パプアニューギニア、熱帯雨林の小さな村で日本人スタッフが大奮闘!
2019年07月16日
パプアニューギニアの首都、ポートモレスビーから車で悪路を7時間。「まさにジャングル」という森林地域の真ん中にある小さな村で、日々奮闘している日本人スタッフがいる。国境なき医師団(MSF)のアドミニストレーター、高橋千恵だ。一般企業で経理の仕事をしていた高橋が、どのようにして国際人道援助の世界に飛び込んだのか。現地の状況と自身の仕事について語ってくれた。
交通手段がない!患者にもスタッフにも過酷!
MSFはパプアニューギニアの首都ポートモレスビーと、湾岸州にあるケレマを拠点に結核患者の治療・支援を行っている。高橋が活動しているケレマの地域では、約200人の結核患者を治療している。パプアニューギニアでの活動の最大の問題点は、交通の便が悪いこと。熱帯雨林の奥深い場所に位置するケレマでは、付近の村と村の間に道がなく、船での移動が主である。
「結核患者がケレマのクリニックに診察に来るには、ディンギー(小型ボート)で2日間かかり、1泊は船の上で眠るような状況です。それでも良い方。交通費が支払えなかったり、公共交通機関が見つからなかったり、病院に来られない患者が大勢います」と高橋は語る。
こうした状況のなかで、MSFの課題はまず患者を見つけること。村から村へ訪問し、スクリーニングを行う。結核と診断された患者が病院へ来られるよう交通費を支給し、患者の自宅を訪問し、服薬や治療のサポートをするアウトリーチ活動も行っている。
結核患者の自宅を毎日訪問するアウトリーチ・スタッフも、交通の便の悪さに悩まされる。船でしか近づけない村がいくつもあるが、気候や時期によっては海が荒れて船が出せず、車で行ける所まで行って、その後は緑深い森林の中を歩いて村を目指す。それでもたどり着けない日もあり、「ちゃんと薬を飲めたかな」と患者を案じて顔を曇らせるスタッフもいた。
「紛争地とは違う難しさがあります」と、MSFでイエメンのプロジェクトも経験した高橋は語る。イエメンでも病院は不足しており状況は困難だが、患者は自らMSFの病院を目指してやってくる。ケレマでは病院までの交通の便が悪いことに加え、結核に対する偏見や、伝統的な治療・呪術の信仰も色濃く残る。さらに、結核治療は最大2年間、毎日薬を飲み続けないと完治できない。MSFは結核という病気や治療への理解を深め、村全体で結核患者をサポートしてもらえるよう、村のリーダーと話をして、村出身の人間をサポーターとして雇っている。当然、文化や言語の違いで誤解や衝突も起き、「何もない日がない」という毎日だ。
文化の違いは課題にもやりがいにもなる
このプロジェクトでの高橋の役目は、お金の管理と現地スタッフの人事だ。アドミニストレーターの最大の仕事とも言えるお金の管理では、寄付金が正しく使われるように、MSFのルールに則って活動がなされるようにすること。人事では、現地スタッフの雇用、教育から、休暇や相談ごとに対応する。
高橋は笑い上戸で話し好き。数メートル歩くだけで、現地スタッフを始め、清掃の女性、道端に座るおじさん、患者の家族など、あらゆる人から「チエー!」と声をかけられ、それにいちいち反応する。自然なコミュニケーションのように見えるが、実は意識している部分もあるという。
「経理の仕事にもコミュニケーションはとても大事です。経理が質問するとたいていの場合は身構えてしまうけれど、普段からコミュニケーションをとっていい関係を築いていると、正直な答えがもらえる。小さいことだけど、何かあったときは私のオフィスに呼び出すだけではなく、可能な時は自分からスタッフのいる病院に行って対応すると、彼らも堅苦しく思いがちなオフィスより身構えることもなく、仕事のスムーズさが違います」
経理のバックグラウンドを持つ高橋は、実は人事の仕事は初めてで、戸惑うことも多いという。経理と違って、ルールに則るだけでは解決できない案件が多い。1つ1つの案件に真剣に向き合い、時には文化の違いによって生じる誤解や裏切りに、心が折れそうになることもある。
懲罰会議や解雇の通知などもアドミニストレーターの仕事。この仕事が続くと、自分の精神的ストレスも増える。それでも「常に助け合うのがMSFのいいところだと思う」と高橋は笑う。自分だけで解決できないときは、プロジェクトの責任者や、首都にいる経験豊富なアドミニストレーターが助けてくれる。文化の違いで摩擦が生じることもあるが、違う人間が集まって知恵を絞ることで、物事が解決することもある。毎日振り回されても、「だからMSFで働くのはやりがいがある!」と笑顔で1日を終える。
アドミニストレーターは世界中で必要とされる、チームの歯車
「自分がMSFで働くことになるとはまったく思っていなかった」と高橋は振り返る。大学を卒業後、一般企業で経理の仕事に就いた。5年半勤めた頃、“自力で旅行に行けるようになりたい”という理由で職場を辞め、英語の勉強のためにカナダに渡った。その後はアメリカで1年半、経理と総務の業務を行うインターンシップを行った。「経理って実は国際的な仕事なんですよ。日本では経理の仕事というと、オフィスでPCに向かっていて、国際的なイメージはあまりないですよね。でも実は、経理って世界各国どの国でも必要なんです!」
経済大国アメリカに住んだ後は、途上国でも活動してみたいと思い、ガーナで2年間経理の仕事をした。帰国が近づいた頃、まだ海外で働きたいと思って職を探していたらMSFの募集に目がとまった。「MSFのことは知っていましたが、アドミニストレーターという職種があることは知らなかった。ガーナでの経験も活かせるし、英語が使える、世界各国の人と働けるので、これだ!と思って応募しました」と語る。
MSFのアドミニストレーターは、医療スタッフの単なるサポート役ではない。MSFでは、医療・非医療のスタッフそれぞれが専門分野で力を発揮し、チームとして仕事をしている。「どの職種の人が抜けても仕事は回りません」と高橋は自身の仕事を説明する。
また、非医療職種でも患者さんと接する機会があるのもMSFで働く魅力だという。ケレマのプロジェクトでは、結核患者が病院に来るための交通費をMSFが支給している。その支払いを現地スタッフの代わりに担当することもある。「病気で弱っているのに大変な思いをして病院に来る人に、気をつけて帰ってね、と声をかけると、ありがとう!と返ってきて、人を助けている実感が沸きました。経理や人事の仕事でこういう実感を持てる職場は、なかなかないですよ」と高橋は言う。
「MSFに入る前は“何かすごいことをしている人たち”の団体だと思っていたが、入ってみたらMSFはとても効率的にいろいろな人が働いている職場で、自分のスキルを活かせる場もある。英語ができないから無理だ、という人が多いけれど、英語を学ぶ環境は自分で作れるし、私も、今も学びながら仕事をしています。もし興味があったら是非挑戦してみてください!」
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