内戦と震災、二重の危機にあるシリア 「今年こそ苦しみが終わって──」願い続けた末に

2023年02月15日
震災により倒壊した建物(シリア北西部イドリブ県)=2023年2月7日 © OMAR HAJ KADOUR
震災により倒壊した建物(シリア北西部イドリブ県)=2023年2月7日 © OMAR HAJ KADOUR
母国が被災したシリア出身スタッフが語る
2月6日にトルコシリアを襲った大地震を受け、シリア北西部で活動してきた国境なき医師団(MSF)は地元のパートナー団体とともに、スタッフを増員して拡大するニーズに対応している。

シリア北西部の状況は、とりわけ悲惨だ。およそ12年に及ぶ内戦に、経済崩壊、新型コロナ、さらに最近ではコレラの大流行と、状況は悪化の一途をたどってきた。長年にわたりひっ迫していた医療体制は、今回の震災でさらなる危機に追い込まれている。
 
シリア出身のシャルワン・カシームは、10年以上MSFで活動し、現在はオランダ・アムステルダムにあるMSFの緊急対応チームで働いている。これまでにトルコ、シリア、ソマリア、リトアニアと様々な地で活動してきた。母国を襲った災害にあたり、自身の体験を交えて語った。
 

シリア出身スタッフ シャルワン・カシームの声

不安に襲われた朝

地震のニュースが飛び込んできた月曜の朝、すぐにシリアの家族や友人に連絡を取ろうとしましたが、全くつながりませんでした。現地では電気もインターネットも途絶えていたからです。私はしゃがみこんだまま、「もしものことがあったら──」と、とてつもない心配と不安に襲われました。

その後、ようやく母に電話がつながりました。母によると、誰もが「これが人生最後の瞬間だ」と感じたそうです。幸い、私の家族は全員無事でした。しかしいまも大勢の人が苦しんでいます。トルコとシリアで多くの家屋や建物が崩れ、衝撃的な数の方々が亡くなりました。
 

助けを求める人たちのために

MSFにはいま、2つの大きな優先課題があります。まず、病院や既存の医療施設への支援です。緊急事態に対応できるよう、物資の提供や研修を行います。電気や暖房が使えるように燃料の供給も必要です。シリアは世界の多くの国と同様、ウクライナでの戦争によるエネルギー危機に悩まされてきました。発電機を動かすための燃料が足りないのです。
 
2つ目は、物資の搬入です。私たちが直面している問題の一つは、この地域へのアクセスが非常に限られていることです。シリア北西部に物資を届けるためには、1本しかない人道回廊を通って行くしかありません(※)。
 
この地域には何年も前から援助や物資を届けることが難しく、残念ながら震災が発生した後も容易ではありませんでした。地震発生から48時間以内は、被災者にとって生死にかかわる時間なのに、何の援助も届かなかったのです。私たちは「国境なき医師団」と名乗ってはいても、残念ながら多くの国境に道を阻まれます。それでも、助けを必要としている人たちに援助を届けるためにさまざまな方法を模索しています。
 
※トルコからシリア北西部への越境地点が2カ所増やされることが、2月13日に国連より発表された。

衛生用品、調理用具、防寒キット、毛布などを含む救援物資を、48時間で270セット届けた © MSF
衛生用品、調理用具、防寒キット、毛布などを含む救援物資を、48時間で270セット届けた © MSF

シリア北西部にある複数のMSF支援先病院には、数千人の負傷者が運ばれ、死者の数は数百人に上りました。これから生存者の発見は減っていくため、死者の数はさらに増えると考えられます。
 
かつて一緒に働いた、アレッポ西部の同僚たちと連絡を取りあっています。状況は悲惨をきわめていると彼らは話します。この地域は11年以上前から内戦が続いていて、震災以前から医療はひっ迫していたからです。

心の健康に迫る危機

この地域の人口は約400万人。そのうち280万人は内戦により既に避難していて、中には2度以上避難している人もいます。避難のため20回もあちこち転々としたという人もいました。
 
彼らの多くは、お金やつてがないので国外に出られないか、病気などで手助けが必要な身内や、生まれた国を離れたがらない身内に付き添うためにこの地にとどまる道を選んでいます。  
 
トルコには360万人以上のシリア難民がいて、その大半は地震で最も深刻な被害を受けた4つの県に住んでいました。内戦からの安全を求めてシリアからトルコに逃れてきた人たちの多くは、いつか故郷に戻れるようにとシリアの国境にできるだけ近いところに滞在したかったのです。

いま、最も必要とされていることの一つが、心のケアです。仮にあなたが、長年の内戦の末に、難民キャンプのテントや仮設住宅で、明日が見えず希望も持てない日々を送っているとしたら……。心に重圧がのしかかってくることでしょう。
 
昨日、母は私にこう言いました。「息子よ、私は明日何が起きるかさえ分からない。毎年『今年こそ苦しみが終わりますように』と願って12年間になるのに──」

シリア出身のシャルワン・カシーム。2022年、アムステルダムでの気候マーチにて © Eiad
シリア出身のシャルワン・カシーム。2022年、アムステルダムでの気候マーチにて © Eiad

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