指を切られた少女、銃で撃たれた赤ちゃん──国境なき医師団の日本人スタッフが語る、紛争の1年 #スーダンの話をしよう

2024年04月15日

2023年4月15日にスーダン軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の間で紛争が始まって1年。国境なき医師団(MSF)は、スーダン国内で医療援助を継続し、近隣国でも対応を行っている。

スーダンでは、何が起きているのか。日本から派遣され、紛争下で活動を行ったスタッフがいま改めて伝えたい、スーダンのこと。 
 

新しい紛争は注目を集めるが、 長く続く紛争は忘れられてしまう──。


2023年4月15日の朝。スーダンの首都ハルツームで現地活動責任者を務めていた私は、業務上のチャットで一報を受けました。宿舎の屋上に上がり市内を見渡すと、黒煙が上がり、「パン、パン、パン!」と銃声も聞こえました。その後、MSFは安全上の理由によりハルツームから一時的な退避を決めましたが、5月には緊急対応活動を開始し、拡大していきました。

黒煙の上がる首都ハルツーム=撮影2023年4月21日 Ⓒ Atsuhiko Ochiai/MSF
黒煙の上がる首都ハルツーム=撮影2023年4月21日 Ⓒ Atsuhiko Ochiai/MSF


あれから1年──。この紛争で1万5000人以上が命を落とし、800万人以上が新たに避難を強いられています。650万人以上が国内避難民となり、約170万人の人びとがチャドや南スーダン、エチオピアなどの国外に避難を余儀なくされています。

スーダンはもともと医療体制が不安定で、2019年に長期政権が倒れた後は、物資や医療に携わる人材の不足といった課題に直面していました。都市と地方の格差も大きく、地方では人びとが医療を受ける機会がまったくないことも。昨年4月以降、状況はさらに悪化し、脆弱だった医療体制はいまや崩壊しています。

医療・人道援助のニーズが拡大しているにもかかわらず、支援は全く追い付いていません。国連によると2024年、スーダンには27億ドルの支援が必要とされていますが、現在その6%に相当する1億5000万ドルしか集まっていません。

MSFは、国際社会にスーダン及び周辺国への人道支援の継続・拡大が急務であると訴えてきました。

しかし、ガザやウクライナをはじめ、世界各地でさまざまな人道危機が起きているいま、スーダンは忘れ去られているのではないか──。

紛争は始まった直後こそ注目も支援も集まりますが、長く続くほど忘れられていく現実があります。でもそれでいいのでしょうか。

南スーダンに避難してきた人びとは、「自分たちは見放された」という感覚を持っていたように感じます。スーダンではいまも現地のスタッフが、自分たちの命を危険にさらしながら、何カ月も無給で働いています。いまこそ、国際社会による早急な対策と支援が不可欠です。
 
現地活動責任者/落合厚彦
■2022年6月~2023年6月:スーダン・ハルツーム
■2023年9月~12月:南スーダン・レンク

指を切られた少女、頭を撃たれた青年。あまりの理不尽さに、かける言葉が見つからなかった──。


スーダンで撃たれた人びとが、国境付近に殺到している──。2023年6月、報告を受けた僕たちはすぐにアドレへ飛び、緊急対応を開始しました。国境を越えてたどり着く人に24時間体制で医療を提供できるよう、テント病院を設営。1日100人を超える患者さんを受け入れました。9割以上が銃で撃たれた人でした。

テント病院の内部 Ⓒ MSF
テント病院の内部 Ⓒ MSF


そこで目の当たりにしたのは、紛争地における医療の過酷な現実と、理不尽な暴力の数々です。家事ができないように指を切断された少女。銃で撃たれ太ももの骨が砕けた赤ちゃん。両足を銃で撃たれ、逃げることすらできなかった方は、数週間たってからロバに乗り病院を訪れました。

私たちが対応できたのは、病院にたどり着くことができた人のみです。

凄まじい暴力の影響により、医療アクセスが断たれ、必要な治療を受けることができない人が他にもたくさんいることは、想像に難くない状況でした。

たとえ治療が受けられたとしても、物資も足りず環境も整わない紛争下での完治は難しく、障がいが残る懸念もあります。頭を撃たれた青年は、命はとりとめたものの半身まひの障がいが残りました。懸命にリハビリを行う彼と父親を見ながら、なぜこんな理不尽なことが起こるのだろう──そう思わずにはいられず、患者さんたちの未来に強い不安を感じました。

懸命なリハビリで手足が少し動くようになったときは、皆で喜びを分かち合った Ⓒ MSF
懸命なリハビリで手足が少し動くようになったときは、皆で喜びを分かち合った Ⓒ MSF


チャドから帰国した後、2024年1月からはスーダンの西ダルフール州で活動を続けています。多くの紛争地域では、初期には外傷、その後は母子の医療ニーズが高まります。心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ子どもや、性暴力の被害にあった女性に対する長期的な支援やそのための仕組みづくりも欠かせません。

現在、MSFは病院に来ることができる人へ医療を提供していますが、医療にアクセスできない遠隔地では、感染症の流行や栄養失調で多くの子どもが亡くなっているという話も聞こえてきます。そのような人たちに対し、いかに医療を届けることができるかが今後の課題の一つ。僕たちができることは、まだまだたくさんあります。

看護師/佐藤太一郎
■2023年6~7月/9~10月:チャド・アドレ
■2024年1月~4月:スーダン・西ダルフール州ジェネイナ 

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