病院までもが爆撃される……医療関係者が見たイエメンの現実

2018年12月12日

院内で銃撃、スタッフの拘束も/国境なき医師団(MSF)イエメン人道問題担当 アレックス・ダン

空爆されたコレラ治療センター
(アブス、2018年6月撮影)© MSF空爆されたコレラ治療センター
(アブス、2018年6月撮影)© MSF

職場へ出勤する前、空を切り裂く戦闘機の重低音が聞こえてくる。私がコーヒーを淹れながら1日のスケジュールを立てている間、パイロットたちは頭上を飛び回り、時には爆弾を落とすという日課にいそしんでいるのだ。

ここイエメン紛争が激化した2015年以降、MSFの医療施設は何度も空爆を受け、患者、スタッフ、そしてMSFの医療に頼っていた地域住民の命を奪った。 

MSFスタッフは拘束や銃撃にも遭っている。ある病院には爆破装置が仕掛けられた。最悪のケースでは、病院内に武装集団が侵入し、手術台に横たわる患者に発砲。患者が奇跡的に命を取り留めたことは不幸中の幸いだった。
 
セキュリティ上の問題で活動停止に追い込まれたプロジェクトもある。南部アッダリ県では、スタッフの宿舎と病院が立て続けに攻撃され、撤退を余儀なくされた。

ニュースにならない人道危機で脅かされる命

タメルくん(7歳)は爆発物の破片で負傷。
MSF母子病院で治療を受けた © Matteo Bastianelliタメルくん(7歳)は爆発物の破片で負傷。
MSF母子病院で治療を受けた © Matteo Bastianelli

ほとんど報じられることのない残酷な紛争。その影響は、医療上の問題に発展している。

国内外の勢力によって長引く紛争、空港や港の封鎖、医療施設への攻撃、急速に衰退する経済……こうした状況下で、イエメンの医療体制は崩壊。公立の医療機関では薬の供給が極限まで抑えられ、医療スタッフの給与も2016年8月以降ほとんど支払われていない。その結果、国民2700万人の健康が脅かされている。

コレラはしか、ジフテリアなど)ワクチンで予防できる病気がまん延し、産科・小児科医療が圧倒的に不足し、飢饉(ききん)が起こり、戦闘の負傷者が増加。がんや糖尿病といった慢性疾患の治療は後手に回っている。

戦闘が過熱するにつれ、MSFは活動を大幅に拡大。コレラ患者約11万人、救急患者80万人超を治療し、約6万人の赤ちゃんを出産介助した。現地のニーズに全力で応えてきたものの、他の紛争地と比べても、イエメンの援助不足は際立っている。

援助を待つ人がいるのに活動できないジレンマ 

肺感染症にかかった赤ちゃんを連れ受診した男性
© Matteo Bastianelli肺感染症にかかった赤ちゃんを連れ受診した男性
© Matteo Bastianelli

イエメンで質の高い基礎医療を分け隔てなく届けるためには、活動の規模をさらに拡大する必要がある——MSFは過去3年間そう訴えてきたが、現場のニーズに見合った改善はみられない。それどころか、人道援助活動はどの陣営からも妨害されているのが現状だ。

 
援助団体は、イエメンの「行政」によって国内の広範囲への立ち入りを禁止されているため、適切な活動ができなくなっている。MSFも、医療活動に必要な薬の輸入や入出国ビザの確保、スタッフの移動に課題を抱えている。そうした危険な状況にありながら、スタッフたちは命を救う医療活動を全力で続けているのだ。

もう1つのジレンマは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、米国、英国をはじめとする紛争当事者が、国連を介したイエメンへの資金援助のうち約71%を拠出しているということだ(2018年)。片手で病院を爆撃しながら、もう一方の手でそれを再建するための小切手を書いている——このような状況では、独立して活動するMSFのような人道援助団体の印象と安全が損なわれてしまう。紛争と無関係な国々が資金提供を拡大することが望ましい。

イエメンは2011年の反体制デモを機に内戦となり、2015年3月以降は政府軍と反政府勢力の武力衝突が激化。多国籍軍の介入で首都サヌアをはじめ各地で空爆が繰り返されている。

MSFが支援する病院も通算6回にわたって爆撃を受け、27人の患者とスタッフが命を落とした。特に2016年8月15日の空爆では患者・スタッフ計19人が死亡。イエメン北部の6つの病院での活動を中断して一時退避した(同年11月に活動再開)。 

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