また“普通の子”に 銃を下ろした子ども兵士 心のケアが未来への1歩

2018年10月17日掲載

MSFの診療を待つヤンビオの人びと © Philippe Carr/MSFMSFの診療を待つヤンビオの人びと © Philippe Carr/MSF

幼い子どもたちに武器を持たせ、敵と戦わせる—。ゲームや作り話ではなく、内戦の続く南スーダンで起きていた現実だ。ヤンビオ郡では、長年にわたる内戦で戦闘を強いられた子ども兵士の解放が進んでいる。大人でも耐えられないような壮絶な経験をした子どもたちは、簡単に元の生活には戻れない。国境なき医師団(MSF)は心理ケアプロジェクトを運営して、子どもたちが自分の体験を乗り越え、地域社会で再び普通の生活を取り戻していく手助けをしている。 

恐ろしい体験を乗り越えて

ヤンビオではMSFの移動診療チームが地域へ出向き、元子ども兵士と地域の人びとに医療を提供する © Philippe Carr/MSFヤンビオではMSFの移動診療チームが地域へ出向き、元子ども兵士と地域の人びとに医療を提供する © Philippe Carr/MSF

武装勢力が子どもたちを無理やり兵士にして戦わせていたことは、南スーダンの内戦のなかでも最悪の出来事だ。子ども兵士は、自分たちの行動がどんな結果を生み出すのかも分からないまま命令に従う。都合のいい戦闘員だ。

家族と離れ離れになり、強制的に兵士として働かされ、暴力的で非人間的な生活を強いられた子どもたちは、心に傷を負っている。殴られたり、性的虐待に遭ったりした子、戦闘で見た恐ろしい光景を忘れられない子も多い。

MSFは、南スーダン政府と他のNGOのグループとともに、兵士にされていた子どもたちを地域社会に戻そうと試みている。この半年間で合計632人の子どもたちが社会復帰プログラムに参加した。MSFの心理療法士とカウンセラーが子どもたちの心理ケアにあたり、多くの子どもたちが社会に戻っている。

ヤンビオ郡でMSFの心理ケア活動マネジャーを務めるラヤン・ファットゥーシュは、「子どもたちは、必ずしも心理カウンセリングを必要としているとは限りません」と語る。「まずはそれに気づくことが重要です。人間の精神には復元力があり、問題に自分で自然に対処する力が備わっています。一方で、心的外傷後ストレスや、過去の強烈な体験が突然脳裏によみがえるフラッシュバックのある子どもは、不安症やうつになる恐れがあるのです」
 

子どもの心を支配する罪悪感

ヤンビオのMSFチームは元子ども兵士の家や学校の近くに出向き、移動診療を行っている © Philippe Carr/MSFヤンビオのMSFチームは元子ども兵士の家や学校の近くに出向き、移動診療を行っている © Philippe Carr/MSF

子どもたちは、これから地域へ戻ってどのような扱いを受けるのか、自分は一体どうなるのか、多くが将来の不安を感じている。何年も武装勢力に捕らわれている間に、暮らしが変わり、世界も変わったことに気づく。家族がどこかに避難していて見つからなかったり、もうこの世にいなかったりする。こうした“気づき”が、長く心に悪影響を及ぼし、すぐに社会復帰ができない子どももいる。

故郷に帰っても歓迎されるとは限らない。家族や地域社会が受け入れをためらうこともある。武装勢力は民間人からの略奪に子ども兵士を使い、地域住民から“警護代”を巻き上げ、お金を出さなかった人には暴力を振るった。子どもたちの受け入れは、地域社会が鍵となる。地域社会には、子どもたちが武装勢力に捕らわれていたこと、そして戻ってきたことを理解して、子どもの消息が知れず不安だったときのことを振り返るよう促している。

「罪悪感を覚えている子どももいます。軍服を着ている間にしたこと、武装勢力に捕まって家族から引き離されたことさえ自分の責任だと感じている子もいます」。そう語るのは、MSFの心理療法士、キャロル・ムワキオ・ワウドだ。ムワキオとMSFの心理ケアスタッフは子どもたちに、すべて自分が悪いのではない、と諭している。「残虐なことをさせた張本人は武装勢力の指揮官で、兵士だった時は自分のことを自分で決められなかったけれど、今は自分でいろいろなことができるんだと伝えています」
 

信頼して心を解放する

MSFは元子ども兵士が暮らす地域で心理ケアを提供する © Philippe Carr/MSFMSFは元子ども兵士が暮らす地域で心理ケアを提供する © Philippe Carr/MSF

カウンセラーと子どもたちの間にある“信頼”は、子どもたちが自由に自己表現をするために不可欠な絆となる。ムワキオは語る。「子どもたちができるだけ安心してケアを受けられるよう、どんな小さなことでも気にかけています。信頼関係を築くためには大事なことです。心理ケアセッションの間、子どもたちがどこに座るか、そんな細かな事も相手を知る重要な手がかりとなります。セッションを行うテントの入り口も見せて、立ち聞きされる心配はないと分かるようにしています」

子どもたちには、また兵士だったときの生活に引き戻されるかもしれない、という不安があり、時にそれが心の回復を邪魔してしまう。社会復帰プログラムで何かに落ち込んでしまうと、幻滅感にとらわれ、兵士だった頃に戻ろうとする恐れさえある。そのため、子どもたちのことをよく見ていることが重要だ。

MSFのオペレーション・マネジャーを務めるポール・マイーナは、「ほぼ全ての子どもたちが、普通の暮らしと未来を望んでいます。話してみると、同い年の他の子どもと同様に、どの子も学校に行きたがっていることが分かります。新しい人生は教育を通じてしか手に入らないとわかっているのです」と話す。
 

新たな人生の1歩のために

移動診療のテントを組み立てるヤンビオのMSFチーム © Philippe Carr/MSF移動診療のテントを組み立てるヤンビオのMSFチーム © Philippe Carr/MSF

南スーダンの医療体制は整備が遅れていて、心理ケアの専門家もほとんどいない。そのため、子どもたちと受け入れる側の地域社会に働きかけるには、手が回らないのが現状だ。そこで、MSFではプロジェクトで活動する南スーダン人スタッフが、カウンセラーになる訓練を受けている。速習コースを受講し、数ヵ月後には監督を受けながらサポートにあたる見通しだ。

ヤンビオのプロジェクトは、人生を変えようとする子どもたちを助けている。だが、南スーダンにはほかにも、まだまだ癒していかなければならない子どもたちがたくさんいる。内戦により、南スーダン全土で1万9500人の子どもたちが戦闘員として働かされ、社会復帰を必要としていると推測されている。自分で過去と折り合いをつける子もいるかもしれない。だが多くは、人生の新たな一歩を踏み出すための助けを必要としているのだ。
 

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