助けを求める人が死んでいく 難民・移民の人としての尊厳はどこに?

2018年12月12日掲載

多くの難民・移民を溺死から救助している海難救助船「アクエリアス号」は、政治協調により活動停止に追い込まれた多くの難民・移民を溺死から救助している海難救助船「アクエリアス号」は、政治協調により活動停止に追い込まれた

強奪や暴力、レイプ…世界中で、多くの人びとが命をも脅かす危険な旅を続けている。母国での紛争や暴力、貧困などから逃げるため、難民・移民となることを選ぶ人びとは、その旅の途中、また避難先でも壮絶な苦しみを味わっている。12月10日、11日にモロッコのマラケシュで開催された「移民に関するグローバル・コンパクト」の政府間会議で、国境なき医師団(MSF)インターナショナルのジョアンヌ・リュー会長が現状を変えるよう訴えた。 

MSFインターナショナル会長のジョアンヌ・リューMSFインターナショナル会長のジョアンヌ・リュー

本日は、移民の課題に取り組むためこの場にお集まりくださり、ありがとうございます。

これからお話しすることは、ひとつの国が単独で解決できる問題ではありません。多くの国が力をあわせ、そしてここが重要なのですが──人間的に、問題に取り組む姿勢が必須です。

12月に入り、国境なき医師団(MSF)は地中海における海難捜索・救助活動の中止を余儀なくされました。政治的規制や法的妨害など、悪意のある協調介入があり、MSFが人命救助の活動をしていた海難救助船「アクエリアス号」が、港を出航する許可を得られないまま、地中海で溺死する恐れがある人を助けられずにいるのです。
 

アクエリアス号の活動で救助された難民のボート © Kenny Karpov/SOS MEDITERRANEEアクエリアス号の活動で救助された難民のボート © Kenny Karpov/SOS MEDITERRANEE

アクエリアス号の活動が妨害されたことで、人道的に、また法律の上でも当然の責任、海で「命を救う」ということが、消えてしまいました。

先週は、15人がリビア沖のボートで足止めされ、飢えと渇きで亡くなりました。同じように、誰の目にも触れることなく死んだり溺れたりしている人が、他に何人いるでしょうか?

欧州の市民や市長は、救助された人びとの受け入れに動いて、人間性を見せています。その一方で、欧州諸国の政府は捜索・救助体制の整備を拒み、さらには意図的に援助団体による救命活動を妨害しているのです。

命を救うことに議論の余地はありません。命を救うことは私たちの務めであり、私たちはそのために闘い、皆さまにも支持し守ってもらえるよう、お願いします。命を救うことはまぎれもなく、国連グローバル・コンパクトの礎なのです。

加盟諸国がグローバル・コンパクトの取り組みを支持するかどうかはさておき、どの国も、その国の法律や地域の法律、そして国際法に従う義務があります。グローバル・コンパクトは、どんな場所であっても人を物のように扱うことを禁じています。これは人間としての普遍的な責務です。人びとはさまざまな理由で出身国を離れています。その理由が何であれ、暴力や搾取からの保護を必要としているのです。

地中海を渡る途中で救助された青年 リビアの収容センターで © Sara Creta/MSF地中海を渡る途中で救助された青年 リビアの収容センターで © Sara Creta/MSF

世界各地で、数万人が移動しています。それらの人びとは、いきなり消えていなくなったりはしません。南アフリカの国境やメキシコの国境、マレーシア、インドネシア、欧州の沿岸、リビアからナウル、紅海まで、至るところにいます。MSFの医療チームは、彼らの姿を通じて、現行の残虐な移民政策を目の当たりにしているのです。

人びとの身に降りかかっている激しい暴力と苦しみに、私たちは衝撃を受けています。各国の法規制の間に捕らわれている人、理不尽に勾留されている人、人身売買業者の餌食になっている人…。移民に関する公的な政策が、何百万人もの苦しみに拍車をかけています。

私たちは、現実と向き合わなければなりません。移民を思い留まらせるための非人道的な政策は、彼らを止めることはないのです。むしろ、弱い立場にある人びとを食い物にする犯罪組織や、腐敗した当局に肩入れしています。立場が弱い人びとを犯罪者扱いし、搾取する者たちに容赦なく渡してしまっているのです。

