国際女性デー:私が守る、私の体──「セルフケア」が変える女性の健康

2021年03月08日
© Carrie Hawks/MSF
© Carrie Hawks/MSF

妊娠・出産に関わる健康上のリスクや、子宮頸がん……。女性特有の課題に直面しながらも、必要なケアを受けられない人びとが数多く存在する。特に、紛争など人道危機下で生きる女性たちの状況は深刻だ。

そのような中、自身が検査や治療の一部を担って健康を管理する「セルフケア」の手法が、女性たちを変えつつある。3月8日の国際女性デーにあたり、国境なき医師団(MSF)の現場からセルフケアの取り組みを伝える。 

紛争下の女性を望まない妊娠から守る

コンゴ民主共和国(以下、「コンゴ」)イトゥリ州。長年にわたる紛争で人びとは移動を強いられ、医療を受ける機会は限られている。

コンゴの女性たちは、間隔の短すぎる妊娠や望まない妊娠を避けるため、数カ月効果が持続する注射型の避妊薬を使うことがある。そのためには、定期的に診療所に赴いて注射を受けることが不可欠だ。しかし紛争下で移動の多い生活の中、決められた時に医療機関を訪れることは難しい。

そこでMSFが導入したのが、女性が自分で注射ができる、自己注射型避妊薬だ。自宅で行う1回の注射で、約3カ月効果が持続する。

女性たちは診療所で正しい注射方法を学び、自己注射型避妊薬を4つまで受け取ることができる。これにより、定期的に診療所に行ったり、毎日ピルを飲んだりすることなく、効果の高い避妊法が1年間持続することになるのだ。

自己注射というセルフケアの手法により、女性たちは自分で避妊を管理することができるようになる。MSFは2020年、アングム、ニジ、ドロドロという3つの保健区域で、合計約3000回分を提供した。

MSFの看護師のナオミ・クゴンザは話す。「望まない妊娠をすると密かに中絶が行われ、それにより命を落とす女性たちがいます。自己注射型避妊薬によって、妊産婦の死が減ることにつながります。自分で注射をするこの避妊は、女性を中心に据えた手法なのです」 

約3カ月持続する避妊薬の注射を受ける女性 注射の方法を学び、今後は自分で行う © MSF
約3カ月持続する避妊薬の注射を受ける女性 注射の方法を学び、今後は自分で行う © MSF

HIVの自己検査や、子宮頸がんの検体自己採取も

口腔内検査によるHIVの自己検査 © Carrie Hawks/MSF
口腔内検査によるHIVの自己検査 © Carrie Hawks/MSF
セルフケアの取り組みは、様々な地で取り入れられている。HIV感染率が高い、アフリカ南部のエスワティニ王国でMSFが2017年から提供しているのが、HIVの自己検査薬だ。

口腔内検査による自己検査薬は、20分待つだけで結果が分かり、月1回、自宅で落ち着いて検査することができる。陽性の結果が出た場合は、MSFのカウンセラーから今後の治療についてのサポートが受けられる。女性にとって、HIV感染について知ることは自身の健康を管理できることにつながる。 
子宮頸がんで命を落とす女性が多いジンバブエでは、より多くの人が診断を受けられるよう、検査のための検体採取を女性自身が行う方法が検討されている。

医療機関での酢酸加工による視診の検査は、訓練を受けた人材と機材が必要で、時として導入が難しい。しかし女性自身が細胞採取キットを使って、子宮頸部の細胞を採取することができれば、診断を受けられる機会が大幅に広がると期待される。

看護師による採取と自己採取の比較試験が行われ、検体採取の有効性は変わらないことが判明。自己採取を行った大半の女性が、こちらの方が好ましいと答えた。  
子宮頸がん検査の検体を自己採取 © Carrie Hawks/MSF
子宮頸がん検査の検体を自己採取 © Carrie Hawks/MSF

セルフケアとは何か

世界保健機関(WHO)は、セルフケアを「個人、家庭、生活を共にする集団が、健康の推進、病気の予防、健康の維持、不調と障害への対処のためにできること」と定義している。

MSFは患者を中心に据えた取り組みの中でセルフケアを採用し、人びとがそれを安全に実践しつつ、必要や希望に応じて正規の保健医療も引き続き受けられるよう、知識・技術面の支援を行っている。

セルフケアには、以下のような内容が含まれる。
•自己管理:投薬や処置、検査、注射などの自己管理
•自己検査:診断のための検体採取からモニタリングに至るまでの自己検査
•自己認識:自助から自己教育、自己制御、自己効力感、自己決定に及ぶ自己認識

セルフケアとは、補助なしで自身の健康の維持・向上の一切をしなければならないということではない。正規の保健医療に取って代わるものでもない。自身の健康管理の一部を担うと決めた人に、それを委ねるということだ。

MSFでは、どのようなセルフケアの方法であっても、女性が希望や必要に応じて医療従事者と連絡を取り、より本格的な治療に滞りなく移れるようにしている。

 

患者の相談に乗るMSFのカウンセラー(エスワティニ) © MSF
患者の相談に乗るMSFのカウンセラー(エスワティニ) © MSF

新たなイノベーションを

検査や治療の簡素化、自分の居場所で使える機器の充実、遠隔通信技術の向上が相まって、近年はセルフケアが実践しやすくなっている。これは医療が受けづらい環境にある女性と少女の健康にとって大きな助けになるはずだ。

女性たちはセルフケアを通して、自身にとって何がベストかを考えるための情報や支援が与えられる。それにより、自ら選択する力と自律性を獲得し、自身の可能性を高めることにつながるのだ。

MSFはこれまで、すべての人に医療を届けるために様々なイノベーションを重ねてきた。セルフケアの分野には、新たなイノベーションのチャンスが満ちていると期待される。 

© Carrie Hawks/MSF
© Carrie Hawks/MSF

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