がれきの町と化したシリア北西部──医療体制は限界 いま必要な支援とは

2023年04月06日
MSFの運営する移動診療に訪れた人びと Ⓒ Abd Almajed Alkarh
MSFの運営する移動診療に訪れた人びと Ⓒ Abd Almajed Alkarh

2月6日にトルコとシリアを襲った地震から2カ月──被災したシリア北西部の人びとは危機に瀕し、医療体制は限界に達している。北西部では55カ所の医療施設が損害を受け、そのうち15カ所は診療を停止。人びとはごく限られた範囲でしか、医療を受けることができない状況に置かれている。

がれきの中で医療を

最も被害が大きかった地域のひとつが、アレッポ県にあるジンデリスの町だ。地震によって建物の60%が全壊し、90%が損壊した。

「ジンデリスの通りを車で走り、大規模な被害を目の当たりにしました。完全に壊滅した地区もあり、MSFが支援する病院の産科病棟も含め、多くの建物が被害を受けました。そこでは、現地のパートナー団体と連携して緊急帝王切開を含む安全な分娩や新生児ケアに当たっていたのです」

アレッポ北部でMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるエンリケ・ガルシアはそう話す。

地震により損壊した建物 Ⓒ Abd Almajed Alkarh
地震により損壊した建物 Ⓒ Abd Almajed Alkarh

産科や小児科などの必須医療の提供を維持するためには、一刻も早い短期的な解決策が欠かせない。ジンデリスで活動するMSFのチームは、地震で家を失った270世帯が暮らすキャンプで移動診療を行っている。ここでは1550件の診療を行い、670件の心のケアを提供した。

また、地元団体と協力し、被災した病院の隣に妊婦の出産や子どもの診療、女性や少女がリプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)を受けられるテント病棟の設置を支援。このテント病棟では、1000人以上の患者が治療を受けた。専門医による治療が必要な患者は、他の病院へ移送している。

MSFが移動診療を行うジンデリスのキャンプ Ⓒ Abd Almajed Alkarh
MSFが移動診療を行うジンデリスのキャンプ Ⓒ Abd Almajed Alkarh

ジンデリスの全住民が自宅を失い、避難を余儀なくされた状態です。町に残る人びとは、避難キャンプや被災した家の横のテントで生活しており、その中には医療者の診療が必要な妊娠中の女性や子どももいます

MSFのプロジェクト・コーディネーター エンリケ・ガルシア

MSFは地域のパートナー団体と連携し、人びとが必要な時に確実に必須医療を受けることができるように働きかけ、支援先の医療施設の改善にも取り組んでいる。

全てが不足 追加支援は急務

地震発生から数時間後に、MSFは緊急対応を開始した。イドリブ県とアレッポ県の病院や診療所で救急キットや外傷キット、手術キット、医療物資を提供し、負傷者が一斉に来院する事態に備え支援を行った。それから6週間以上が経った現在は、より大規模で包括的な対応が求められている。医療体制を立て直し、シリア北西部で人びとがこれまで通り医療を受けられるようにするためだ。

「医療施設は手一杯な上に、全てが不足しています。スタッフは、時にはテントなどの仮の施設の中で働いており、医療品や医療機器も人びとのニーズを満たすためには不十分という困難な状況です。シリア北西部の医療体制の回復を助け、住民にタイムリーで持続可能な医療提供を行うための追加支援が急務です」とガルシアは話す。

テント病棟では1000人以上の患者が治療を受けた Ⓒ Abd Almajed Alkarh
テント病棟では1000人以上の患者が治療を受けた Ⓒ Abd Almajed Alkarh

地震が起こる前から、シリア北西部の医療体制は12年にわたる内戦で崩壊していた。医療スタッフの不足は深刻で、稼働し続けるために病院同士でスタッフが業務を掛け持ちしなければならないことも多い。ほとんどの医療施設では、必須医薬品や医療物資の不足に定期的に直面している。

被災しても活動を続ける

そのような困難な状況にもかかわらず、ジンデリスの医療スタッフは日夜、人びとの医療ニーズに応えるため活動を続けている。

「ここで出会ったスタッフの強さと心の広さには驚きました。ある助産師の方は、地震で家を失いキャンプで生活していましたが、自分のテントの中に患者を受け入れていました。診療所では、まだ母乳で育てているため、赤ちゃんを連れて出勤している薬剤師もいました。自らも地震で被災したのに、初日から精力的に活動する多くの人たちに出会いました」とガルシアは話す。

MSFのシリア北西部での活動

ジンデリスやアレッポ県、イドリブ県の他の被災地にいるMSFのチームは、人びとのニーズに合わせた対応を展開している。医療施設の支援や医療・心のケアの提供、被災世帯への救援物資の配布、避難民キャンプでの水・衛生活動を実施。また、ジンデリスでは、女性が出産をする際に安全で利用しやすい空間を提供するため、損壊した産科病棟に代わる新しい病棟の建設を優先的に支援している。

テント病棟では小児科やリプロダクティブ・ヘルスケアの相談に加え、通常分娩の支援も行う Ⓒ Abd Almajed Alkarh
テント病棟では小児科やリプロダクティブ・ヘルスケアの相談に加え、通常分娩の支援も行う Ⓒ Abd Almajed Alkarh

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