移民に関する政策が単純に現実に基づいていないだけなのか、あるいは腐敗や犯罪行為と意図的に結びつけられた結果なのかは不明ですが、結果は全く同じです。この政策は移民を止められず、そして人の命を奪っています。 

リビアの収容センターでは不衛生な環境のなか多くの難民が勾留され続けている © Guillaume Binet/Myopリビアの収容センターでは不衛生な環境のなか多くの難民が勾留され続けている © Guillaume Binet/Myop

MSFインターナショナルの会長として、私はこの目で悲惨な光景を見てきました。2017年、リビアにある収容センターでは、絶望に打ちひしがれた人びとが汚い部屋に詰め込まれ、捕らわれの身となり、あらゆる希望を奪われていました。

男性も女性も、移動の旅の間に究極の暴力と搾取を経験していました。女性はレイプされた後、お金を懇願するため家族に電話するよう強制されたと言います。保護者がいない未成年者、妊娠中の女性が、医療を受けられないまま地下室に閉じ込められていました。彼らの目には涙が浮かび、自由を訴えていました。

メディアではこうした報道が大きく取り上げられ、今日、私たちはそのために集まっていますが、今この時も、ひどい暴力の被害者がリビアの公的な収容センターや、立ち入りできない非合法の牢屋につながれたままなのです。 

リビアの沿岸警備隊に連れ戻され、収容センターへ送られた難民たち © Sara Creta/MSFリビアの沿岸警備隊に連れ戻され、収容センターへ送られた難民たち © Sara Creta/MSF

2018年1月から10月にかけて、リビアの沿岸警備隊は1万4000人を超える難民と移民をリビアへ連れ戻しました。地中海を渡って欧州へ逃げようとしていた人たちを、送還したのです。拷問と残酷な搾取から逃れようと海を渡った人びと、子どもも、収容センターに戻されました。そこに基本的人権はなく、虐待が横行しています。

各国政府の行動は矛盾しています。人びとをリビアへ送り返すべきではないと認めながらも、捜索・救助活動の妨害を企て、非人道的な政策を作り、沿岸警備隊を訓練して装備させ、人びとを無理やり追い返しているのです。 

中南米からメキシコを経由して北米を目指す人びと © Juan Carlos Tomasi中南米からメキシコを経由して北米を目指す人びと © Juan Carlos Tomasi

数週間前、私はメキシコと中南米にいました。そこにいたのは、母国で暴力と脅迫に遭い逃げだした人びとが、逃げた先でまた搾取と虐待に遭うという悪夢の輪にはまっている人びとでした。

人びとは、行く手には苦しみが待っていると知っています。それでも道をたどり始めます。危険を知りながら、歩みを止めません。避難の道中にレイプされる可能性があると覚悟して、女性と少女は避妊します。暴力に満ちた母国と、かすかな希望が見える未来のどちらかを選ばざるを得ないのです。 

母国ホンジュラスで脅迫を受け、メキシコへ逃げる途中で暴力に遭った夫婦 © Marta Soszynska/MSF母国ホンジュラスで脅迫を受け、メキシコへ逃げる途中で暴力に遭った夫婦 © Marta Soszynska/MSF

メキシコでMSFによるケアを受けている移民の68%は、米国に向かう途中で暴力に遭ったと話しています。女性のうち3分の1は性的虐待に遭っています。メキシコで移民と難民に対しMSFが行っている診療の4分の1は、身体の負傷か自傷行為によるものです。

世界中、さまざまな場所で移動している人びとは、同じ思いを抱いています。母国で激しい暴力や絶望的な状態に直面したことで、大きな危険を冒しても避難の旅に出るほうがいいと思えるようになるのです。苦難を生き残った人が選ぶ旅です。そんな風に追い詰められていい人間が、いるでしょうか。 

ナウル島で心のケアを受ける患者 © MSFナウル島で心のケアを受ける患者 © MSF

2018年10月、MSFは太平洋南西部のナウル島から24時間以内に退去するよう行政命令を受け、心の状態が危険な大勢の患者を置いて出ていかざるをえなくなりました。ナウルでは、難民や保護を求める人がMSFの治療を受けており、患者の30%は自殺未遂を起こし、また60%は自殺を考えたことがあると回答しています。 

