大地震後のシリア 避難民には水もトイレも足りない──子どもに広がる感染症

2023年07月06日
避難民の子どもたち。皮膚感染症が広がっている © MSF
避難民の子どもたち。皮膚感染症が広がっている © MSF

シリア北西部アレッポ県の町ジンデリス。トルコ国境の近くにあり、かつては繁栄した都市だった。しかし、12年も続く内戦に加えて、今年2月に起きたトルコ・シリア地震によって、いまや無惨な状況になっている。シリア北西部では、今回のマグニチュード7.8の大地震によって多くの避難民が生じたが、その9割は内戦による避難経験もある人たちだ。
 
現在、避難民の多くはキャンプ暮らしを余儀なくされている。彼らの目の前の現実は厳しい。ジンデリスは不安定な情勢のままであり、生活上のインフラや必需品にも乏しい。市内の上下水道は、内戦ですでに著しく損なわれているが、そこに今回の大地震が起きたことで、さらに深刻なダメージが生じている。

「5人の子が皆感染症に……」

ジンデリスに最近設営されたアルエマン・キャンプ。2130人が暮らしており、国境なき医師団(MSF)のチームも活動している。このキャンプに住む5児の母エム・ハッサンさんは、もともとアレッポの住民だったが、内戦によって故郷を離れ、さらに大地震で家が倒壊して、このキャンプでの避難生活を余儀なくされた。

ハッサンさんが次のように語ってくれた。「日常のすべてを奪われました。キャンプ暮らしは信じられないほどつらいです。清潔な水はなかなか手に入りませんし、衛生設備も整っていない。子どもたちは、コレラ、疥癬(かいせん)などの病気にかかっています。子ども5人みながリーシュマニア症(※)にも感染しています。顔に傷跡が残りました。治るまでに何年もかかるそうです」
※サシチョウバエが媒介する皮膚の感染症

避難民たちがキャンプに到着して真っ先に直面するのが、清潔な水が足りないという現実だ。国際基準では1日20リットルの水が必要だが、このキャンプでは1人あたり9リットル分しかない。トイレの数も90人あたりに1つしかなく、排せつ物を処理するための適切な下水道もない。

キャンプ暮らしが続く避難民たち © MSF
キャンプ暮らしが続く避難民たち © MSF

調査で分かった避難キャンプの実態

この点について、シリアでMSF医療コーディネーターを務めるハリーム・ブーバカーが説明する。「現在設営されている新たな避難民キャンプは、水や衛生インフラに関して厳しい状況です。清潔な水が乏しく、汚水まじりの水源を利用せざるを得ない。コレラや肝炎といった水系感染症のリスクが出てくる。トイレ不足も、衛生面やプライバシー面から問題です。特に、疥癬のような感染症のリスクが高まります」

「疥癬」とは、微細なダニが皮膚の上層部に潜り込み、そこに留まって卵を産むことで感染する皮膚疾患である。皮膚に強いかゆみを引き起こす。MSFは、パートナー団体とともに、現地で移動診療や地域保健活動を実施してきたが、その過程で、シリア北西部において疥癬患者が5月中に大幅に増加している事実を察知した。

同じくシリア北西部にある都市アフリン。ここでは、MSFのパートナー団体であるシリアのNGO「アル・アミーン」が10のキャンプを調査している。その結果、キャンプ暮らしを送る約1万3000人のうち3600人以上が疥癬を発症していると確認された。その半数以上が10歳未満の子どもだ。MSFが疥癬まん延の原因を調べたところ、患者が確認されたキャンプでは、下水が下水管などで周囲から切り離されておらず屋外に出ていること、水不足問題が続いていることが明らかになった。

MSFは、避難民キャンプにおける病気の流行を防ぐため、水・衛生に関する活動を最優先事項に置いている。体積にして8000立方メートルを超える清潔な水、1000基以上の貯水タンク、130基の可動仮設トイレを供給。一方、620基のトイレと90台のシャワーに対するメンテナンス作業を実施した。さらには、衛生用品キット、調理器具セット、女性用生理用品など、合計11万1000点の救援物資も配布している。

現地で活動するMSFスタッフたち © MSF
現地で活動するMSFスタッフたち © MSF

10日に一度しかシャワーを浴びられない

地震と内戦が上下水道に与えた影響に加えて、シリアの水不足は深刻化する一方にある。同国は、人道援助団体からの給水車と水道管網の組み合わせに頼っているが、そこで課題となるのが電力の不安定さと燃料費の高騰だ。

この5月、MSFのチームは、シリア北西部において、国内避難民に関する調査を実施した。調査対象となった48の避難キャンプと2つの村では、合計およそ6万人の避難民が暮らしている。一方、調査結果によれば、キャンプの70%は、飲料水について、給水車に全面的に頼っていた。トイレはすべてのキャンプに設置されていたが、その半数は必要なメンテナンスがなされていなかった。また、シャワー設備がないキャンプは70%に及んでおり、排水網が全面稼働していないキャンプは85%にも達している。

この点について、シリア北西部の都市イドリブにおいて避難民キャンプ管理者を務めるマンハル・エルフレイジ氏が、次のように語った。「このキャンプに初めて来たのは5年前です。トイレや浴室は当時から不足していましたが、その後も根本的に解決できないままで来てしまった。この土地は岩だらけで掘りづらく、きちんとしたトイレを造ることが難しいのです」

エルフレイジ氏はさらに続ける。「簡素な道具を使って下水用の穴を掘っていますが、その場しのぎにすぎません。キャンプを衛生的に保つには不十分です。衛生設備がしっかりしていないので、疥癬やシラミのように、虫を介して起こる病気がまん延するのです。キャンプで暮らす家族らは、10日に一度しかシャワーを浴びられない状況です」

シリア・イドリブの避難民キャンプ © MSF
シリア・イドリブの避難民キャンプ © MSF

水と衛生の分野へさらなる資金と援助を

これだけ緊急の援助が必要となっているにも関わらず、シリアの水・衛生に関する資金は、2023年において必要な額の約8%しか確保できていない。資金不足が続けば、実際の活動も持続困難となる。

医療コーディネーターのブーバカーが最後にこう語った。「水と衛生における問題で、シリアの避難民はますます健康を害するリスクに脅かされています。しかし、そのリスクを取り除く道は、長く険しいものです。シリアで続く内戦、そして今回の大地震。被害を受けて苦境に立たされた人びとの健康と尊厳を守らないといけない。そのためにも、いま起きている事態をみなに直視してほしい。そして、事態の解決に向けた資金援助、人道援助を確実に継続していくしかないのです」

現地での援助活動が続いている © MSF
現地での援助活動が続いている © MSF

この記事のタグ

関連記事

活動ニュースを選ぶ