「命のうでわ」で診断を急げ コロナ流行の中、栄養失調から子どもの命を守る 

2020年08月12日
上腕周囲径測定帯「命のうでわ」で腕の太さを測り、栄養状態を確認する=2018年 © Elise Mertens/MSF
上腕周囲径測定帯「命のうでわ」で腕の太さを測り、栄養状態を確認する=2018年 © Elise Mertens/MSF

子どもの栄養失調が特に深刻な国の一つである、西アフリカのニジェール。5歳未満の子どもの10%以上が急性栄養失調状態にあり、緊急事態のラインを上回っている。さらに雨期に入ったことで、マラリア感染のリスクが上昇。そこに新型コロナウイルスの脅威も重なり、子どもたちの命が例年以上に危機にさらされている。

国境なき医師団(MSF)は、多くの子どもたちが迅速に栄養失調の診断が受けられるよう、診断プロセスの見直しを推進している。そこで鍵になるのは、二の腕の太さを測ることで栄養失調状態を確認できる、上腕周囲径測定帯——「命のうでわ」だ。MSF栄養顧問のベアトリス・ムーニエが、現地の取り組みを伝える。 

子どもたちに迅速な診断と治療を

ニジェールでは、毎年平均約40万人の子どもたちが、重度急性栄養失調の治療を受けています。危機的な状態が慢性化し、健康被害が膨大な人数に及んでいるこのような状況では、診断と治療を簡略化する方策が必要です。

 
これまでにニジェールをはじめとした世界各地で、さまざまな策がとられてきました。その一つが、そのまま食べられる栄養治療食の導入です。
 
これにより2000年代半ば以降、治療を受けられる子どもが増えました。さらにこの治療食は家庭でも食べられるため、入院せずに治療が受けられるようになったのです。

栄養治療食を食べる子ども(ナイジェリア)=2018年 © Stefan Dold/MSF
栄養治療食を食べる子ども(ナイジェリア)=2018年 © Stefan Dold/MSF

しかし、そのような改善があったにも関わらず、ニジェールでは5歳未満児の急性栄養失調の割合は高い状態が続いています。

 
ニジェールでは現在、世界保健機関(WHO)の標準勧告を取り入れ、3つの基準を使って子どもの栄養状態を評価しています。まず、体重と身長の比(以下「体重身長比」)、そして上腕周囲径測定帯による測定、さらに浮腫(体液がたまったことによるむくみ)があるかどうかです。
 
これを簡略化することはできないかと、複数の組織で研究が行われました。すると、上腕周囲径測定帯の測定結果(125mm未満)と、浮腫の存在という2つの基準で急性栄養失調と診断する研究に、良好な結果が出ました。
 
これを受けて、MSFをはじめとした団体はこれら2つの基準をニジェール全国に適用させたいと考えています。 

身長や体重の測定よりも短時間で検査ができる © Juan Carlos Tomasi/MSF
身長や体重の測定よりも短時間で検査ができる © Juan Carlos Tomasi/MSF

家庭でもできる検査

上腕周囲径測定帯という「命のうでわ」は、子どもの腕にテープを巻き付けるだけなので、身長計や体重計よりもはるかに使いやすく、結果が出るのも速いのです。早い段階で治療ができれば、栄養失調の子どもも回復しやすくなり、危篤状態で入院する事態も避けられます。

 
また、これを使って子どもたちを検査し、栄養状態が悪くなっていないか確認する母親も増えてきました。母親と医療体制が同じ指標を使うということは一歩前進です。家庭内で子どもたちの健康状態をさっとみることができる上に、警戒水準であることが分かった場合には必要な行動に移れるからです。 

「命のうでわ」の使い方を学ぶニジェールの女性。栄養失調の深刻度が赤・黄・緑の色で分かる=2018年 © MSF/Elise Mertens
「命のうでわ」の使い方を学ぶニジェールの女性。栄養失調の深刻度が赤・黄・緑の色で分かる=2018年 © MSF/Elise Mertens

新型コロナの影響で栄養失調児3割増

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、免疫力が落ちた栄養失調の子どもたちにどう影響するかは、まだよく分かっていません。新型コロナの流行で食糧事情と医療事情は悪くなるため、ニジェール当局の推定によると今年は重度急性栄養失調児の数が30%増加するとみられています。
 
本来、雨期には5歳未満の子どもに毎月1回抗マラリア薬を投与する必要があります。しかし今年は、コロナウイルスの感染がある地域で大勢の人を集めることはできません。そのため戸別訪問を行う必要がありますが、いつもより時間がかかり、人やモノも多く必要になります。
 
新型コロナウイルスの流行が広がる中、「命のうでわ」による診断にはもう一つ利点があります。子どもたちの身長や体重を測定しようとすると使用する器具が増え、その分感染のリスクは高まります。
 
身長計や体重計などの器具は使用後毎回消毒しなければなりませんが、「命のうでわ」にはその必要はないので、感染リスクを抑えるのにも役立つのです。 

「命のうでわ」を使って家庭で子どもの腕を測ったところ重度の栄養失調と分かり、子どもを診療所に連れてきた母親=2018年 © MSF/Elise Mertens
「命のうでわ」を使って家庭で子どもの腕を測ったところ重度の栄養失調と分かり、子どもを診療所に連れてきた母親=2018年 © MSF/Elise Mertens

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