レスボス島の難民キャンプで暮らすアフガニスタン出身の一家 © Robin Hammond/Witness Changeレスボス島の難民キャンプで暮らすアフガニスタン出身の一家 © Robin Hammond/Witness Change

ギリシャのレスボス島では、難民の子どもたちがグループ療法セッションに出ていました。そのうち4分の1が自傷行為をしたり、自殺願望を抱いたり、実際に自殺未遂を起こす経験をしていました。MSFは1年以上にわたって、難民や移民の心の危機について声を上げてきましたが、なにひとつよい方向には変わっていないのです。

移民を制限することで、「成功している」と言われる政策は、人を犠牲にして「成功」しています。安全とよりよい人生を求めている人びとから、人格を奪い、命を奪っているのです。

双子の子どもを連れてイラクを出た難民の一家 © Giuseppe La Rosa/MSF双子の子どもを連れてイラクを出た難民の一家 © Giuseppe La Rosa/MSF

グローバル・コンパクトは、熱い政治論争の中心にありますが、その政治論争では、最も重要な「人命」が軽視されているのです。

今、暴力と貧困から逃れて来る人を犯罪者扱いし、人格を剥奪する協調介入が行われています。人間をまるでウイルスのように描き、恐がり、封じ込めるべき物としか見ていません。

はっきり申し上げます。現行の移民関連の政策は、移動中の人びとをさらにひどい虐待と搾取に追いやっています。今起きているのは、理不尽な勾留、人身売買業者による虐待、性的暴行、売春行為の強要です。

私たちの誰一人にとって、命を救うことは犯罪ではありません。困っている人を助けるのは犯罪ではありません。それなのに、世界中でMSFの医療活動は政治的な妨害に遭い、法的嫌がらせを受け、暴力まで振るわれています。移動中の人を助けようとすると、非難され、嫌がらせをうけたり脅されたりするのです。

それでも、実に多くの個人や地域社会が、世界中で人道的な政策を支持し、苦しみを和らげるために実際に行動しています。扉を開けて、移民を家に迎え入れる人びとも目にしてきました。地域で炊き出しをして人びとに食事を出したり、地元の町で支援を申し出たりする市長もいます。
 

MSFのソーシャル・ワーカーがメキシコの難民センターで女性たちの心のケアをする © Marta Soszynska/MSFMSFのソーシャル・ワーカーがメキシコの難民センターで女性たちの心のケアをする © Marta Soszynska/MSF

みなさんにお願いします。どうか諦めないでください。私たちはみなさんの支持を必要としていて、みなさんの行動が不可欠です。

MSFは人に思いやりのあるグローバル・コンパクトを歓迎します。今の移民政策がもたらしている、膨大な苦しみを和らげる取り組みを。

移動中の人びとが耐え忍んでいる暴力を、見て見ぬふりは許されません。彼らの絶望を無視してはいけません。今、何が起きているのか知らないふりをしてはいけないのです。

人道的な政策をとりましょう。移民を犯罪者とすることに反対しましょう。命を救う活動を犯罪とすることに反対しましょう。移民は犯罪者ではありません。救命活動も犯罪ではありません。政府代表のみなさんには、行動する力も義務もあります。人の命がかかっているのです。

ご清聴ありがとうございました。
 

移民に関するグローバル・コンパクト」は、2018年12月10、11日にモロッコのマラケシュで政府間会議が開催された。世界各地で、紛争や暴力から逃れるため人びとが移民・難民となり国を超えて移動しているなか、安全で合法な移住の枠組みが整備されることを目的とした取り組み。2016年9月の国連サミットで「ニューヨーク宣言」が採択され、2018年に「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト(移民グローバル・コンパクト)」と「難民に関するグローバル・コンパクト」の採択することが決まった。人道主義的、また人権を尊重した国際移住が行われ、難民や移民がどんな在留資格の状況にあっても、人が人として尊厳を持って扱われることを目指している。 

(「難民と移民に関するグローバル・コンパクト」を「移民に関するグローバル・コンパクト」に修正しました)

関連情報