世界最大規模の小児ICU「前代未聞の危機」毎日10人もの子どもが亡くなる非常事態に

2018年10月03日

マガリア病院の新生児室にてマガリア病院の新生児室にて

ニジェール南部で、乳幼児の死亡率が急上昇している。国境なき医師団(MSF)が運営する世界最大級の小児集中治療室(PICU)では、過去1カ月に1日平均10人もの5歳未満児が命を落とした。

「このような事態は初めてです」。MSFのドリアン・ジョブ医師はそう語る。スイス・ジュネーブを拠点にニジェールの医療活動を取り仕切るベテランだ。「毎年この時期には、マラリアの流行や栄養失調の悪化が見られます。けれど、これほど大勢の子どもが病院に殺到するのは前代未聞です」。 

小児ICUの入院患者を診察するMSF医師小児ICUの入院患者を診察するMSF医師

ザンデール州でMSFと保健省が運営するマガリア病院。この小児科の入院患者730人のうち208人が危篤状態にあり、約200床を擁するICUで命をつなぐ。その半数は、重症マラリアや重度栄養失調に加え、他の病気も併発している。

深刻な脱水症で入院したラバランちゃん(生後3カ月)深刻な脱水症で入院したラバランちゃん(生後3カ月)

「怖いのは、これが“氷山の一角”だということです」

例年、マラリア・栄養失調のピーク期に実施している死亡率調査によると、治療を必要とする子どものうち、MSFで受診した患者は6人に1人の割合にとどまる。

「私たちの病院でも対応が追いついていない上に、病院の外では、何百人もの子が重症でありながら必要な処置を受けられていません。残念ながら、来院するときには既に手遅れで、助かる見込みがなくなっているケースが多いのです」 

栄養治療食をなめる栄養失調の女の子栄養治療食をなめる栄養失調の女の子

生後3カ月~5歳の乳幼児を持つ世帯にマラリア予防薬を配布するなど、感染の抑止を試みてはいるものの、死亡率は依然として著しく高い。MSFは、患者が最善の治療を受けられるようニジェール内外から熟練のスタッフ243人を派遣。より自宅に近い場所で治療できるよう、移動診療も展開している。 

マガリアから15km離れた町で栄養検査を行うMSFスタッフマガリアから15km離れた町で栄養検査を行うMSFスタッフ

「マガリアの人口70~100万人のうち、約2割が5歳未満の子どもです。ここマガリア病院は、地域住民が利用できる唯一の保健医療施設。異例のマラリア流行に手が回らないのも無理はありません。地元の医療体制は、慢性的な資金難や人手不足にあえいでいます。その結果、人びとと医療との間に隔たりができ、ひいては命を奪うのです——。MSFの活動を拡大し、対応能力を倍増しても、まだ足りません」 

重症の子どもはMSFの救急車で病院へ搬送する重症の子どもはMSFの救急車で病院へ搬送する

MSFはニジェール保健省との連携のもと2005年からザンデール州で活動。医師・看護師485人を含む計594人が勤務し、小児疾患の予防・検査・治療に取り組んでいる。

約200床のPICUを含む 435床を擁するマガリア市内の小児病棟では、2018年1~8月に1万1100人の子どもを治療。8月に受け入れた5歳未満児の数は、単月で3300人を超えた。

そのほか、周辺地域で診療所11カ所、小規模医療施設14カ所、5歳未満児を対象とした容体安定化施設6カ所を支援。2018年1~8月に実施した診療件数は9万3530件(8月単月で3万1390件)、外来栄養治療プログラムの入院患者数は1万3284人(8月単月で3629人)だった。

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