ウクライナ:「地雷で脚を失った」──戦争の負傷者、高まるリハビリのニーズ

2022年11月23日
脚の手術を受けた患者にマッサージを施すMSFの理学療法士 © Hussein Amri/MSF
脚の手術を受けた患者にマッサージを施すMSFの理学療法士 © Hussein Amri/MSF

「村に仕掛けられた地雷を撤去していた時、踏んでしまったんです。その瞬間、激しい爆発で私の脚が吹き飛びました」
 
そう話すのは、ウクライナに暮らす30歳のバシルさんだ。この地雷で左脚を失った。残った脚をどう動かし、これからどう日常生活を送ればよいのか──。いまウクライナでは、バシルさんのような負傷者の多くがリハビリテーション(以下「リハビリ」)のサポートを必要としている。

負傷者が直面する大きなリスク

ウクライナの戦争で重傷を負った人は膨大な数に上る。負傷した体の運動機能を回復するためのリハビリを多くの人が必要としているが、ウクライナにはそのニーズに対応できるだけの技術や人材が足りないのが現状だ。手術の後に適切なリハビリを早く受けられなければ、回復は中途半端になったり、必要以上に時間がかかったりしてしまう。患者は長期的で大きなリスクに直面しているのだ。

問題の規模が大きいだけでなく、リハビリはこれまでのウクライナの医療体制が重きを置いてこなかった分野でもある。ウクライナ保健省によると、理学療法士の需要は戦争開始以前と比べて2倍になった。

そこでMSFは首都キーウとビンニツァで、戦争で負傷した人びとへのリハビリを行っている。負傷者の重症度を判断して治療を行い、補助器具の提供、理学療法を行うほか、患者が体と心の不調を克服できるよう、個別の心理ケアと精神科治療も行っている。

「私たちは、脚や腕を失った患者さんを何十人も見てきました。MSFのスタッフはさまざまな国で、戦争で傷ついた人びとの治療を経験しています。いま、ウクライナの同僚と密接に協力し合いながら治療を行い、リハビリ医療ニーズの高まりに対応できる医療体制を築こうとしています」と、MSFの医療コーディネーター、タンクレート・シュトゥーベは話す。

地雷で負傷した男性。爆発で足を失い、靴は燃えて灰になった © Nadiia Voloboieva/MSF
地雷で負傷した男性。爆発で足を失い、靴は燃えて灰になった © Nadiia Voloboieva/MSF

爆発で負傷した手 いまはペンを持てるように

MSFの理学療法士、アフマド・アルロサンは、ウクライナに入る前はヨルダンで活動していた。そこではイラクやイエメン、シリア、ガザからの外傷患者を対象にリハビリを行うMSF病院に勤務していたため、戦災で手足を失った患者の治療経験が豊かだ。
 
ドネツク州マリウポリで地雷と手投げ弾の爆発に遭い、指と目を失った29歳の男性、レナトさんは、いまアフマドが担当している患者の一人だ。レナトさんは、アフマドの指導のもと、拳(こぶし)を握ったり解いたりして、手の筋肉を伸ばす練習をしている。

「レナトさんは片目を失い、両手の指がひどく損傷しています」とアフマド。「体中にけがをしている上に、手首も骨折しているので、既に3回手術を受けました。残る破片を取り除くため、あと2回手術が控えています」

MSFの理学療法士、アフマド・アルロサン。ヨルダンで紛争の負傷者のリハビリを行った経験を持つ © Nadiia Voloboieva/MSF
MSFの理学療法士、アフマド・アルロサン。ヨルダンで紛争の負傷者のリハビリを行った経験を持つ © Nadiia Voloboieva/MSF

レナトさんは、痛みに耐えながらアフマドのマッサージを受けている。けがをしてから既に半年が経過したが、すぐにリハビリ治療を受けられなかったため、いまはより強力な理学療法を必要としている。時間をかけて辛抱強く取り組まなければならない。アフマドはレナトさんの拳を握り、「手を開いて」と声をかける。レナトさんが力を入れて手を開こうとすると、アフマドは同じくらいの力をかける。
 
このようなリハビリを繰り返して変化が見えてきた。「これまで私の指は硬くて動かなかったのですが、いまでは、ペンを持ったりコップを取ったりすることができるようになったんです」とレナトさんは話す。

負傷した患者の手をマッサージする理学療法士。負傷者の増加に対して、理学療法士が不足している © Joanna Keenan/MSF
負傷した患者の手をマッサージする理学療法士。負傷者の増加に対して、理学療法士が不足している © Joanna Keenan/MSF

負傷者の多くは若者 求められる長期的な視点

病院の別の場所で、同じくMSFの理学療法士であるエリスは、バシルさん(30歳)を理学療法室まで案内している。バシルさんは左脚を切断した状態で、どう日常生活を送ればよいか学んでいるところだ。
 
「チェルニヒウ州のノービ・ブキウ村で地雷を取り除いている最中に、地雷を踏んでしまったんです。この村は1カ月以上ロシアの支配下にあり、多くの地雷が仕掛けられていました。撤去しないと地元の人たちが家に帰れないので、撤去作業をしていました。しかしある日、道路の縁石に乗っていた地雷を金属探知機で検知し損ねてしまったんです。それは圧力で作動する対人地雷で、爆発であっという間に片脚を失いました」
 
エリスは、患者の負傷した脚をマッサージし、筋肉を動かす手助けをする。また、残った脚にも理学療法機器をつけ治療に取り組んでいる。鏡の前での練習は、患者にとって重要だ。鏡の中で健康な脚の動きを見ることで、もう片方の脚でもその動きを再現できるので、幻肢痛(なくなった部分に痛みなどの感覚を覚えること)を和らげられる。
 
困難を克服し、骨格や筋肉の扱いを学ぶことは大事だが、患者は心のケアも必要としているとMSFの心理療法士は話す。戦争による負傷が心の健康に及ぼす影響は、傷害の種類に左右される。松葉杖での歩行、義肢の使用、車椅子での生活など、多くの人は生活が一変する。
 
ウクライナの戦争で負傷した患者は若い人が多いため、障害を負った体で何年も生きていくことになる。これはウクライナの医療体制にとっても、理学療法や手術後のケアを必要とする人びとにとっても、長期的視点で取り組むべき課題だ。
 
この残虐な戦争の中で、今後どれだけの人が負傷し、どれだけの人がケアを必要とするのか──。アフマドやエリスをはじめとするMSFの理学療法士らにも分からない。それでも日々、新たな患者さんに向かい続けている。

脚を切断した患者がバランスを取れるようリハビリを行う © Joanna Keenan/MSF
脚を切断した患者がバランスを取れるようリハビリを行う © Joanna Keenan/MSF

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