ミャンマー:地震から1カ月──医療体制にも深刻な影響 いま必要な援助とは

2025年05月02日
MSFの運営する移動診療を訪れた親子=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF
MSFの運営する移動診療を訪れた親子=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF

2025年3月28日、ミャンマー中部で発生したマグニチュード7.7の地震は、ミャンマーと周辺国に甚大な被害をもたらした。

すでに危機の中にあったミャンマーの人びとの状況は、地震によりさらに深刻となった。長引く武力紛争と政治情勢によりミャンマーの医療体制は著しく損なわれており、人びとが医療を受けることは難しい状況だ。地震の影響を受けたすべての人びとは、紛争のどちらの側にあるかにかかわらず、人道援助を受ける必要がある。

国境なき医師団(MSF)は、地震発生後、被災地に赴き調査を実施。広大な被災地で発生するさまざまな課題に多様かつ迅速なアプローチで対応し、人びとのニーズに合わせた活動を続けている。地震発生から1カ月。いま現地に必要な援助とは──。被災した人びとの声とともに伝える。

ミャンマー 地震の影響
ミャンマー 地震の影響

ミャンマーにいま必要な援助とは?

水と衛生

各家庭の衛生設備は深刻な被害を受けており、安全な飲料水の確保は急務だ。また、雨期が近づくにつれ、洪水による水源汚染も懸念される。水源の汚染は、コレラなどの水系感染症や、マラリア、デング熱といった虫が媒介する感染症の発生リスクを著しく高める。

住居

仮設住居に暮らす避難民の人びとの状況は、モンスーンやサイクロンの季節が近づくにつれ、悪化する可能性が高い。適切な住居の整備が緊急に必要だ。

医療

医療施設の損壊と電力不足は、水系感染症のリスクも高まる中、人びとの医療アクセスに深刻な影響を与えている。また、ミャンマーには十分な訓練を受けた医療従事者がいる一方で、医療物資は不足している。

医療体制はあらゆるレベルで深刻な影響を受けており、特に二次医療において顕著です。手術室を含め、病院は機能していません。緊急手術だけでなく、帝王切開のような必要不可欠な手術もできないのです。

エイドリアン・グアダラマ ミャンマーにおけるMSFのオペレーション・マネジャー

助産師が被災した女性の血圧を測る。女性は地震で夫を亡くした。それ以来、暗闇が怖く不安に陥りやすいという=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF
助産師が被災した女性の血圧を測る。女性は地震で夫を亡くした。それ以来、暗闇が怖く不安に陥りやすいという=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF

保護と心のケア

家族の離別、性別・ジェンダーに基づく暴力、心理社会的ストレスは、特に仮設キャンプで暮らす女性や子どもを保護する際の重要な懸念点となっている。

ミャンマーでのMSFの活動は?

現在MSFのチームは、安全な飲料水の提供、衛生設備や避難所の設置、救援物資の配布、心のケアの支援および医療支援に重点を置き、援助活動に取り組んでいる。また、一部の地域では引き続きニーズ調査を行っている。

心のケア

MSFは、マンダレーにおいて200人以上のボランティアスタッフ(教授、教師、医学生、医師、看護師を含む)に心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド=PFA)の訓練を実施。現在、ボランティアスタッフは心理的応急処置、グループセッション、カウンセリング、子どものための活動などに取り組んでいる。

子ども向けの心のケアのセッションの様子=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF
子ども向けの心のケアのセッションの様子=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF

水と衛生

MSFは、トイレ、手洗い場、水栓、加圧ポンプ、貯水タンク、石けん、ディスペンサーを設置。また、電気の復旧や廃棄物処理の支援に加え、200以上の掘削井戸を修復し、被災した病院に20以上の貯水タンクを設置した。

地元業者と協力し掘削作業を行う=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF
地元業者と協力し掘削作業を行う=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF

移動診療

MSFの移動診療チームは、僧院を含む仮設避難所で、一般的な病気から糖尿病や高血圧といった慢性疾患を持つ患者への診療を実施。マンダレーの8カ所、ザガイン市内の2カ所、インレー湖の4つの村で移動診療を行っている。

僧院の中に設置されたMSFの移動診療所。この僧院では被災した80世帯の人びとを受け入れている=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF
僧院の中に設置されたMSFの移動診療所。この僧院では被災した80世帯の人びとを受け入れている=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF

健康推進と健康教育活動

MSFは、衛生習慣の改善と疾病予防の意識を高めることを目的とした、健康推進・健康教育活動を行っている。

救援物資などの配布

MSFは、マンダレーにおいて救援物資(ライター、毛布、防水シート、蚊帳、水タンク、石けん、タオル、歯ブラシ、歯磨き粉、生理用ナプキン、バケツ、ヘアブラシ、塩素、紙おむつが入ったキット)2070セットと蚊帳600枚を配布。シャン州南部のインレー湖では約1300枚の蚊帳を配布し、竹や木、作業道具といった避難所の建設に必要な物資の提供も行った。

医療施設への支援

MSFは、地震で被害を受けた病院の再建を支援。マンダレーのタダウ病院では、患者を収容する大型テントを寄贈し、病床10床を提供した。

MSFの移動診療を訪れた85歳の男性。娘と孫は激しい余震の中、がれきに巻き込まれ亡くなった=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF
MSFの移動診療を訪れた85歳の男性。娘と孫は激しい余震の中、がれきに巻き込まれ亡くなった=2025年4月22日 Ⓒ Lena Pflueger/MSF

被災した人びとの声

「ただ、夫に戻ってきてほしい」

地震が起きたとき、私の子どもを含めて5人が家の中に閉じ込められました。がれきの中から息子を見つけ出すのに5時間かかりました。息子は私の妹の腕に包まれて発見されましたが、妹は助かりませんでした。この地震で夫も失いました。私の子どもは、父親を失うにはまだ幼すぎます。

マー・ウィン・ウィンさん 移動診療の患者

「最初は地雷か爆弾かと思った。とても聞き覚えのある音だったから」

その日は翌日のための菓子などを皆で作っていました。店を開けようとしたときに、大きな音がしたんです。最初は何かの爆発かと思いました。私たちは紛争地から逃れてきたので、聞き覚えのある音だったのです。近所の多くの建物が倒壊していました。救急車の数も十分ではない中、自分たちの三輪車でけが人や亡くなった人を運びました。私たちはできることをしたのです。倒壊した建物を見ると、とても嫌な気持ちになります。
 
テイン・ゾーさん 移動診療の患者

「これほど激しい地震を経験したことはない」

地震が起きたときは、台所で料理をしていました。私は35歳ですが、これほど激しい地震を経験したことはありません。私は近所のお年寄りに向かって、家から出るように叫びました。私の祖母は半身不随のため、歩くことができませんでしたが、彼女は「こっちには来ないで!ベッドの下にもぐりこむから」と言っていました。2回目の地震が起きたときには、私の家族は皆、家の前の広い畑に避難していました。誰もけがをせず、祖母は無事に車椅子で運ばれました。

キン・ミョー・カインさん 移動診療の患者の父親

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