コレラ流行が過去10年で最も深刻に 治療と予防で感染の連鎖を断ち切る

2021年11月29日
ナイジェリア北部のコレラ治療センターを受診した少女と対応するMSFの看護師 © MSF/Hussein Amri
ナイジェリア北部のコレラ治療センターを受診した少女と対応するMSFの看護師 © MSF/Hussein Amri
MSFのコレラ治療センターで治療を受けた<br> モハンマド君 © MSF/Hussein Amri
MSFのコレラ治療センターで治療を受けた
モハンマド君 © MSF/Hussein Amri
ナイジェリアの首都アブジャから、北東に400キロメートルほど離れた場所に位置するバウチ州。国境なき医師団(MSF)が運営するコレラ治療センター(CTC)で父親に抱かれているのは、2歳の男の子、モハンマド・シェリフ君だ。親子が住むバウチ州は、過去10年で最も深刻なコレラの流行に見舞われている。

父親はモハンマド君がコレラを発症した時のことをこう話す。「2度の嘔吐(おうと)の後、下痢が始まりました。『こうした症状が見られたら、すぐに病院へ』とラジオでよく流れていたので、妻に話して息子を病院へ連れて行きました」

コレラの治療は、失われた水分・塩分の補給を中心に行う。軽度から中等度の場合は経口補水液の摂取を、重度の脱水症状がある人には、入院して輸液を静脈から投与する必要がある。モハンマド君の容体は深刻だったが、CTCで2日間の治療を受け、退院できるまでに回復した。「もしも連れてくるのが遅れていたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれません」と、父親は振り返る。

ナイジェリアでコレラは“風土病”と位置づけられているが、今年は特に感染者が多く、国内全土で9万人以上の感染が報告されるなど、状況は深刻だ。患者の大半は北部のバウチ、ザムファラ、カノなど6つの州に集中している。 

感染拡大の背景にあるさまざまな要因

感染が拡大した背景には、大きく分けて3つの要因がある。

1つ目は、これらの地域で数年にわたって続く紛争や暴力。数十万もの人が家を追われており、その大半が衛生状態の悪い、安全な飲み水もないような状況での暮らしを強いられている。

2つ目は治安の悪化だ。ザムファラ州では、武装集団による拉致や略奪などの暴力が横行し、人びとは重症化するまで医療機関を受診できずにいた。その結果、7月には1週間の新規患者が7500人を上回り、多くの病院が医療体制崩壊の危機に直面した。

カノ州のCTCで勤務するMSFの看護師アナス・アル・ハッサンは、「1日に80~90人の患者さんを受け入れなければならず、休む暇もありませんでした」と語る。次々と運ばれてくる患者の中には、到着した時には既に息のなかった人もいたという。

そして3つ目は、水に関するインフラの不足だ。カノ州やバウチ州では、下水道は老朽化しているか、そもそも最初から整備されていない。また、大勢の人が過密状態で生活しているため、雨が降るとあふれた下水が井戸などに流れ込み、コレラなどの水系感染症が一気に広がる要因となる。

ナイジェリアでMSFの代表を務めるシンバ・ティリマ医師は、現地の状況をこう説明する。「この国では、慢性的な人道・医療サービスの不足、新型コロナウイルス感染症などによって、多くの人が弱い立場に置かれています。こうした状況にコレラの大流行が加わり、人びとをさらに苦しめているのです」 
上下水道が整備されていないため、雨が降ると水が溢れ、コレラなどの感染症の原因となる © MSF
上下水道が整備されていないため、雨が降ると水が溢れ、コレラなどの感染症の原因となる © MSF

一定の成果も──感染拡大を抑える取り組み

コレラには、1度の投与で済む経口ワクチンが有効だ。しかしナイジェリアでは供給が限られているため、全ての州にワクチンが行き渡っているわけではない。

そこでMSFの緊急対応チームは、ナイジェリア保健省と連携し、6つの州にコレラ治療センターを開設。これまでに2万人以上の患者を治療した。

直接的な治療に加え、MSFは感染の拡大を抑えるための取り組みとして、衛生習慣の周知、症状のある人を早期に見つけるための、健康教育チームによる戸別訪問の実施、アウトリーチ・チームによる井戸や患者の家の塩素消毒など、域密着型のアプローチにも力を入れている。

こうしたMSFの活動は、確実に実を結んでいる。19カ所の経口補水ポイントとコレラ治療ユニット(CTU)を設置し、健康教育と衛生活動を行ったバウチ州では5%だった死亡率が10分の1に下がり、新規入院患者も減少した。国全体でも、ピーク時には1週間に7500人だった新規患者が、雨期の終わり頃には1000人以下に減少。地域住民と医療チームの双方に安心感をもたらした。

しかしティリマ医師は警戒を緩めない。長年紛争が続くボルノ州など、清潔な水や衛生的な生活環境を得られない人は大勢いるからだ。「各地で新規患者数が大幅に減少している一方で、感染が拡大している地域もまだあります。私たちの活動は、これからも続きます」

飲み水を塩素消毒するための錠剤を手渡す<br> MSFのヘルスプロモーター © MSF/Hussein Amri
飲み水を塩素消毒するための錠剤を手渡す
MSFのヘルスプロモーター © MSF/Hussein Amri
感染拡大を防ぐため、MSFのスタッフが患者の自宅を消毒する<br> © MSF/Hussein Amri
感染拡大を防ぐため、MSFのスタッフが患者の自宅を消毒する
© MSF/Hussein Amri

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