【世界結核デー】コロナ禍の巣ごもりをきっかけに加速した、結核の新たな治療法とは

2021年03月24日掲載

MSFはウズベキスタンで患者中心のケアを行う結核プロジェクトを実施 © MSF/Gulziyra NurullaevaMSFはウズベキスタンで患者中心のケアを行う結核プロジェクトを実施 © MSF/Gulziyra Nurullaeva

3月24日は世界結核デー。結核は「昔の病気」だと思われがちだが、治療で主に使用されてきた薬剤が効かない「多剤耐性結核(MDR-TB)」が、いま世界の各地でまん延している。

2019年に多剤耐性結核を患った人は46万5000人、死者数は18万2000人にのぼる(世界保健機関(WHO)調べ)。治療しても5人のうち3人しか治らず、痛みを伴う注射や強い副作用を引き起こす薬もしばしば使用される。治療期間は長く、WHOのガイドラインでは9カ月~20カ月を要する。

この長く辛い多剤耐性結核の治療を改善し短期化するために、国境なき医師団(MSF)は2017年から臨床試験「TB-PRACTECAL」(※)を支援してきた。その結果、特定の薬剤を用いた6カ月間の投与計画が、標準的な治療より優位であることが先日分かった。MSFは近いうちにデータをWHOと共有し、学会誌にも投稿する予定だ。

※経口薬であるベダキリン、プレトマニド、リネゾリド、モキシフロキサシンを6カ月間投与するレジメンを3カ国(ベラルーシ、南アフリカ、ウズベキスタン)で242人の患者に行った。

またこれとは別に、コロナ禍の影響によりある取り組みも始まった。ウズベキスタン北西部に位置する、カラカルパクスタン自治共和国。多剤耐性結核の罹患率が高いこの地で進む新たな治療法とは──。

コロナでロックダウン 治療を続けるには

19歳のクンディズさんは、多剤耐性結核の治療を始めて8カ月以上が経った。当初は病院で治療を受けていたが、その後「直接観察治療(DOT)」という、看護師の付き添いのもと自宅で服薬する方法に切り替えた。複数ある服用薬には好ましくない副作用があり、体への負担は極めて重い。そのため長期にわたる治療を続けるには、こうしたサポートが欠かせない。

カラカルパクスタンの診療所にあるDOTコーナー。結核患者の服薬をサポートする保健省の看護師 © MSF/Pariyza Djiemuratovaカラカルパクスタンの診療所にあるDOTコーナー。結核患者の服薬をサポートする保健省の看護師 © MSF/Pariyza Djiemuratova

だがウズベキスタンでも新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、同国政府は昨年3月にロックダウン(都市封鎖)を発令。自宅や最寄りの診療所でDOTを受けることが、突如として難しくなった。

幸い、MSFにはすでに解決策があった。ビデオによる直接観察治療(VDOT)だ。ビデオ通話が一般的となった現在、対面からビデオへの移行はすぐにでも可能で理にかなっていた。

実際にはこの移行は以前から計画されていたが、ロックダウンに伴い、MSFと保健省は前倒しを決定。コロナ禍でも患者が結核治療を中断せず、自宅で安全に続けられるようにするためだ。

準備段階で医療スタッフが研修を受け、患者選びでは自宅療養や遠隔地の人を優先することになった。その1人がクンディズさんだ。MSFチームから通信容量付きのスマートフォンを渡され、やり方も教わったクンディズさん。いまは毎日の服用時に、スマホを介して看護師のサポートを受けている。

毎日ビデオ通話で結核薬を服用しているクンディズさん(左)とその様子をオンラインで見守るMSF看護師のグルナラ(右) © Makset Samambetov/MSF毎日ビデオ通話で結核薬を服用しているクンディズさん(左)とその様子をオンラインで見守るMSF看護師のグルナラ(右) © Makset Samambetov/MSF

リモート治療法の思わぬメリット

この仕組みは、彼女にとって他の面でも利点があった。カラカルパクスタンでは結核患者が多いにもかかわらず、差別が根強くある。看護師の姿を目にする近隣の人の反応が気がかりだったのだ。

「看護師に家へ来てもらうのは辛いと感じていました。近所の人に噂されないかと不安だったんです。でもVDOTなら秘密が守られるので、その心配がなくなりました」とクンディズさんは言う。

しかし、誰もがすぐにこの新たな方法を受け入れたわけではない。当初は抵抗感を示すスタッフや患者もいたが、理解が進むにつれ、若者を中心に多くの人が積極的に参加するようになった。MSFのラマンプリート・カウル医師は「研修や情報発信によって、特に若い世代の患者がVDOTに興味を示し、最終的には人気の選択肢になった」と話す。

最初は難色を示していた医療スタッフも、やがてこの方法を受け入れ、「役に立つ」「時間が節約できる」「効果的だ」と認めた。

VDOTは患者とスタッフ双方にとって複数のメリットがあると語るのは、MSF看護師チームリーダーを務めるグルナラ・エルムラトヴァ。「クンディズさんのように自身の結核感染を他人に知られたくない人は、この治療法で気兼ねがなくなり、仕事や家事で忙しい患者にとっては、毎日の診療所通いに時間を費やす必要がなくなりました。ビデオ越しに服用すればいいのですから」

さらに経済的・人的リソースを余すところなく活用できる。「この治療法では交通費も大人数の医療スタッフも要りません」

MSFチームはカラカルパクスタンでの経験から、インターネットに安定的にアクセスできれば、他の地域でもVDOTが治療継続に重要な役割を果たせると考えている。

一方で、ネットにアクセスできない患者や、テクノロジーに馴染みのない年配の患者のために、MSFチームは別の選択肢も用意した。家族が患者の服薬を見守ってサポートする方法(FDOT)だ。

コロナのロックダウンをきっかけに加速した結核患者の在宅ケア。カラカルパクスタンでMSFが保健省と共に20年以上にわたって支援してきた結核治療は、新たな局面に入った。

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