水不足で感染症が広がる シリア北部300万人への影響に懸念

2021年10月08日
シリア北西部の避難民キャンプで、MSF提供の清潔な水が入った容器を運ぶ女性 © Abdurzaq Alshami
シリア北西部の避難民キャンプで、MSF提供の清潔な水が入った容器を運ぶ女性 © Abdurzaq Alshami

「水が足りないときは、なべに雨水を溜めておきます。でもテントが汚いので、屋根から落ちる雨水は汚染されていて、飲むのも浴びるのも安心できません」。そう話すフセイン・ムハンマドさんは、シリアの北西部イドリブにある避難民キャンプに暮らしている。

「供給されている水には、石灰分や砂が混じっているのです。その水を使っていたら、1歳の息子が腎臓病になってしまいました」。息子にペットボトルの水を買ってあげたくても、ムハンマドさんにその余裕はない。

シリアの北部では、ここ数カ月の水不足が限界に達している。10年にわたる内戦で水と衛生の設備が破壊され、放置されてきたためだ。300万人以上にのぼるこの地域の避難民は、いま過酷な状況に置かれている。

避難民キャンプでの水不足

「水が汚染されていたり、下水処理が劣悪だったりすると、健康へのさまざまな悪影響が生じます」と話すのは、現地で国境なき医師団(MSF)の健康教育を担当するイブラヒム・ムフラジュ。「汚染水が原因となる下痢や肝炎などの感染症や、とびひ、疥癬(かいせん)といった皮ふ病がキャンプ内に広がるのです」

さらに北西部では、新型コロナウイルスの感染拡大がいま危機的な状況にある。「水不足は、予防と治療に不可欠な衛生対策にも大きく支障をきたしています」とムフラジュは言う。

援助団体は北部全体でさまざまなニーズに応えようと活動しているが、そもそも水・衛生設備が足りていないことが課題だ。その主な原因は、こうした活動のための資金が減少していること。水と衛生に関する援助は現在、シリア全体の人道支援予算の4%しか占めておらず、昨年比で3分の1以下となっている。

MSFは北西部で避難民キャンプの水と衛生に関して定期的に調査し、不足を補う援助を行っている © Abdurzaq Alshami
MSFは北西部で避難民キャンプの水と衛生に関して定期的に調査し、不足を補う援助を行っている © Abdurzaq Alshami

資金不足の影響で感染症患者が急増

この資金の減少により、多くの団体が北西部のキャンプでの給水活動を停止。すると水を介して感染する病気が急速に広がり、例えばデイル・ハッサンのキャンプでは、それらの病気の患者数が今年5月から6月の間だけで47%も増加した。

食料不足と栄養失調が懸念されている北東部でも、やはり水不足や水質の低下により水を媒介とする感染症が増えている。ラッカでMSFが支援する診療所では、5月の下痢患者数が前年同月に比べ50%増加した。

またハサカでは、トルコ当局が管理するアルーク給水所からの供給がたびたび途絶えるため、100万人が約2年にわたって水を十分に確保できない状況にある。さらにこの一帯で最も重要な水源であるユーフラテス川の水量が大幅に減少しており、人びとの生活に打撃を与えている。

MSFから清潔な水を提供され、子どもたちはシャワーを週1度だけでなく、2~3回浴びられるようになった © Abdurzaq Alshami
MSFから清潔な水を提供され、子どもたちはシャワーを週1度だけでなく、2~3回浴びられるようになった © Abdurzaq Alshami

活動を広げ、援助の空白を補う

この危機的状況を打開し、シリア北部の人びとのニーズに応えるため、MSFは水と衛生問題への包括的な対応を始めた。

支援団体の資金不足が明らかになった今年春、MSFは水と衛生の活動を一時的に拡大することを決定。ロジスティクス・マネジャーのウサマ・ジョウハダルは、「イドリブ県内で支援するキャンプ数を2倍に増やした」と話す。

現在は北西部にある約90のキャンプで、およそ3万人の避難民を対象に水と衛生に関する支援を提供している。衛生キットの配布や、水の運搬と処理、廃棄物の収集、上下水道の整備、トイレの建設と修復、健康教育などの活動を行っている。

また北東部では、ハサカで水のトラック輸送を増やし、ラッカでの栄養失調対応を強化した。しかしMSFプロジェクト・コーディネーターのベンジャミン・ムティソは、「これらの取り組みはいずれも恒久的な解決策ではありません。清潔な水を手に入れられずに苦しむ人はまだ多くいて、ニーズを満たしていない状況です」と訴える。

「資金不足が深刻化し、水の分配では時として政治も絡みますが、MSFや他の団体が全ての空白を埋めることはできません。人びとの健康が脅かされています。援助資金の提供者は資金の配分をスピードアップさせ、シリア北部の人びとが生きるのに欠かせない水・衛生面での支援を着実に続けていくべきです」

シリア北西部の避難民キャンプ。テントの外で薪をたいて調理する女性 © Abdurzaq Alshami
シリア北西部の避難民キャンプ。テントの外で薪をたいて調理する女性 © Abdurzaq Alshami

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