ただ安心して暮らしたいだけ……爆撃によって奪われた日常 ある医師の苦悩
2020年03月03日シリア政府軍とロシアの同盟軍による軍事作戦を受け、数十万人が避難するシリア。アレッポ市から西に30キロメートル離れた場所にあるデルハッサンキャンプで活動している国境なき医師団(MSF)の医師に現在の状況を聞いた。
着の身着のままで逃げた人びと
「2月の第3週に、政府軍がアレッポ市西部に広がる農村へ急速に侵攻しました。人びとは不意をつかれた格好です。アタレブ、アビアン、カフ・ナヤ、カフ・ヌーラン、マアラト・ヌマンの地域に住む人びとは、自宅から逃げました。
車が手に入らず、徒歩で避難している人もいます。家財も暖かくして過ごすための物もないまま、寒い中、何キロも歩いていました。着の身着のまま逃げた人もいます。
ここ2~3日間、デルハッサンキャンプとイドリブ県全域では、雪が降っていました。道端に座り込んでいる人や、オリーブの木の下で毛布にくるまっている人も見かけます。毛布に包んだ子どもを抱いた女性も外に出ていました。子どもたちがオリーブの木の下で、雪の上に座っている様子も見えます。涙なしには見られません」
野ざらしで暮らす 暖房も薬もない
「大勢の人が、アフリンとアザーズに向かっています。借りる家などないのも承知の上です。知人の家に泊まれる人もいるでしょうが、それ以外の人は誰かからテントをもらえるまで、野外で寝泊まりするほかありません。あてもなく、ただ歩き回っている人もいます。
アル・ダナ市では、建設中の建物に住んでいる人もいます。屋根と壁はありますが、窓はありません。たいていの人は街中で泊まる場所も見つけられず、空き地にテントを張らざるを得ない状況です。
この辺りはテントが沢山あり、トルコ国境に近づくほどテントも増えます。テントを買えない人は、他の家族とテントで共同生活をしています。地面に全て家財を置きっぱなしにしている人もいます。テントがなく、野ざらしで暮らしているからです。野外で暮らす人たちは凍えています。破滅的です。
あらゆる年齢の人が寒さのため病気になっています。暖房も薬もありません。何も持たずに家を離れたので、全てのものを必要としています」
ただ安心して暮らせる場所がほしいだけ
「私も避難者です。今住んでいる村にほど近い場所では、前線から爆撃の音も聞こえてきます。怖いですし、大変なストレスです。でも、避難するのにも慣れてきました。いつでも逃げ出す準備はできています。
この紛争は、もう9年近くも続いているのですが、今年だけでも、これまでの9年分をあわせたほどに苦しいです。今年の攻撃は残虐で、野戦砲、ロケット弾、マシンガンなどあらゆる武器が使われています。
人びとは途方に暮れ、今何が起きているのか全く分からないでいます。恐怖に打ち負かされた状況です。政界の動きも、これから何が起きるのかも分かりません。明日のことさえ、誰にも分からないのです。一つだけ確かなことは、爆撃と政府軍がこちらに向かって来るということ。私たちは、ただ安心して暮らせる場所がほしいだけなのに……」