キャンプ間で広がる格差 シリア北西部、いま避難民の暮らしは
2021年04月08日長引く紛争により多くの人びとが避難を強いられているシリア北西部。戦火を逃れた市民がキャンプでどのような生活を送っているのか、その実態は見えづらい。国境なき医師団(MSF)のシリアでの活動責任者であるファイサル・H・オマル医師が、複数のキャンプを訪問。いま人びとが必要とするものは何か、オマル医師が報告する。
安全を求めてたどり着いた場所
今回、アレッポ県のアフリンとアザーズを訪問しました。この2つの地域は、トルコ軍と反政府武装勢力が統制するアレッポ県西部にあります。シリア軍はいまここで軍事行動を行っていないため、戦闘の前線であるイドリブ県よりも安全で、多くの避難民がここに身を寄せています。
アフリン地域にはダマスカス郊外県や東グータの出身者が多く、皆長い距離を移動してここにたどり着きました。戦火を逃れ5回近く移動を繰り返して、やっとここに着いたという人も少なくありません。いま約15万人がキャンプで過ごしています。
アザーズには膨大な数の避難民キャンプがあります。地域人口は60万人で、その3分の2にあたる40万人がキャンプの住民です。
公式キャンプと非公式キャンプで大きな差が
状況はキャンプによって非常に差があります。条件が良く設備の整っているところもあれば、公共サービスがごくわずかにしか受けられず、環境がかなり厳しいところもありました。
トルコ当局は、シリア北西部の統制下の地域に公式キャンプを設置しています。アフリンで訪れたジェンデリス準区のキャンプは、さらに5つの小キャンプに細分化され、滞在者は合計5000人。このキャンプには、診療所や学校など必要なサービスがすべて揃っていました。唯一の大きな課題は給水で、これはくみ上げポンプの燃料確保が必要なためです。
一方で、適切な設備のない非公式キャンプがあちらこちらに点在しています。同じジェンデリス準区内でも北のラジュ・キャンプは、公式キャンプからあぶれてしまった人びとが自然発生的に立ち上げたものです。そこでは、2月のとても寒い雨の日に、子どもたちが防寒着もなく泥の中で遊ぶ様子を目にしました。
さらに悪いことに、この地域で大規模な洪水が発生したのです。これを受けて私たちは、トルコのNGOと共同で支援の提供を決定。協力して5つのキャンプで砂利を敷き、テントの中と周辺で効率的な排水がなされるよう整備しました。また、毛布やカーペットのほか、テントの床を覆うためのビニールシートも配布しています。
また、アザーズ地域では、古いテントが並ぶ、生活に必要な設備の整っていないキャンプを訪れました。アル・イマンと呼ばれ、他の非公式キャンプと同じく、公式キャンプのはずれにできたキャンプです。公式キャンプの方は設計も良く、必要なサービスが整っていたのですが、過密化し、新しい人たちを受け入れられなくなってしまいました。そこで、公式キャンプのサービスを受けようとする避難民が、近くにテントを張って暮らしているのです。
協力団体とともに、物資や水・衛生の支援を
アフリン地域ではシリアのNGO「アル・アミーン」と協力して診療所の運営をサポートするほか、複数のキャンプで移動診療を展開しています。また別の協力団体と共同で一次診療所も支援中です。さらに、衛生キットや毛布などの必需品を避難世帯に配布したり、学校における水と衛生に関する活動や、他の援助が入っていないキャンプへの給水を行ったりしています。
アル・アミーンには先ごろ、大きな悲劇がありました。3月20日、アレッポ北部に保有する倉庫のそばで爆弾が爆発し、2名のスタッフが亡くなったのです。この地域では、即席爆発装置や自動車爆弾を使った攻撃が頻繁に発生しています。この爆発で、倉庫内の医薬品の約8割が使い物にならなくなりました。その大部分がアル・アミーンの物品ですが、MSFのものもあり、シリア北西部の人びとに医療援助を届け続けるにあたって影響が心配です。
非公式キャンプにおける水と衛生の問題など、現地のニーズは膨大です。協力団体と連携し、MSFはこれらの地域での支援を何としても続けていきます。