トルコ・シリア地震から約半年──シリア北西部 復興の兆しと残された課題

2023年09月01日
地震の被害を受けたシリア北西部の病院 © Abd Almajed Alkarh
地震の被害を受けたシリア北西部の病院 © Abd Almajed Alkarh

「あの地震で、この地はパニックと恐怖に包まれました。シリア北西部は、空爆をはじめさまざまな出来事に直面してきましたが、今回の惨事はそれらと全く異なるものだったのです」

そう語るのは、シリア北西部の都市イドリブにおいて国境なき医師団(MSF)の看護チームリーダーを務めるアラー・アブドゥラーだ。 

2023年2月6日、マグニチュード7.8となるトルコ・シリア地震が起きた。それから約6カ月──被災地の中心となったシリア北西部には、破壊と絶望の風景がいまも残ったままだ。MSFは、パートナー団体らと提携して、シリア北西部における災害復旧の最前線で施設の再建や医療活動に当たり、避難民を取り囲む難題に対応を続けている。

生活が一変

先ほどのアラー・アブドゥラーが状況をさらに説明する。
 
「シリア北西部の人びとは、12年間にわたって、安全な地を求めて転々としてきたんです。国内避難民として、時の体制に迫害され続け、過酷な経済状況、生活状況に苦しんできました」
 
今回の地震は、その苦難に追い打ちをかけた。建物やインフラが甚大な被害を受けたため、大勢の住民がそれまで暮らしていた家屋を離れて、避難所や避難キャンプに移り住むしかなくなった。医療面でも既に人びとに深刻な影響が出ている。

生活が一変したため、避難民キャンプでは皮膚病に苦しむケースが発生しています。こうした自然災害は、被災地の人びとに対して、深刻かつ長期的な影響を及ぼすのです

MSFの看護チームリーダー アラー・アブドゥラー 

復興の兆しが見えるも…

もともと、シリア北西部は、医療施設が資金不足に苦しんでいたり、そのせいで提供できる医療内容にも限界が出ていたりといった問題を抱えていた。今回の地震により状況はますます悪化。迅速かつ強固な対策が求められている。
 
例えば、ジンデリス準区という地域がある。今回の地震で最も大きな打撃を受けた地域で、死者は1000人を超え、家屋の80%が被害を受けた。しかし、がれき除去も進み、復興の兆しは見えつつある。さらに、ジンデリスに隣接するアフリン準区に国内避難民キャンプも設置された。

また、MSFはシリア北西部の大部分を占めるイドリブ県とアレッポ県において、施設の復旧に当たっている。イドリブ県内のマシャド・ルヒンという地区では、増加し続ける国内避難民に対応するため、施設の増築も実施。医療スタッフも医師1名、看護師1名を加えることで、機能拡張を図っている。

地震はこの地のもろい医療体制に追い打ちをかけた © Abd Almajed Alkarh
地震はこの地のもろい医療体制に追い打ちをかけた © Abd Almajed Alkarh


現在の状況について、イドリブ県でMSFの地域保健担当チームリーダーを務めるモハメド・アルアジズは次のように説明する。 
 
「シリア北西部では、前進の兆しが見えてきたところもあります。被害を乗り越え、かつての生活に戻ろうと立ち上がっている人びとが見られるようになった。ただし、特に被害が深刻だった地域では、家族や友人を失っている人も多く、パニックや恐怖による精神障害の症例も増加しています。彼らの心身の健康について、サポートに取り組まないといけません」  

資金も物資も足りない

地震発生の直後から、MSFは緊急対応を開始。最初の48時間以内に外傷キットの提供体制に入り、各病院を支援した。復興プロセスにおいては、医療施設と生活インフラの回復を目指し、震災対応で重要な拠点となったアフリン総合病院にも支援の手を向けている。

それでも、MSFの取り組みは、まだ終わったわけではない。現地の主要な医療施設は、依然として復旧中の段階にあり、資金や物資がまだ足りていない状況だ。

状況が変化するにつれ、焦点は整形外科医療に移っている。MSFも、ある整形外科病院を支援しており、整形外科医に向けた研修や感染・予防制御策などに力を入れている。しかし、資金不足の問題から、今後数週間以内にこの病院の運営にも影響が出るものとみられている。

避難した人びとの生活環境についても課題は多い。コレクティブセンターと呼ばれる一時避難施設が現地における人道援助の拠点となっており、避難民に住居を提供する機能も果たしている。しかし、環境はいまだ劣悪であり、衛生設備も不十分なままだ。医療面に関しても、以前から医療の国内格差が存在しており、基礎診療アクセスの弊害となってきた。こうした点は震災後も変わってはいない。 

心のケアとレクリエーション支援

震災が人びとに与えた精神的打撃も大きい。看護チームリーダーを務めるアラー・アブドゥラーは、さらにこう語っている。

「あの地震は、人びとの心に傷を与えました。心理的障害のケースが著しく増え、震災後の生活に適応できないケースも現れている。特に、子どもの間でパニックと恐怖の感情が高まっています。そのため、夜尿症、攻撃的行動、親から離れられない、悪夢、社会的孤立といった問題が生じているんです」 

MSFは、メンタルヘルス支援にも活動範囲を広げ、移動診療を通じて心のケアを開始。各コレクティブセンターでは、人びとの精神面を支援する目的でレクリエーション活動も実施されている。その担い手となるのは、ソーシャルワーカーやカウンセラーたちだ。支援が必要とされた人びとについては、MSFの心のケアやその他の診療、あるいは社会的支援を行う団体に紹介している。

MSFの運営する移動診療に訪れた人びと Ⓒ Abd Almajed Alkarh
MSFの運営する移動診療に訪れた人びと Ⓒ Abd Almajed Alkarh

復興に向けた取り組み

MSFは、通常の医療・人道援助活動に地震関連の対応を組み込む形で、今後も復興に向けた支援を続けていく。特に、施設の拡張や医療スタッフの増員、心のケア、レクリエーションなどが重点的な取り組みとなる。

状況は大きく改善されつつある。しかし、依然として、医療アクセスや生活環境などの面で残された課題は多い。今後も持続的な取り組みが必要だ。 
 
「人びとが震災とその余波を乗り越えるまでには、相当の時間がかかるでしょう」。地域保健担当チームリーダーのモハメド・アルアジズは、そう最後に付け加えている。

MSFが設置した給水タンクで手を洗う避難民の男性 Ⓒ MSF
MSFが設置した給水タンクで手を洗う避難民の男性 Ⓒ MSF

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