した場所で暮らす人びとの健康を脅している。感染し、亡くなる人もいる。はしかについては、2018年12月下旬~2019年2月までで、症例数が増加したと報告されている。MSFは2018年、アブス、ハイダン、イッブ、ハメル、タイズで1787人のはしか患者を治療した。
崩壊状態にある医療体制
イエメンの医療体制は崩壊状態にあり、何千人もの人びとの命が危険にさらされている。背景には、給料の未払いや、医療物資不足などにより、稼動中の病院と医療スタッフが不足していることがある。
紛争当事者は、実に多くの医療機関に被害を与えた。紛争により、破壊された所もある。そのため、住民のいる地域で稼働している医療機関は少なくなった。人びとは、医療を受けるために、長い距離を移動しなければいけなくなってしまった。そのため、妊婦や戦争負傷者などの患者の多くが、手遅れになってから来院。適切なときに、適切な医療を受けられず、命を落としている。
2016年8月から当局が続けている公務員への給料未払いは、医療分野では特に問題視されている。医療スタッフは家族を養うために、別の仕事を探さなければいけなくなり、稼動している公立の医療機関は少ない。熟練した医療スタッフも不足している。
MSFの活動実績
MSFは、イエメン全域で計12ヵ所の病院と診療所を運営するほか、アビヤン、アデン、アムラン、ハッジャ、ホデイダ、イッブ、ラヘジ、サアダ、サヌア、シャブワ、タイズの11県で計20ヵ所以上の医療機関を支援している(2019年4月現在)。
2019年1月1日から3月26日にかけて、国境なき医師団(MSF)はアムラン県、ハッジャ県、イッブ県、タイズ県で運営する医療機関で、7938件のコレラの疑いがある患者を受け入れた。患者の約半分は、イッブ県の出身だった。この間、MSFによる治療を受けたコレラ患者は、週次集計で140人から2000人に増加。MSFによる簡易検査では、コレラの陽性患者の割合も、同じ時期の58%から70%に増えた。
MSFによる活動拡充の内訳は以下のとおり。ハメルでは、ベッド数50床のコレラ治療センター(CTC)を開いた。タイズでは、コレラ治療ユニット(CTU)で、ベッド数を増やした。イッブ市とカイーダまた、サヌアでもアル・クウェート病院内にも、CTCを開いた。特に、コレラの発症率が高かったアムラン県フースでは、MSFが診療所を支援している。
一方で、MSFの病院はこれまでに、有志連合軍によって5回空爆を受けた。民間人、医療スタッフ、医療機関が全ての紛争当事者から攻撃を受けている。
2015年3月~2018年12月の診療実績
● 戦闘などの暴力による負傷者:11万9113人
● 救急患者:101万9679人
● 外科手術:8万1102件
● 小児患者:3万6865人
● 分娩介助: 6万8702件
● 国内避難民の一般診療:23万2576件
● コレラ疑い症例:11万6687件
● マラリア:1万4509件
● 栄養治療:1万5172件
人事財務状況(2019年1月現在)
● 現地で活動したMSFスタッフ:2200人以上。これに加えて約700人の保健省職員にも毎月給料を支払っている。
● 2019年度の予算合計:630万ユーロ(約78億5800万円)
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