銃撃、性暴力、家族との別離……戦闘が続くスーダンから隣国チャドへ、命がけの避難

2023年06月22日
幼い子どもたちを連れ、スーダンからチャドに避難してきた一家  © Johnny Vianney Bissakonou/MSF
幼い子どもたちを連れ、スーダンからチャドに避難してきた一家  © Johnny Vianney Bissakonou/MSF

脚を撃たれたのは、6月14日、家の近くを歩いていた時です。何カ所も骨折しましたが、何とかここから逃げなくてはと7人の子どもを連れて町を出ました。いま夫はどこにいるのか……、連絡はつきません。

サリマさん(27歳)

私たちは姉妹3人で逃げていました。その途中でのことです。15歳の妹が、武装した6人の男たちにバスの中へ引きずり込まれ、レイプされたのです。

サルマさん(18歳)

こう話すのは、激化する戦闘のためスーダンから逃れ、隣国チャドにたどり着いた人びとだ。彼らが暮らしていたのは、スーダン・西ダルフール州の州都ジェネイナ。いま、チャド東部のアドレで避難生活を送っている。
 
チャドに脱出するまでに、人びとは銃撃や性暴力など、さまざまな危険にさらされている。国境なき医師団(MSF)はすべての武装勢力に対し、民間人を保護し、地域を後にしようとする人びとが安全に避難できるよう訴えている。
 
さらに、現在の困難な状況に追い討ちをかけるのが、チャドに迫りつつあるのが雨期だ。洪水で地域が孤立することが懸念される。支援を必要とする人たちが取り残されることがないよう、対応を進めている。

絶望的な選択が迫られる

国連によると、6月20日時点でスーダンから国外に逃れた人の数は50万人を超える。中でも、スーダンの西隣に位置するチャドには12万人以上が逃れて来た。
 
いま、雨期の到来が事態をより深刻にしようとしている。川や道路が洪水で覆われるようになると、地元住民も避難民も外部から孤立してしまうことになるのだ。
 
清潔な水の入手や衛生状態の確保が難しくなると、水系感染症を含めた感染症のリスクも高まる。雨期に入る前に人びとを危険な国境地帯から移動させようと緊急対応が急がれているが、援助の遅れは明らかだ。
 
この点について、チャドでMSF活動責任者を務めるオードリー・ファンデルシュートが説明する。
 
「難民の多くは国境地帯から離れたがっていますが、移った先で過ごす場所が足りていません。国境地帯にとどまる意思を固めた人びともいれば、ここに新たに避難してくる人びともいます。国境地帯にいる人びとは、雨期を前にしてどこに行けばいいのかも分からないまま、ここに閉じ込められ、外部から忘れ去られ、ひいては医療も受けられなくなるかもしれない──。そう懸念されています」

このままでは、何の援助もなしにこの地にとどまるか、戦闘が続くスーダンに戻るかという絶望的な選択をせざるを得ません。国境地帯にとどまっている人びとへの援助が必要です。

オードリー・ファンデルシュート(チャドにおけるMSF活動責任者)

井戸の水を集めるチャド滞在のスーダン難民  © Johnny Vianney Bissakonou/MSF
井戸の水を集めるチャド滞在のスーダン難民  © Johnny Vianney Bissakonou/MSF

暴力にさらされる道のり

チャド東部にスーダンと接するシラ州がある。ここでは数万人の難民が滞在しているが、彼らへの人道援助もまた足りていない。避難所も水も食料も不足しており、難民同士で助け合ったり、地元住民に頼って生活しているケースがほとんどだ。
 
こうした事態を受けて、MSFは、シラ州の医療当局と協力して、緊急対応プロジェクトを開始した。スーダンからの難民、スーダンからチャドへの帰還民、地元住民たちに向けて移動診療を提供し、難民居住地でも予防医療を含めた対応に入った。

最初の3週間で、MSFの医療チームは1460人の治療に当たった。その大半は、栄養失調や呼吸器感染、急性水様性下痢、マラリアにかかった子どもたちで、劣悪な生活環境によるものだった。妊娠中の女性に向けて、産前産後ケアも実施している。

スーダンからの難民は、ほとんど徒歩でチャド国内にたどり着いている。彼らは、性暴力や拷問、拉致、強制徴用、強奪、脅迫、所有物の破壊など、著しい暴力にさらされていると証言した。チャド入国のためにお金を払わされ、拒めば持ち物の強奪や、民兵に殺されるかもしれないと脅されたという。

移動診療の施設でスーダンからの難民のケアに当たるMSFスタッフ  © Johnny Vianney Bissakonou/MSF
移動診療の施設でスーダンからの難民のケアに当たるMSFスタッフ  © Johnny Vianney Bissakonou/MSF

危機の上に危機が

シラ州の北隣のワダイ州にもMSFの医療施設がある。治療した負傷者の多くは、スーダン国内での武力衝突で銃撃を受けたものだ。

避難の途中でレイプの被害に遭ったサルマさんの15歳の妹も、ワダイ州・アドレの病院で治療を受けている。彼女たち姉妹は、暴力による被害に加え、両親と引き離された苦しみにも直面している。母親はスーダンに残り、現在、父親の行方は分からない状況だ。 
 
スーダンからの避難民を受け入れているチャドは、以前から武力紛争や異常気象などによる被害に見舞われてきた国だ。活動責任者のファンデルシュートはこう語った。

「危機の上に危機が重なる事態となっています。スーダンの紛争がこのまま激化していくと、さらなる避難民がチャドに押し寄せてくるでしょう。しかし、チャドは経済的にも余裕のある国ではありません。地元住民のニーズにも難民のニーズにも、平等に対応していくことが重要です」
 

チャドにて医薬品や日用品を車両に積み込むMSFスタッフたち  © Johnny Vianney Bissakonou/MSF
チャドにて医薬品や日用品を車両に積み込むMSFスタッフたち  © Johnny Vianney Bissakonou/MSF

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