一家4人がテントの中で中毒死 空爆に追われて避難後の悲劇

2020年02月28日
© MSF
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シリア北西部で、シリア政府軍とロシアの同盟軍による空爆と地上作戦が続いている(2月18日現在)。シリア国内最後の反政府勢力圏であるイドリブ県では、多くの避難民を生み出した。ここ数日間に、アレッポ市西部にある町やキャンプが砲撃を受け、道路は避難民が乗った車やトラックで渋滞が起きている。人びとが、縮小していく安全地帯に向かって一足飛びに逃げようとしているからだ。

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避難民キャンプも攻撃された

MSFの活動責任者を務めるジュリヤン・デロザンは「以前は安全だと思われていた場所が攻撃されており、人びとは必死です。北へ逃げる人びとは、東から来る前線と西側のトルコ国境に挟まれた、ますます小さくなっていく地域に押し込められています。以前から、避難キャンプでの暮らしは厳しいものでした。軍事作戦が続けば、この地域に押し寄せる人びとの状況はさらに悪くなるでしょう」と話す。

シリア政府軍は、首都ダマスカスとアレッポ市に通じる高速道を掌握。現在は西に向かって進み、アレッポ市西部に広がる人口密集地を脅かしている。

2月14日と15日には、サルマダー町周辺にある複数のキャンプが砲撃を受けた。 これらのキャンプには、最近イドリブ県南部の戦闘から避難してきた数万人の人びとが逃げ込んでいた。数人が負傷し、テントもいくつか壊された。サルマダーから東に20キロメートル離れた場所にあるタカドの町は、2月13日以降、何度か攻撃されている。町の住民は大半が避難した。 

© Audrey Hulet/MSF
© Audrey Hulet/MSF

タカドにあるMSFの支援先診療所院長、ムスタファ・アジャージュは「大勢の人がタカドから逃げだしました。最近、野戦砲、ミサイル、爆撃機で攻撃されたからです。残っている人は車を手に入れるお金がない人か、どこに避難したらいいのか分からない人だけです。私たちは、医療物資を別な場所に移そうとしているところです。私は、活動再開に適した安全な場所を探しています。なるべく急を要する医療ニーズがある場所でと考えています。でも、基礎的な医療物資をいくらか残しました。まだタカドに残っている人がいるので」と話す。 

次々と閉鎖する病院

家財道具を積んだ車で避難する人びと © MSF
家財道具を積んだ車で避難する人びと © MSF

アタレブ市内の病院ではMSFから救急キットの寄贈を受けていたが、同市が攻撃を受けたため、2月16日に閉鎖に追い込まれた。ダラトイッザにある病院も2月17日に閉鎖を余儀なくされた。爆撃の恐れが高まったためだった。これにより、アレッポ県西部の農村部で稼働している病院はなくなった。

状況がめまぐるしく変化しているため、イドリブ県北部とアレッポ県西部の人びとは、その多くが 何度も避難してきた。その上、先の見通しはほとんどつかない状況にある。「恐怖とストレスにおびえて暮らしています」と話すのは、MSFの医師。アレッポ市から西に30キロメートル離れた場所にあるデルハッサンキャンプで活動している。

「明日どうなるのか誰にも分かりません。ただ確かなことは、爆撃と政府軍がこちらに向かって来るということです」 

87万人が避難 野外で寝泊まりも

国連は、2019年12月1日以降に、87万5000人がシリア北西部で避難したと発表している。報道によると、避難民キャンプは人であふれており、爆撃からどれほど離れた場所でも、仮住まいにする部屋を見つけることもできない。行き場をなくした人びとは、丘の中腹や道路脇にテントを張り、野外で寝泊まりしている。

MSFが活動しているキャンプに家族で辿り着いた男性は、「爆撃下でも、キャンプ内でも、いつも死がついてまわっているように感じます」。デルハッサンキャンプで活動するMSFの医師は、「爆撃が激しくなると、必ず誰かが避難してきます。大勢の人が、避難先の町で仮住まいを見つけられず、空き地にテントを張らざるを得ない状況です。この辺りはテントが沢山あります。トルコ国境に近づくほどテントも増えます。テントを買えない人は、テントで他の家族と共同生活をしています。道端に座り込んでいる人やオリーブの木の下で毛布にくるまっている人も見かけます。着の身着のまま逃げた人もいます」 と語った。

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家族4人がテントの中で中毒死

© MSF
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イドリブ県北部とアレッポ県西部では、仮設集落が至る所にできた。住み手である避難者は厳しい生活環境で暮らしている。2月の第3週、気温は氷点下に達し、豪雪で多くの道路は通れなくなった。だが、人びとに寒さを防ぐ手段はほとんどない。

仮設集落では、4人家族全員がテント内では中毒死する事件も起きた。質の低い燃料を燃やしてテントを暖めようとしたためだった。ある父親はキャンプ内の物資配布中にMSFに、「ひどい状況です。暖房もない。パンもない。水もない。オリーブの葉を燃やして、暖を取っています。助けが必要です」と訴えた。

MSFの移動診療で活動している医療スタッフは、呼吸器感染になった患者を多く治療している。生活環境と冬の気候という、悪条件が重なった結果だという。チームはここ数週間で、多くの妊婦と子どもたちにも医療援助を行った。 

救援物資の配布

©MSF<br>
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MSFは、新しいニーズにも対応している。イドリブ県内農村部にある複数の場所で、救援物資を配布している。MSFは2019年12月1日以来、20カ所のキャンプと仮設集落で、毛布、冬用の服、衛生用品キットを1万3000人余りの人に配布してきた。また、数万人のキャンプ住民に飲み水の供給や、燃料も提供するなど対応を続けてきた。だがこうした対応の一方で、ニーズが増えているため、避難民に必要かつ十分な対応が難しくなってきているのが現状だ。

地上作戦と空爆が続いているため、人びとは転々と居場所を変えている。2月15日から16日にかけアレッポの西にある複数のキャンプで一時退避も起きた。交通費を支払える人は北を目指し、トルコ国境に近いアフリンとアザーズに向かっている。それ以外の人は移動を比較的短距離にとどめている。だが人びとは、辿り着いた先で援助を受けられるかどうか分からない。

こうした危機についてあるMSFの医師は、こう表現した。
「この紛争はもう9年近く続いています。だが、今年は特に苦しいです。これまでの9年分全ての苦しみを合わせた位に……」 

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